ポエム 消えることのない火 | 法橋太郎のブログ

法橋太郎のブログ

ポエム 第九回歴程新鋭賞受賞

2021年アラブ語圏にてゴールデンプラネット賞受賞

消えることのない火

 

右手にあった、失った池を思いながら、そ

の白壁の塀のぬかるんだ細道をいつも歩い

ていた。白壁の塀はすっかり剥がれ落ちて、

黄土色に剥がれ、さらに深く灰色に剥がれ

ていた。失った友、失った家郷。

 

その白壁から柘榴の樹が一本あって、おれ

の眼を楽しませていた。柘榴の花を遠めに

見て、また近寄って、柘榴の実を見ていた。

去年は無くなった柘榴の実を見た。変貌す

る景色のなかで、おれは不変異のこころの

ままでいる。

 

この町の住人もすっかり変わり、時代を経

てまた変わってゆくのだろう。おれが見た

ものも、見なかったものも変化をやめない。

この世の倣いの変化だけが引き継いでゆく。

 

キーボードを打ちながら、おれの記録がす

べて虚辞とみなされても、それが変化する

ことはない。この世に生まれるかぎり、ひ

とびとの人生の行く末はすでに決まってい

る。

 

ひとびとの身心、また山川艸木、白壁にさ

え変わる変化そのものは不変なのだ。白壁

の塀の黄土色に剥がれ落ちたところには組

み入れられた藁と細い竹ひごを十字に編ん

でいるのが見えた。