ミッドサマー/救いと絶望 | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。



ミッドサマー


救いと絶望
監督:アリ・アスターさん
出演:フローレンス・ピューさん


アリ・アスターの新作「ミッドサマー」を観てきました。前作「ヘレディタリー」はその年の年間ベストに入れたほど大好きだし、まぁ今回ももちろん楽しみにしておりましたよ。劇場はコロナウイルスの影響かまじガラガラでした。

いやしかし、今回もものすごくおもしろかったです!


まず何がいいって序盤のツカミですよね。まだスウェーデンに行く前の場面がことごとくいい。主人公の家族に起きるあるショッキングな事件の写し方がほんとに怖いしうまいしで、ほんとにアリ・アスターはどんな場面で映画を撮ってもうまく撮ってくんだろうな今後も…なんてことをこの時点で思ったかなぁ。そしてその事件と並行して描かれる主人公の彼氏とその友達のやりとりや、主人公と彼氏の関係性など、振り返るとすべてがここにあったかのような心理的なというか人間関係の伏線を周到に張りつつ、キャラクターたちもそれぞれこの時点でちゃんとたたせてて、なによりこの映画は序盤が好き!とこの時点で心掴まれましたね。


スウェーデンに行ってからはほんとにいろんなことが起こりまくるし、俺は何を観させられてるんだという気持ちにさせてくれるという時点で最高なわけだけど、個人的には、人間が宗教に救われる(または、取り込まれる)プロセスみたいなものをとても綿密に描いた作品だと思いました。

家族を失い、唯一の頼りの恋人にもなんとなくめんどくさがられてるという孤独な中、世間一般から見るとどんなに間違っている組織であっても、自分の感情を共有してくれて認めてくれるコミュニティというのはたしかに彼女にとっては救いであり居場所になるんだよなぁ…。あのラストの笑顔は、とても複雑ではあるし、肯定されるべきとは言い難いけど、でもあそこにある微かな救いは否定されるべきものではないとも思うというかね。

僕らの周りにあるなんか怪しい新興宗教とかも、誰かにとっては間違いなく救いそのものであり、誰かの命を救っているものかもしれない…というかそうなんだろうなぁなどと感じちゃいました。でもそれって、ある種の洗脳にも近くて、この映画でもある種組織的な出来レースのように彼女を取り込んでいくようにも見えるシーンも多くて、救われたんだ!よかったね!とは決して言えないというこの組織というものが個人にもたらす救いと絶望みたいなもの両方をラストには感じたかなぁ。ハッピーエンドともバッドエンドとも言えないけど、でもどっちとも言えるというかね。この複雑な後味、思考を巡らせ続けなければならない感じはとても好きです。

彼氏のクリスチャンがもっと彼女に寄り添い気持ちを共有してくれる存在ならば良かったんだけどそもそもの物語のスタートがクリスチャンが彼女と別れようと思ってるところからのスタートだから、ヘレディタリーと同じく、はじまった時点からもう詰んでる話なんですよねぇ。どうすればこうならなかったのか、彼女を救えたのか、いや救われたのか、いや取り込まれたのか。今後彼女はどうなっちゃうのか。ヘレディタリーの時とはまた違った思考の促されかたというか、違う後味をいただきました。とても楽しみました。