【映画感想】「寝ても覚めても」 | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。

 

 

 

 

 

寝ても覚めても

 

俺たちは、元カノを突き放せない。

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監督: 濱口竜介さん

脚本: 田中幸子さん、濱口竜介さん

出演: 東出昌大さん、唐田えりかさん、他

上映時間: 119分

あらすじ: 元カレにそっくりの今カレ

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東京出張のタイミングで、久々のテアトル新宿で鑑賞。

 

今年ベスト級の一本になりました。素晴らしかったです。圧倒されました。すごい。

 

映画.comのあらすじです

4人の女性の日常と友情を5時間を越える長尺で丁寧に描き、ロカルノ、ナントなど、数々の国際映画祭で主要賞を受賞した「ハッピーアワー」で注目された濱口竜介監督の商業映画デビュー作。第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品された。芥川賞作家・柴崎友香の同名恋愛小説を東出昌大、唐田えりかの主演により映画化。大阪に暮らす21歳の朝子は、麦(ばく)と出会い、運命的な恋に落ちるが、ある日、麦は朝子の前から忽然と姿を消す。2年後、大阪から東京に引っ越した朝子は麦とそっくりな顔の亮平と出会う。麦のことを忘れることができない朝子は亮平を避けようとするが、そんな朝子に亮平は好意を抱く。そして、朝子も戸惑いながらも亮平に惹かれていく。東出が麦と亮平の2役、唐田が朝子を演じる

 

付き合ってた彼女が、元カレのところに行っちゃった…っていう経験、あります?僕は、あります(笑) とにかくさ、めちゃくちゃ凹むんですよ。なんというのかな、まったく別の男ならまだわかりますよ。でも元カレっていうのがさ、なんというのか圧倒的な敗北感と不能感を感じるというかさ、「前のほうがよかった」ってことじゃないですか。「なんなの?」という怒りとかよりも、「俺でごめんなさい」という気持ちになって、悲しくてやりきれないというか、それはそれは絶望します。で、ですよ、そんな女の子に限ってもう一回戻ってくるんですよ。「私が間違ってた」「あの時はおかしくなってた」「許されないってわかってる」とか言って泣きながら「もう一回付き合って」「次はちゃんとするから」と言ってきます。その時の僕は、はーいほーら戻ってきたという安心と安堵、、と同時に訪れるのは「このこは少なくとも元カレのところに戻った」という前科、不安、そして「どちゃくそセックスしたんだろうな…」という想像したくない地獄のような映像が頭に浮かび、結果、無表情になります。感情が死にます。あの安心感、不安感、怒り、様々な要素の入り混じった、でも彼女を最終的には家に上げる東出君。そう、結局僕たちは、元カノを突き放せない。これはなぜなんだろう。この映画のクライマックス、あの時の俺やん…、そんな数年前の僕が思い浮かんだ、「寝ても覚めても」でした。ちなみに、しばらくEDになります。東出君もあの後しばらくEDになると思います。

 

ともかく画面全部が不穏で、緊張感にあふれていましたね。物語を振り返ると過去の男と今の男の間で揺れる女の子というよくある恋愛映画なんだけど、とてもそうは見えない。不穏で不気味で気持ちの悪い違和感に満ちたサスペンスホラーの皮をかぶった恋愛映画という感じでした。あらゆる場面に圧倒されました。素晴らしすぎる。最高。

 

東出くんが一人二役で、顔がそっくりの元カレと今カレを演じてるわけだけど、この2人は同じ人間なのか、元カレの頭がおかしくなったのか、いや今カレが頭がおかしいのか、いや頭がおかしくなったのはワタシなのか、なんなの?SFなの?ドッペルゲンガーなの?とにかく怖いし不気味!でも、今カレとの生活は幸せで、それは間違いなくて、でも!そんな、幸せな同棲生活の中にやっぱり確実にあった、ぬぐいされない彼女の心の中の一抹の不安と、後ろめたさ。観てるほうもとにかく不気味で不穏ですよ。そんな不穏な緊張感がハッと爆発してしまうというか、今まで言葉や意思で取り繕っていたけど、でも深層心理の中で捨てキレなかった元カレという可能性が、突然現れた時、自分でも気づかなかった、いや気づかないようにしていた真の自分が現れてしまそう。して彼女は行ってしまう。超スリリング。今年一番スリリングな映画でしたよ。

 

 

この映画、とにかく画面がすっと不穏で暗めでどんよりとしてるんだけど、そんな画面が文字通り晴れていくという、ラスト周辺に奇跡的なロングショットあるんですよ。あれ狙ったのかな?狙ってるよねたぶん。あれすごすぎるでしょ。今年のベストシーンのひとつですね。あそこであのシーンを入れているということは、少なくともこのサイテーだったけどぎりぎりのところで下した彼女の選択は、少なくともどこか前向きでポジティブなものだったのかな。それにしてもあのロングショットはすごかった。

 

ラストシーンのセリフ「汚い川」「でも綺麗」っていう二言。この相反する二つの要素。この映画って相反する要素の蓄積でできてたんですよね。人工的なんだけどリアルで、不自然だけど自然で、突き放してるようで見守ってて、冷たいようで暖かい。そして汚いけど綺麗。一言では言い表せない、相反する複雑な事象で出来上がってるのが、人間であり、僕らの世界であり、そして恋愛だなと。そして、これこそ、映画だ、これこそが観たかった映画なんだ、そんなことを思った「寝ても覚めても」でした。まだまだ何度も観て、いろんな解釈で頭をいっぱいにしたい。死ぬほど好きな映画です。素晴らしかった!

 

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好き度: 100点

あらゆる要素が最高でした

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