翡翠の千夜千曲

翡翠の千夜千曲

音楽を学びたい若者で困難や悩みを抱えている人、情報を求めている人のための資料集

Rachmaninov, suite for two piano, op. 5. Lugansky - Rudenko

 

 

 

 天気情報によれば、今日は夏日を超えて真夏日に近い気温になると言っています。その朝に聞くのは、ラフマニノフの組曲第1番「幻想的絵画」です。

 ラフマニノフ20歳の作品です。いかにも青年らしい瑞々しさとセンチメンタリズムに溢れ、ある場所では煌びやかで伸びやかなエネルギーを持った音楽になっています。

 正確な名称は、2台のピアノのための組曲第1番「幻想的絵画」作品5です。1893年に作曲された「2台のピアノのための幻想的絵画」とも呼ばれています。ロシアピアニズムには4つの大きな潮流があると言われていますが、ラフマニノフがこれらのどれにあるのかは分かりません。しかし、流れを辿っていくとアイルランド出身のジョン・フィールドはムツィオ・クレメンティに学び、一緒にロシアに延焼旅行に行っています。彼は、モスクワとサンクトペテルブルクに長く滞在して作曲・演奏活動を行い、後に「近代ロシア音楽の父」と呼ばれることになるミハイル・グリンカを指導するなど、ロシア音楽の発展にも大きく寄与しました。

 アレクサンドル・イヴァノヴィチ・デュビュークはこのジョン・フィールドに学び、後にミリイ・バラキレフとニコライ・ズヴェーレフにピアノを教えています。そのズヴェーレフの家に寄宿してピアノを学んだのがラフマニノフなのです。ズヴェーレフの門下生の多くは、彼の家に寄宿していましたが、問題児が多く寄宿していたため、「動物園」と呼ばれていたそうです。けれども、この家ではみな毎朝6時に起き、朝ごはんの前にまず3時間のピアノ練習をすることが課題となっていました。そうしたスパルタ教育を乗り越えてラフマニノフのヴィルトオーソが誕生するのです。
 さて話を戻しましょう。この曲が初演されたのは、1893年11月30日にモスクワで、ラフマニノフ本人とパーヴェル・パプストのピアノで行われました。曲はチャイコフスキーに献呈されていて、チャイコフスキーもその初演を聴く約束をしていたのですが、その5週間前に他界をしてしまいます。
 組曲は4つの楽章から構成されていて、それぞれの曲にラフマニノフ自ずから「エピグラフ」が添えられています。作曲のインスピレーションを受けた詩を掲載します。これらは楽譜の各楽章冒頭に印刷されました。

第1楽章 アレグレット、ト短調、4分の3拍子。

「舟歌」(ミハイル・レールモントフ)
おお、涼しいゆうべの波が、
ゴンドラのオールを静かに打つ。
―あの歌がまた! またギターで鳴る!
―遠くでいまは、憂鬱そしてまた幸せに、
聞こえるのは古い舟歌の響きか、
「ゴンドラは水面を滑り、
時も愛とともに飛び去る、
水はふたたび穏やかになり、
情熱はもはや高まらない」


第2楽章 アダージョ・ソステヌート、ニ長調、4分の3拍子。
「夜―愛」(ジョージ・ゴードン・バイロン)
ナイチンゲールの高いさえずりが
枝から聞こえる時刻に、
恋人同士の誓いあう囁きが、
穏やかな風や近くの水音が、
孤独な者の耳に音楽となる。
 

第3楽章 ラルゴ・ディ・モルト、ト短調、4分の4拍子。
「涙」(フョードル・チュッチェフ)
人の懸念、おお、人の涙!
お前は朝から晩まで流れ、
人知れずに、目に見えずに、
無限に、無数に流れる、
まるで土砂降りの雨のように、
秋の夜の深遠の中に流れる。
 

第4楽章 アレグロ・マエストーソ、ト短調、4分の4拍子。
「復活祭」(アレクセイ・ホミャコーフ)
強大な鐘の音が大地を越えて鳴り、
大気のすべては嘆き、おののき、苦しむ。
美音の銀色の雷鳴は、
聖なる勝利の知らせを告げる。

 

※ 以前の記事

○ ラフマニノフ 「幻想的小曲集」

○ ラフマニノフ  幻想的小品集より「エレジー」

○ ラフマニノフ「リラの花」

○ 希望音楽会 ラフマニノフ「パガニーニの主題による狂詩曲」

○ ラフマニノフ「死の島」作品29

○ ラフマニノフ「岩」

○ ホルンの出番です66 ラフマニノフ「ヴォカリーズ」を吹く

○ ラフマニノフ「ユースシンフォニー」ニ短調

○ ラフマニノフ「白鳥の歌」

○ ラフマニノフ「ピアノ協奏曲2番」他 ロマン派の音楽㉖

 

演奏会

※ 演奏会のお知らせ⑯ ヴァイオリン二重奏演奏会

 

※ 演奏会のおしらせ⑮日高市吹奏楽団第22回定期演奏会

 

※ 演奏会のご案内⑬ ダンシングフルートVol2

 

※ 演奏会のお知らせ⑭ 翡翠トリオピアノ三重奏の夕べ

 

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2台のピアノのための組曲・第1番「幻想的絵画」 Op.5(セルゲイ・ラフマニノフ)(ピアノ二重奏)

【Fantasy (Suite No. 1), Opus 5】

ラフマニノフ: 2台のピアノのための組曲 第1番&第2番、他

大嶺未来 、 高橋多佳子

【曲目】
1-4. ラフマニノフ:2台のピアノのための組曲 第1番「幻想的絵画」 作品5
1. I バルカローレ
2. II 夜・・・愛
3. III 涙
4. IV 復活祭

5-9. チャイコフスキー/ラフマニノフ編:バレエ音楽「眠れる森の美女」組曲 作品66a<4手連弾>
5. I 序曲、リラの精の踊り
6. II アダージョ、パ・ダクシオン
7. III 性格的な踊り、長靴をはいた猫と白い猫
8. IV パノラマ
9. V ワルツ

10-13. ラフマニノフ:2台のピアノのための組曲 第2番 作品17
10. I 序奏
11. II ワルツ
12. III ロマンス
13. IV タランテラ

14. ラフマニノフ:前奏曲 嬰ハ短調 作品3ー2 「鐘」<2台ピアノ版>

【演奏】
大嶺未来(ピアノ)
高橋多佳子(ピアノ)

【録音】
2023年10月20日 東京文化会館 小ホール(ライヴ・レコーディング)