勝手にふるえてろ
「ザッツビューティフルサンデーだよ〜〜」
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監督: 大九明子さん
脚本: 大九明子さん
出演: 松岡茉優さん、渡辺大知さん、北村匠海さん、石橋杏奈さん、他
上映時間: 117分
あらすじ: 絶滅します。
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※ネタバレあり
2ヶ月遅れでやっと我が地域でも「勝手にふるえてろ」が公開されたので観てきました。
ものすごく好きな映画になりました( ;∀;)ヨシカ〜〜( ;∀;)
例によって映画.comさんからあらすじを拝借すると、
芥川賞作家・綿矢りさによる同名小説の映画化で、恋愛経験のない主人公のOLが2つの恋に悩み暴走する様を、松岡茉優の映画初主演で描くコメディ。OLのヨシカは同期の「ニ」からの突然の告白に「人生で初めて告られた!」とテンションがあがるが、「ニ」との関係にいまいち乗り切れず、中学時代から同級生の「イチ」への思いもいまだに引きずり続けていた。一方的な脳内の片思いとリアルな恋愛の同時進行に、恋愛ド素人のヨシカは「私には彼氏が2人いる」と彼女なりに頭を悩ませていた。そんな中で「一目でいいから、今のイチに会って前のめりに死んでいこう」という奇妙な動機から、ありえない嘘をついて同窓会を計画。やがてヨシカとイチの再会の日が訪れるが……。監督は「でーれーガールズ」の大九明子。2017年・第30回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品され、観客賞を受賞した。
てな感じ。
もうほんとに名シーン、名セリフだらけの映画だったんだけど、なんといっても松岡茉優!彼女がほんとに素晴らしかったです。とてつもない実在感と絶妙としか言いようのない演技。ほんっとにイラつくんだけど、同時にとてつもなくチャーミングで、もうこのヨシカというキャラクターが超大好きになってしまいましてね…もうヒマがあると「ヨシカ元気にしてるかなぁ」と考えてしまうほどであります(´∀`)個人的にはヨシカのファッションがほんといちいちすげぇ好きで、どれも可愛くてよかったなぁ。ファッションが語る微妙なヨシカの心情のニュアンス演出もすごくうまかったなぁ。ボロボロの靴とか、はたまたピッカピカのキメにいくハイヒールとか。
この映画、甘っちょろいこじらせラブコメかと思ってたんだけど、全然違って。ほんとにいたたまれなくなるくらい痛々しい展開の数々で、ヨシカという人物の七転八倒っぷりと、むき出しになる弱さにもう後半涙が止まりませんでした。
ヨシカは妄想女子で、脳内妄想で日々を彩ってきたんですよね。前半描かれる町の人々と仲良しげに話すシーンの数々、これらが実は彼女の妄想で、喋ったことすらない他人だったということが中盤のミュージカル大転換シーンで発覚します。そこに至るまでの流れが素晴らしくて、タワーマンションシークエンス。ここのいたたまれなさがほんとに素晴らしいんですよね。脳内で補完していた脳内彼氏イチと相対して、突きつけられる妄想ではない生身の現実。相手の脳内に私は存在していなかった…という。この現実を突きつけられるまでのあいだにただでさえめちゃくちゃどん底にメンタルが落ちてるところに(ここの痛さも素晴らしかった)、待ちに待った救いとしてイチと2人きりに!いける!と、思ったところでのこれだから、そりゃあもうね、意気揚々とピカピカのハイヒールを履いて家を出たのとは、真逆のほんとに想像だにしていなかったズタボロの帰宅になるわけです。そんなことがあって、彼女は今までおそらく現実を彩るための武器として使っていた妄想が使えなくなり、町の人々も現実の喋ったことのない人々に戻るし、妄想の中ですら一人ぼっちになっちゃうんですね。
「あっ、この会、思ってたのとちがう…」という感じになるあの気まずさ、あるよね…
こじらせラブコメという軽い入り口だけど、根幹はコミュニケーションについての映画だと思うんですよね。今まで妄想で補完してきた人間関係は、所詮妄想でしかない、自分自身が作り上げたものだから、つまり妄想を愛するということは自分を愛してるようなものなんですよね。そのしっぺ返しというか、妄想の「ツケ」が回ってくるかなりきつい映画だと思うんですよ。自分から見る他人なんて、所詮一面的なものでしかなく、もちろん他人は生きた生身の人間であるという現実を容赦なく叩きつけられるわけです、ほんとにヨシカにはキツイキツイ通過儀礼だったと思うし、このキツさ少なからずみんな経験してきたことじゃないですか。僕はもう後半なんか過去の恋愛経験のキツイ思い出が蘇ってきて、もうヨシカを抱きしめてあげたい気持ちでね…ひたすら涙が溢れてきました…。ヨシカもういいこれは泣いていい…(;_;)という中盤のタワーマンションシークエンスは白眉でした。
後半、二とうまく行きだすか…?というあの動物園デートとかもうすげぇニヤニヤしたんですが、同僚クルミちゃんの手回しを安易にバラす二のうかつっぷりのせいで(僕はクルミちゃんは悪くない派というか、あの子いい子だと思う。あれは二のせいだ!)、ヨシカは「処女がバレた。もうどうにでもなれ」とばかりに会社やクルミちゃんに当たり散らしすべてをほっぽり投げて引きこもり生活を開始!ここは、あるじゃん?すべて投げ出して引きこもりたいときさ?そういう我々のモヤモヤをやってのけてくれたというむしろ気持ちのいいくらいでしたけど、やっぱり痛い。クルミちゃんの留守電に「あぁ私なにやってんだろ」となる涙のシーンとかかなりグッとくるものがありました。
賛否両論のクルミちゃん、僕はいいやつだとおもうんだ
クライマックスもとても良くて。妄想を失い、同僚を会社を、すべてを失ったヨシカに、最大のピンチになんだかんだで寄り添ってくれた男、二!!二がほんとに今まで最悪だったんだけど(笑)でもここでの2人の感情のぶつけ合い、そしてヨシカがはじめて心を裸にしてこれまで避けてきた「コミュニケーション」をはじめて取るというこのラスト。通過儀礼のゴールとして、ほんとに感動的でした。これは演出の素晴らしさと思うんだけど、それまでダメだなぁこいつはと思っていた二がとてつもなくかっこよく見えるというのもどきっときたり。妄想という武器、そして現実の諸々すべてを失い、一度死んだヨシカが、もう一度、今まで諦めてたコミュニケーションで復活するのがほんとに美しいんですよね。
ラストの「付箋」の使い方とかもよかったなぁ。ヨシカの胸から落ちた赤い付箋に水がじわじわと染みていくというあの映画的シーン。心のしこりが1つ外れるシーンとしても、あと性的メタファーとしても観れるというか明らかに艶めかしく付箋を撮影してて、これは世界一艶かしい付箋でした。ともかくこういう細かい小道具の使い方とかすげぇうまかったなぁ。
なんだかんだでとてもお似合いだと思う
というわけで「勝手にふるえてろ」、妄想や空想の限界、自分と他者を隔てる壁という現実を突きつけつつ、最後はコミュニケーションというものの可能性というか、コミュニケーションとは?人と人とは?というところまで連れて行かれる素晴らしい映画だったと思います。長々書きましたが、要は大好きな映画だ、ということが言いたいだけなので未見の方は是非。素晴らしかったです!ザッツビューティフルサンデーだよ〜〜〜〜!!!!
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好き度: 90点
大好きな映画になりました!
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