独房 | 法橋太郎のブログ

法橋太郎のブログ

ポエム 第九回歴程新鋭賞受賞

2021年アラブ語圏にてゴールデンプラネット賞受賞

独房

 

鉄の扉が閉まった。外から閂を掛け、錠を閉

める音がした。壁のなかのまた壁。緩やかだ

った空間の密度が一気に高くなった。閉じ込

められた檻のなかの乾燥と陰鬱な毒虫の這う

タイル。それとほぼ同じ高さのビニールマッ

トにおれは横たわっていた。あらゆるものか

ら低くおれは眠らなければならなかった。拳

一個がどうにか入る壁際の鉄格子。時間は与

えられた分量だけの水で測られるのだ。

 

時間はすでにとまっていた。コンクリートの

天井の高さだけがおれの慰めだった。それか

らイメージが枯渇していった。干乾びた川ば

かりが脳裏に浮かんだ。干乾びた川には、テ

ーブルや椅子、あるいは皿などが半ば沈みこ

んでいた。もっとも、そのことに気づいたの

は、歌のとびっきり上手な女の子が収監され

てからのことだった。彼女の歌声が、おれの

干乾びた川を振動させたのかもしれなかった。

 

ちょうどパズルのワンピースを当て嵌めてゆ

くようにそのとき、おれの脳髄に組み立てら

れてゆくものを感じた。彼女の歌声に伴って、

時間が生まれ、それら家具や什器から水が沁

みだしたのだ。水は沁みだし、やがて流れだ

した。上流から下流へと、それとわかるほど

の一本の川ができた。それを感じるまで、こ

こで死ぬことがあれば、おそらくおれは悪霊

になるだろうとさえ思っていたのだ、一歩さ

えも踏み出すことのできないあの独房のなか

で。