※ネタバレがあります
野球少女
野球映画の肝
監督:チェ・ユンテさん
出演:イ・ジュヨンさん、他
前情報なし・予告も見てない状態でしたが、野球映画ということで観てきました。私は小中高野球部。今でも高校野球を地方予選から追い、プロ野球も毎日チェックする野球ファンでもあり…というのが私の野球へのスタンスです。てなわけで、観てきた「野球少女」、とても残念な映画でした!
プロ野球選手になりたい女子高生(投手)がプロを目指すというお話の「野球少女」。ネタバレになりますが、映画の最後にこの主人公はプロ野球選手になります。脚本上この筋を引いた以上、最も重要な課題となるのは、観てる側に「この主人公はプロ野球選手になった」ということを納得させること。ここの説得力が何よりも大切だと思うのです。
しかしこの映画、ラストの結末に至るプロセスに「野球描写」として論理的にも画的にもまったく説得力と積み上げがないのです。。ほんとに残念でした(唯一説得力があったのはあの女性打者だけ)。母と娘の物語としてはグッときましたが、「野球映画」としては駄作だと思いました。
まず野球映画のリアリティにおいて何よりも大事なのはフォームです。今回の主人公は投手ですから、彼女の「投球フォーム」が物語に説得力を持たせるための、また彼女がプロ野球選手になるというリアリティを担保するためにも、何より大事な要素なのです。
野球映画において、投球フォームというものを演出家は舐めてはいけません。どんなに良い脚本良い撮影でも、身体的論理に反する投球フォームひとつで全ての説得力が皆無になるんですよね。ここをちゃんとできてる野球映画って実は少なかったりします。今作の内容ならなおさらここは重要だったと思うんですよね。彼女の投球フォームが映画全体を引っ張るこの映画、なぜここをしっかり詰めなかったのか…。野球関係者は中にいなかったのか?と思ったりします。てっきり中盤に投球フォームをいじって投手として成長する展開があるのかと思ってましたが…。彼女の投球フォームが美しくないというのはこの映画においてどんな要素よりもマイナスになってると野球モノとしては思います。この映画において野球描写として説得力のある身体性を持っていたのはトライアウトで出てくるあの女性左打者。あの人はたぶんホンモノ。見てて魅力的でした。
あとそこからの展開も残念なものばかりで、彼女がプロ野球選手になるまでのプロセスがどうも感情論・根性論で処理されるというのが残念。回転数の高いストレート、MAX130キロ、最近覚えたナックル。映画で示される彼女の投球の特徴はこの3つだけなんですが、さすがにプロ野球選手になるという結末にいたるにはなにもかもが足りていませんし、最終兵器がナックルっていつの時代の野球?と思ったりと、明らかに脚本を書く前のキャラ造形の時点で、彼女の「投手像」がアイディア不足だし、そこからプロ野球選手になるというリアリティに対するアプローチとしても明確にアイディア不足だと思いました。
そこに付随する点ですが、彼女の練習描写も「?」の嵐。そもそもプロ野球選手になりたいのになるための戦略が高校卒業直前まで全くない時点で主人公としての魅力が皆無だし、スポーツ科学が進化したこの時代に今それをやるの?っていう血まみれで投げ込みまくる投球練習シーンとか、もろもろに萎えました。昭和の野球かな? 彼女の投球に対する撮影もカット割過ぎだと思います。投球フォームだけでなく、彼女の投球内容自体に魅力が感じられない撮影になっていて、残念でした。フレッシュさがまるでなかったです。
全体的にあまり野球をあまり本気で描く気はなく、重要なのは、ジェンダー問題であり、娘と母の物語であり、というのはわかるし実際その2点はかなり良かったですし、グッときました。しかし、「野球」しかも「プロ野球選手」になる話ですから、その野球描写がしっかり描かれていない野球映画は映画として論外。今年ワースト候補です。
良い話ですが、ただの良い話なら紙芝居で充分。身体性を伴うのが映画です。
去年の「アルプススタンドのはしの方」といい、やっぱり野球映画にはどうしてもいろいろ言いたくなってしまう。ごめんなさい!いつになったら、野球映画として納得できる野球映画が出てくるんでしょうか!!!とにかく言いたいのは「フォーム」を舐めてはいけません製作のひと!ということです。そこが、野球映画の肝です。