ポエム 水霊のめぐり | 法橋太郎のブログ

法橋太郎のブログ

ポエム 第九回歴程新鋭賞受賞

2021年アラブ語圏にてゴールデンプラネット賞受賞

水霊のめぐり

 

岩壁の罅の入ったところどころから、沁みだ

してくる薄い水のヴェール。陽に輝いている

水の岩壁。おれは工事中の駅の構内にいても、

その罅より湧きだす水を視ることができる。

てのひらで触れれば、落ちくる流れのなかに

おれの熱いてのひらを冷たく覆う水。すべて

あたらしい水として、おれのてのひらから飛

び散って、わがいのちを純粋に熱くする。

 

生きているあいだは、目的を持ってもよいだ

ろう。穢れのない目的を。われわれの根底に

あるいのち。いのちのちから。われわれは奇

妙なことだが、一瞬の永遠を生きつづけてい

るのだ。馬鹿な楽しみは楽しみでも何でもな

い苦い過去になる他はない。生死と言えばそ

れまでなのに、みずからのいのちに目覚める

ことなく哀れに死んでゆくひとたちよ。

 

地息する場所をたどり、ああ、岩肌づたいに

ながれくる水の音が聞こえる。その水は足も

との岩場の隙をはげしく零れおちていって、

また視界から消えるが、われわれのいのちを

潤すためにまた何処からか、眼の見えるとこ

ろへと経めぐって来るのだ。