すばらしき世界/見ないようにしてるだけ | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。




すばらしき世界


見ないようにしてるだけ
監督:西川美和さん
出演:役所広司さん、他


西川美和監督作ということで「すばらしき世界」を観てきました。大変素晴らしかったです。西川作品でもかなり好きな方の映画でした。


思っていたよりもかなり射程の長い映画というか、見据えてるところが深く、圧倒されました。雪の刑務所シーンから画面に惹きつけられる素晴らしい撮影。頭からお尻まで撮影がとにかく良かったですし、なにより演者とキャラクターの相性やなにより生きた人物だなと感じられる血肉の通った感じはさすが西川美和と感じました。特に梶芽衣子さん、良かったなぁ。

刑務所に入ってた元殺人犯のヤクザが、刑期を終え刑務所から出た場合、その後どんな生活をしていくのか…というそういえばありそうでなかった設定だなと思いましたし、正直そのプロセスは知らないところだったのでめちゃくちゃおもしろかったです。役所広司が今の社会と折り合い、価値観というか生き方をすり合わせていく過程で、今の社会の不条理だったり変なところ、目をつぶってるところが浮き彫りなってく過程は秀逸でした。観客との橋渡し役に太賀さんを置いたのも良かった。

あと、個人的にはちょっとしか出ないながらも長澤まさみの圧倒的な存在感が印象に残りました。焼肉屋に真っ白なノースリーブニットという明らかに絵的にも存在的にも浮いた存在として描いてる衣装演出が上手いし、意地悪な長澤まさみの使い方として新しいなとか思ったり。


クライマックス、ある人から雨の中花束をもらうシーンが忘れられませんね。この映画でも屈指のシーンだと思います。すばらしき世界ってなんなんでしょう。確かにこの世界はすばらしい。でもそれって目の前に実はある不都合な事柄を見ないようにしてるだけ、というかそれ以前に私たちが気づいてもいないから、なのかな。その視点を観客に与えてるところがこの映画のすごいところだし、好きなところです。すばらしき世界というタイトルが皮肉にも響きつつ、でもあのラストシーン、役所広司の部屋に集まったあの人々の気持ちは確かなものでもあって、このタイトルが何重にも響いてくる映画だったなと思いました。とても見応えのある一本でした。