美人が婚活してみたら/私が、私であること | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。

 

 

美人が婚活してみたら

 

 

私が、私であること

上映時間: 89分

監督: 大九明子さん

出演: 黒川芽以さん、臼田あさ美さん、他

 

 

美人が婚活してみたら、っていう邦題で正直あんまり観る気が起きない1本だったんですよ実は。すげぇ上から目線な題名じゃないですか(笑) もちろん私はそっち側ではないので、大丈夫なのこの映画と思ってましたが、なんと監督が去年のベストにもあげた「勝手にふるえてろ」の大九監督の新作ということがわかり、上映が終わりそうなギリギリのタイミングで滑り込み鑑賞しました。結論から言うとほんとうに観てよかった!想像以上にものすごくグッときました。ほんと予想外でしたが、今年ベスト10入りの候補の1本です。すごいよね映画って、こんなもん感情移入できねぇだろって思ってたものに超感情移入させられて涙しちゃうんだもの( ;∀;)

 

 

大九監督の作品は「勝手にふるえてろ」しかまだ観てないんだけど、ほんとに主人公の追い込みがうまいですよね。ただ追い込むだけじゃなく、どうしようもなくそちらに吸い込まれるように追い込んでいくというとてもロジカルな追い込みをしてくるんですよね。

 

この「美人が婚活してみたら」もまぁ追い込む追い込む。この監督さんのポイントは、その原因はすべて主人公自身の内面(過去の経験・狡さ・さみしさなど)が原因であるということだと思います。周りがどうこうするというよりも主人公自身が自分で自分を追い込む方を無意識的に選んでいく。というか選ばざるを得ない…というほんとに吸い込まれるように穴に落ちていくんですよね。でもその追い込みの先にあるのは、吹っ切れた人間の強さ。様々な追い込みでボロボロになったその先に、新しい自分がぶっ生き返す、そして自分が自分であることを誇るという、そんな実は力強い「自分賛歌」の映画だったんじゃないかなぁ。

 

美人が!なんていう題名だけど、実はものすごく普遍的なお話だと思います。美人が美人であることから逃げられないように、誰だって私が私であることからは逃げられないもんじゃないですか。黒川芽以のあの弱さ、ダメさにもうすげぇ私は切なくなっちゃってね…。次元は違うかもしれないけれど、彼女の弱さがだんだん観てる私の自分の弱さに重なっていくような感じがあって、彼女の弱さを肯定したいし寄り添いたいとさえ思いました。


あの「寿司を食べる」という日常の行為からふとフラッシュバックする過去のトラウマ描写とかさ、鍋のフラッシュバックとか、彼女のさみしさやもろもろのタイミングやめぐりあわせとか、いろんな要素があの「田中圭への太ももタッチ」につながっていくという切なさ。すげぇエロイんだけどさ、だってほんとに吸い込まれるようにあのセックスにいくんだもん、ゴールがSEXのピタゴラスイッチみたいだったよ。でもさ、切ないんだよな~。事後、出ていく田中圭、彼を見る黒川芽以の表情、ベランダでのアメスピ、「セックスがしたかっただけなのかな…しょうもな」というひとりごと。要素だけを抜き出せば、美人のワンナイトセックス、でもここに至るまでの彼女を見てたら、なんか言葉にできない切なさをものすごく感じるし、ただの平成生まれの男が、30代美女の事後に思いをはせるなんてさ、まじ映画だなと思いました。

 

 

黒川芽以はほんとうに素晴らしかったのは言うまでもないですな。田中圭のうさんくさい演技は最高でしたし、思わずよかったのは中村倫也。まさか生きてて中村倫也を想う日が来るなんて思いもしなかったですよ。彼ほんとに絶妙ですよ。僕なんかもう黒川芽以になりきって観てるので、かっこいいしいい人で真摯な姿勢の彼は確かに魅力的だけど、でも彼女の琴線には触れないだろうなぁ……というのがほんとに観ててわかるという絶妙さ。これは難しいですよ。ほんとこの微妙なニュアンスをよくぞこんなにもうまく演じたなぁと思いました。あんないいホテルでもうほぼセックス直前まで行ってギリギリで拒否られ一人残されるという切なさ…君は何も悪くない…中村倫也さんに幸あれ…と心から思いました。彼はあの後泣きながらオナニーするんでしょうか…。でもそのあとの、黒川芽以の涙にもすさまじくグッときちゃって、あの彼女の涙のシーン、そうなっちゃった過程にもすごく納得がいくし彼女の気持ちによりそいきって観てるのでもうねたまらんですよあの涙は。自分の弱さ、最低さがすべてむき出しになった人間の涙…思い出しただけでも、あの黒川芽以の号泣シーンは、忘れがたい。涙が出てきます。

 

あとなんといっても臼田あさ美。名作「南瓜とマヨネーズ」も素晴らしかったですが、今回はまた違った方向で最高の臼田あさ美でした。この映画、彼女の話でもあるんですよね。彼女も限界だったし、彼女もつらかった、彼女も弱くてずるかった。でもやっぱり黒川芽以には彼女がいたし、彼女にも黒川芽以がいた。あの2人の友人関係も最高でした。最終的に臼田あさ美が芸術に昇華しようとして終わるというラストも気が利いてる上に、優しい救いで、とても好きです。

 

結局やっぱさ、人間「私が私であること」からは逃げられない。「私」という一番身近でやっかいな人間をどう受け入れ、どう折り合いをつけ、どう「私」を誇れるのか…「私」を認められるのか…。美人が婚活してみたら、という題名からは思ってもみなかったものをもらったなぁと、最後のプチミュージカルシーンからのエンドロールを見ながら思いました。

 

いやほんとにさすがは「勝手にふるえてろ」を撮った監督なだけあって、今回もすんばらしい作品だったし、なんなら今回のほうがもしかしたら個人的には好きかもなくらいに思います。

 

見逃さなくてほんとによかったです。