独房
鉄の扉が閉まった。外から閂を掛け、錠を閉
める音がした。壁のなかのまた壁。緩やかだ
った空間の密度が一気に高くなった。閉じ込
められた檻のなかの乾燥と陰鬱な毒虫の這う
タイル。それとほぼ同じ高さのビニールマッ
トにおれは横たわっていた。あらゆるものか
ら低くおれは眠らなければならなかった。拳
一個がどうにか入る壁際の鉄格子。時間は与
えられた分量だけの水で測られるのだ。
時間はすでにとまっていた。コンクリートの
天井の高さだけがおれの慰めだった。それか
らイメージが枯渇していった。干乾びた川ば
かりが脳裏に浮かんだ。干乾びた川には、テ
ーブルや椅子、あるいは皿などが半ば沈みこ
んでいた。もっとも、そのことに気づいたの
は、歌のとびっきり上手な女の子が収監され
てからのことだった。彼女の歌声が、おれの
干乾びた川を振動させたのかもしれなかった。
ちょうどパズルのワンピースを当て嵌めてゆ
くようにそのとき、おれの脳髄に組み立てら
れてゆくものを感じた。彼女の歌声に伴って、
時間が生まれ、それら家具や什器から水が沁
みだしたのだ。水は沁みだし、やがて流れだ
した。上流から下流へと、それとわかるほど
の一本の川ができた。それを感じるまで、こ
こで死ぬことがあれば、おそらくおれは悪霊
になるだろうとさえ思っていたのだ、一歩さ
えも踏み出すことのできないあの独房のなか
で。