ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
タランティーノによる優しきおとぎ話
上映時間: 159分
監督: クエンティン・タランティーノさん
出演: マーゴット・ロビーさん、レオナルド・ディカプリオさん、ブラッド・ピットさん、他
タランティーノの新作ということで、楽しみに待っていた「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」観てきました。とっても良かったし、温かい気持ちになる優しき傑作でした。
映画全体の空気感がまずとてつもなく心地よくて、多幸感に溢れてる感じが凄くして、描かれる街並みや人物たちのなんとイキイキとしていることか…と画面を観てるだけで2時間40分があっという間でした。散文的な構造もプラスに働いてました。でも、観客はシャロン・テートはあの日に殺されるという事実を知ってるため、その事実がシャロン・テートの登場時点からサスペンスとして機能し、ハッピーで多幸感のある日常だけどもなんとも言えない緊張感も常にあってね。
またそのシャロン・テートを演じたマーゴット・ロビーがもうほんとに素晴らしくて。タランティーノがこれでもかと愛情たっぷりに切り取ってて彼女が出てるシーンはどのシーンも最高級の美しさとキュートさ、そしてやっぱり切なさもあり。特に彼女が映画館でサイレンサー破壊部隊を観るシーンのなんとキュートでなんと切なく幸せなことか!スクリーンにはマーゴット・ロビーではなく本物のシャロン・テートが出てることや、周りの観客の反応に心底嬉しそうな顔をするマーゴット・ロビー。ここのシーンのマジックっぷりはちょっと凄いものがありました。ただ映画を観るシーンなのに、ここまで込み上げてくるものがあるかと、感動しました。泣いた。
メインストーリーのひとつの、ディカプリオとブラピ、ほんとにこれもキュートで、彼らの魅力を過去最高級に感じることができるというのもこの映画のすごいところ。ブラピは枯れた味わいととびきりのナイスガイっぷり。ここまでブラピをかっこいいと思ったのはファイトクラブ以来かな。ディカプリオとの相性、相棒感も最高。色々と真逆な2人なんだけど、序盤いきなり泣くディカプリオを慰めるブラピというシーンを見てもうこいつら最高かよと序盤でいきなり2人のバディ感に掴まれました。ヒッピーを車に乗せてマンソンファミリーの溜まり場に連れてかれるシーンの一連のブラピの演技・演出もほんとに最高でした。
そして観る前の情報や想像よりも、突出して良かったのがディカプリオ演じるリック・ダルトンというキャラクター。とにかくすげぇキュートだし憎めない悲哀があってね…彼にはグッときまくり。思い通りに演技ができなかった彼が控えの車の中で暴れて自分を奮い立たせるシーンとかほんと笑える最高のシーンだし、それまでの彼の描きこみが素晴らしいので、最後そのうまくいかなかったシーンがうまくいって、予告にもあるけど少女に褒められて涙を流すというシーンがすげぇ好きで!
「働くおじさん映画」としてこのシーンはすごく素晴らしいんですよね、ほんとに小さなことかもしれないし、周りから見ると大したことじゃないじゃんって思われるかもしれないけど、でも我々も働いてるときの喜びってそっと少女から褒められたディカプリオのような、あぁいう瞬間にあるじゃないですか。社交辞令かもしれませんよ?でもあの瞬間のうれしさってすげぇわかるよなぁ、とまさかの「働くおじさん映画」の文脈でこの映画にグッとくるとは!と思いました。
そしてクライマックス、ここのタランティーノの優しさですよね〜。もっとドラマティックにしようと思えばいくらでもできたと思うんですよね。実際僕も観る前はもっとドラマティックなラストになると思ってました。でもここでシャロン・テートとマンソンファミリーを接触させない、という選択肢をとったことは、クライマックスをよりドラマティックにすることよりも、もっと尊い後味を残しててくれてて、最後の最後にクレジットが出るあたりはなんか心からのタランティーノの優しさと温かさを感じて涙涙でした。ブラピとディカプリオによる対マンソンファミリーシーンはほんと最高に笑えるスラップスティックコメディだったし、犬の万能っぷりとかラリってるブラピのおもしろさそしてかっこよさ、まさかのラストで回収!というディカプリオの火炎放射器とか、満足満足。あの悲劇の1日を、シャロン・テートにとっては何気ない1日で終わらせる、優しきおとぎ話。上品さと愛情。正直文句のつけようのない、個人的にもタランティーノ作品ではトップレベルの1本(しかも今までとはまったく違うベクトルで)になりました。とてもいい映画でした。