手紙 | 法橋太郎のブログ

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ポエム 第九回歴程新鋭賞受賞

2021年アラブ語圏にてゴールデンプラネット賞受賞

手紙
F・W氏に

彼女とは合コンで出会った。彼女は医者だっ
た。彼女は歌舞伎部でおれは文学研究会に所
属していた。合コンといっても、はじめから、
打ち合わせたわけでなく、たまたま、大学の
近くの飲み屋で一緒になったのだ。

二次会で彼女はほかの男の膝に腰掛けようと
して、やっぱりこっちがいいかしらと、おれ
の膝に坐った。翌日、おれの部屋で目覚めた
彼女は、自分が何処にいるのか分からないと
言った。ちいさな部屋だった。そのあと、麹
町の彼女のマンションで再びふたりは抱き合
った。

彼女が京都に行くとき、おれが遅れたので、
彼女はさきに行ってしまったようだった。お
れは京都駅で彼女が東京に帰る電車を待ちつ
づけた。結局、彼女は最終列車に乗ったとあ
とから聞いた。彼女は古風なところのある女
性だったので、そのことを聞いて、とても喜
んだ。

彼女は袖振坂で撮った振り袖姿の写真を見せ
て、大原麗子に似ているでしょと言った。じ
っさい、彼女は大原麗子にそっくりだった。
おれは医者の内部事情を面白く聞いた。彼女
は、だから、美人は得なのよと、言った。彼
女は男好きだったので、医学部以外でも、い
ろんな男と寝てきたらしい。ただ若い学生は
おれが初めてだったと言った。

それからも遠慮なしに様ざまな男と寝たらし
い。おれの大学の先生とも寝たらしい。その
先生が、彼女がおれのことを心配していると
伝えたからだ。彼女とおれは会うことが少な
くなっていった。彼女からは、それでも何十
通という手紙をもらった。その手紙は散逸し
たが、持っておけばよかったと思うこともあ
る。今になって、その手紙にしたためられた
彼女の愛情が、彼女のちょっとハスキーな声
でおれの耳の奥に聞こえてくるのだ。