さよならテレビ
テレビ局員もサラリーマンである
監督:土方宏史さん
みんな大好き東海テレビのドキュメンタリー、遅ればせながら見逃していた「さよならテレビ」の上映があったので観てきました。おもしろかったです!
「隣る人」「人生フルーツ」「ヤクザと憲法」などともかくどれも見逃すことのできない傑作を送り出してきた東海テレビのドキュメンタリーシリーズですが、今回の被写体はまさかの「東海テレビ」自分たち。東海テレビの報道部、いまテレビの内部がどうなってるのかを映し出す映画となっておりました。
とっかかりがまずおもしろくて、報道部のデスクにマイクを仕込んだり、カメラを置いたり撮り始める準備を進めるんだけど、報道部側から文句が出るんですよね。ここがまず構造としておもしろい上に批評性があって良かったです。「普段政治家とかにある種無理やりカメラを向けてる側だから、ここは甘んじて受けて欲しい」という製作側の思いがあったんですが、ここは受け入れてもらえず…。この撮りたい!撮るな!のやりとりだけでもまずはおもしろかったですね。
まぁなんやかんやで撮り始めるわけですが、テレビ局員もサラリーマンであるというのを浮き彫りにしてく感じが興味深かったです。テレビ局といえどいち企業なわけで、「働き方改革」の報道をしつつ、メディア側も働き方改革をやってかなきゃならない、でも減らぬ残業。。
あと、主要被写体3人のうち2人が契約社員なんだけども、この2人の契約社員の物語はほんとに胸にくるものがありました。働き方改革で人が足りないからと契約社員を入れるわけだけど、仕事ができなければ一年で卒業させられる(a.k.a.クビ)。テレビ局の理念として弱者の側に立つというのを掲げつつ、仕事のできない弱者は容赦なく切っていくという体質の矛盾が浮き彫りになるあの若い契約社員の物語はいろいろな気持ちになりましたね。。
もう1人のベテラン契約社員の記者さんの物語も良かったです。やりたい「政治を監視する」というメディアの役割としてのジャーナリズムと、でも「是非ネタ」という地方テレビ局に良くあるスポンサーを立てないといけない企業紹介企画の間で揺れるという描写も、テレビ局員もサラリーマンなんだよなぁというのを浮き彫りにしてて、見応えがありました。
あと全体として、テレビ局も今明らかに人材足りてないんだなぁというのは強く感じましたし、体制としてもう余裕がないんだなというのはとても感じました。地方というのもあるかもしれませんが、外の人間からするとエリートが集まる花形の仕事というイメージがありますよね。しかし、いやテレビ局員もサラリーマンなんだよな、と。他の地方企業とあまり変わらないんだなというのは今回とても感じましたね。メディア論的なおもしろさもあるんだけど、なによりその前に組織論としてとてもおもしろかったです。
メディア論としてかなり批評性のある芯の食った着地を見せる最後の大仕掛けは、かなり演出過剰な上に正直今これをやってもあまり新鮮味はないかなぁと思いつつ、テレビ局側がこの着地を用意したという構造はかなり推せるというかかっこいいなと思いました。僕たちは何を信用すれば良いんでしょうか、メディアに対して不信感が募ってきているこの昨今ですが、それでも中にはやりたいジャーナリズムを持って奮闘している人は確かにいるし、それぞれ葛藤しながら日々仕事をしている(あのアナウンサーとか泣けたなぁ)。そんな少しばかりの希望もそっと提示する映画でもあって、良いお仕事映画を観たなと思いました。東海テレビドキュメンタリー、今回も見応えバツグンでした。