ファースト・マン/月という死の国で | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。

 

 

 

 

 

ファースト・マン

 

月という死の国で

上映時間: 141分

監督: デイミアン・チャゼルさん

出演: ライアン・ゴズリングさん、クレア・フォイさん、他

 



デイミアン・チャゼルの新作ですね。非常に賛否真っ二つに分かれる作家ですが、個人的に「セッション」はその年の1位、「ラ・ラ・ランド」はその年の2位にするほど、めちゃくちゃウマが合う監督だったりするので、当然すごく楽しみにしてました。てなわけで、「ファースト・マン」僕はすごく好きな映画になりました。

 

  

デミアン・チャゼルってずっと「2人」の物語を描き続けてて、今回は誰と誰のはなしだったかってことだと思いますな。最後の最後にわかりますが、これは終始、序盤で亡くなった娘とライアン・ゴズリングの2人の物語だったんですよね。ただやっぱこの人、その2人以外は眼中にないというか描く気がねぇ人だと思うんですよね。それは過去作を見れば一目瞭然ですが、興味がないというか、良くも悪くも。でもそれが今回は逆にハマったんじゃないかなと思います。


終始心ここに在らずで、感情も読み取れず、なにを考えてるかわからないライアン・ゴズリングですが、ハナからもうこの人には「娘」のことしか頭になく、他はもう見えていない人なんですよね。それが最後の最後にわかるんですよ。あぁずっとこの人は死んだ娘に心を囚われていたんだ、と。だからすごくシンプルな幽霊映画というか、心霊映画ともとれると思うんですよね。娘が死んだあの瞬間からライアン・ゴズリングは時間があの時点で止まっていたんですよね。その止まった時間が、やっと月にたどり着いたあの瞬間に、動き出したというか、人類で初めて月にたどり着くという偉業を成し遂げながら、でも彼にとっては、その瞬間に過去と決着をつけたという、すごく大きな物語を描きながら、実は小さな物語だったということに、グッときました。


そしてなによりうまいのは月面のシーンがそれまでの荒くうるさく騒々しいのと対比されてほんとに静かで美しい無が広がってるという撮影。IMAXカメラをここにだけ使ったというのがすごく効いてますよね。この対比がうまくいってるぶん、ちゃんと月が何もない死の空間に見えるんですよね。明らかに月を「あの世」として演出してると思います。ここは無であり、死の空間だなと。月という死の国で、あの子と決着をつけ、そして彼がもう一度生まれ変わるというお話なんですよね。完璧な撮影ですよ、この月面着陸は。

 

 

はなから娘と父の物語だし、ライアン・ゴズリングも娘のことに囚われ続けてる人なので、妻や息子たちがないがしろになってるというのも納得というか、存在感がすごく薄い息子たちは、あの描き方で正しいんですよね。だって彼には見えていないから。たぶんデイミアン・チャゼルも途中で忘れてたと思いますよ笑


でも、そんな彼が少し前に進んだのか?と思われるラストシーンも良くて、月に行くという途方も無いミッションを経てやっと心離れていた家族と向き合えた、という優しい感動のあるラストにも見えるし、一方で、それを経ても透明な見えない壁はやはりあって触れ合えてるようで触れ合えていないというちょっと悲しいラストにも見えるなぁと。このラストシーンはいい方にも悪い方にも取れますが、たぶんどっちもなんだろうなぁと思います。


まぁでも少なくとも、月に行くというミッションで、やっと死んだ娘と向かい合うことができ、少し彼の中で決着がついたラストだということは間違いない気がしてます。ずっと「2人」の物語を描き続けているデイミアン・チャゼルですが、やっぱりデイミアン・チャゼルだなぁ〜という映画になってましたし、その一歩先というか「2人」の物語がやっとラストで外に開けるとも見えるラストにちょっと彼の成長を見たような気がしなくも無い、でもデイミアン・チャゼル映画としか言いようのない、僕はとても好きな映画でした。