旅のおわり世界のはじまり/「前田敦子はたったひとりで映画の中にいるほうがいい」 | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。

 

 

 

 

旅のおわり世界のはじまり

 

 


「前田敦子はたったひとりで映画の中にいるほうがいい」

上映時間: 120分

監督: 黒沢清さん

出演: 前田敦子さん、他




黒沢清監督最新作、前田敦子主演「旅のおわり世界のはじまり」を観てきました。すごく変な映画だけど、すごく良い表せない魅力に満ちた映画でした。とても好きです。そして前田敦子、やっぱりすごい…。

 


黒沢清の前田敦子への興味・好奇心、もっと言うと偏愛みたいなものが、画面を支配する彼のフィルモグラフィーの中でもかなり特異な魅力に溢れた映画でした。「sevens code」もすごくその色はありましたが今回の突き抜けっぷりはすごい。そもそも黒沢さんってこの題名通り「旅のおわり」と「世界のはじまり」をずっと描いてきた人で、特に近作はほぼ全部このテーマだったと思います。ものすごく自己言及的な題名だと思うんですよね。このテーマが今回は前田敦子その人一点に集約される。歪なバランスの彼の映画はたくさんあるけど、その中でもどの映画の歪さとも違う。前田敦子が黒沢清を飲み込んだような映画でした。


この映画って前田敦子以外では絶対成立しない映画なんですよね。なぜかって、黒沢清が前田敦子の魅力を信じきる、または陶酔しきる、という前田敦子への偏愛がぶっとく軸にあるからで、それのみで出来てると言っても過言ではない。そりゃこれまでのどの監督作とも違うよなと、その偏愛っぷりが行くところまで行った清々しさみたいなものをとても感じる映画でした。いや〜良いもの観たー!という気持ちです。

 


ウズベキスタンで、世界不思議発見的な番組のリポーターをやる前田敦子。でも、ほんとは歌手になりたいという彼女はどこか所在無さげ、ここにいるようでここにいない。映画秘宝のインタビューで、黒沢さんは前田敦子のことを語ってて今回の秘宝インタビューは超おもしろいので必読なんですが。黒沢さんは「彼女はたったひとりで映画の中にいる方がいい」「孤高の存在である」と言ってて、まさにその魅力がいかんなく発揮されてると思いました。劇中何度も彼女が迷子になるんだけど、この「迷子」と「前田敦子」の相性の良いこと良いこと。ここではないどこかに心が向いてるけど、それは誰にも伝わらず、なんなら自分自身もよくわかっていない、どこに向かうのだろう。危うげで切ない、この「前田敦子的」としか言いようのない彼女の魅力のみで出来てる映画ですよこの映画(笑)広義の意味で「前田敦子論」とも取れる映画だなぁと思いましたし、実に「黒沢清論」的な題名の本作がそうなったというのもすげぇ面白いですよね。

 

あの謎の遊園地の遊具での相米慎二ばりの拷問を受ける前田敦子、半生のチャーハン的なものを食わされる前田敦子、迷子になる前田敦子、警察に追われる前田敦子、どれも歪んだ愛おしさが前田敦子に向けられてて、黒沢清の変態さが炸裂。見せ場だらけです。そんな中でも、2度歌われる「愛の讃歌」はもうとびっきりの魅力であふれています。なんなんだろうか、このラストの感触は。ここまでど直球に「愛」を歌い上げる黒沢清は、そしてそうさせた前田敦子は。ほんとに変な映画なんだけど、忘れがたい清々しさと愛情(偏愛)に満ちた、素晴らしい映画でした。