スリー・ビルボード
微かな希望と巨大な暴力
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監督: マーティン・マクドナーさん
脚本: マーティン・マクドナーさん
出演: フランシス・マクドーマンドさん、ウッディ・ハレルソンさん、サム・ロックウェルさん、他
原題: Three Billboards Outside Ebbing, Missouri
上映時間: 116分
あらすじ: 悲惨な事件で娘を失った母が3枚の看板を立てます
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アカデミー賞でたくさんノミーネトされている「スリービルボード」を観てきました。どんなお話かほとんど情報を入れないまま行ったので、こんな話なのか!と驚きの連続でした。てなわけで、スリービルボード、
とてもグッときました(つД`)ノ
例によって映画.comさんからあらすじを拝借すると…
2017年・第74回ベネチア国際映画祭で脚本賞、同年のトロント国際映画祭でも最高賞にあたる観客賞を受賞するなど各国で高い評価を獲得したドラマ。米ミズーリ州の片田舎の町で、何者かに娘を殺された主婦のミルドレッドが、犯人を逮捕できない警察に業を煮やし、解決しない事件への抗議のために町はずれに巨大な広告看板を設置する。それを快く思わない警察や住民とミルドレッドの間には埋まらない溝が生まれ、いさかいが絶えなくなる。そして事態は思わぬ方向へと転がっていく。娘のために孤独に奮闘する母親ミルドレッドをフランシス・マクドーマンドが熱演し、ウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェルら演技派が共演。「セブン・サイコパス」「ヒットマンズ・レクイエム」のマーティン・マクドナー監督がメガホンをとった。
てなかんじ。
娘がレイプされて焼き殺された母親、フランシス・マクドーマンドが町の大きな3枚の広告看板を買い取って「娘がレイプされて焼き殺された」「犯人は捕まってこない」「ウィロビー(警察署長)は何をしてるの?」てなニュアンス(記憶あやふや)の看板を立てるところからお話がはじまりまして、ここから殺された娘の母親フランシス・マクドーマンド→警察署長のウッディ・ハレルソン→暴力警官のサム・ロックウェルへと主人公がどんどん入れ変わりつつ、しかもはじめに持っていた「この人はこんなやつだろう」という薄っぺらい僕らの印象をひっくり返していき、最後には思ってもいなかったところに連れていかれたという、そんな映画でした。
とにかく主役3人の演技がとてつもなく良かった。人間はみんな多面的だし、世間に広まってる表面的な印象の裏には、その人にしかわからない事実や抱えてるものがあるし、その人のその事実を知った時、人はいつだって変われるよ、という、このほんとに言葉では言い表しづらい「人間」という生き物そのものを象徴したような3人の主人公をよくぞこんなにもうまく繊細に、時にエキセントリックに演じきったもんだなと感服しました。そりゃ賞レースも席巻するよなと納得。
物語はほんとに目まぐるしく、先が見えず、観客を揺さぶり続けるんだけど、そんな物語の構造そのものが、この映画で表現される「人間」という生き物そのものとリンクしてるようでおもしろかったですね。そりゃ人間なんて決まったように始まって決まったように終わらないし、それこそ多面的で複雑なわけでさ、この映画そのものがまさに人間という生き物そのもののようでした。
あとはやっぱりこの映画を持っていくサム・ロックウェルのパートがほんっとに良くて。もうほんとにサイテーなクソ野郎がさ、死んだ上司からの手紙とオレンジジュースひとつでほんとにこれ以上ないくらいカッコいいヒーローに変わるんですよね(簡単にヒーローと言っていいのかというバランスもまた良いのだが)。ここのパートのなんというか人間捨てたもんじゃない感というかさ、ほんとにこの世はサイテーで、ますます昨今サイテーな雰囲気になってるけど、それでも、この世には微かな希望があるんじゃないか?というこの最後の方の展開は涙がでました。
しかも、さらにこの映画が良かったのは、そんな希望の裏には、それでも一般の我々にはどうしようもない実に不条理な巨大な暴力が確かにそこにあって、今まさに巨大な流れに流されてる!というこのほんとに不条理な事実がちゃんと並行して描かれてるところがほんとに容赦ないしすごい思いました。
恐らくレイプして殺した犯人は元軍人で?軍がこの事実を隠蔽しようとしている?というのがちょっと示唆されるんですよね最後の方。
ただ、「よっしゃ2人で乗り込め!」と気持ちのいいラストには決してしない、今まさに巨大な流れにレイプされ焼かれて殺された娘の事件がまさに今、隠蔽されてる、どうしようもない、これ以上行くとさらにこちらもその巨大な流れに流されるのではないかという恐怖・現実がちゃんとあるところに真摯さを感じたなぁ。ファンタジーじゃねぇぞと。しかもその2人その事実を知らない(または馬鹿だからわからないw)から、なにもわからないまま突っ込もうとしてるわけで、すごくいいラストだけど、同時にとてつもなくどうしようもない気持ちにもなるすごくこのバランス感覚素晴らしいと思いました。最後は西部劇さながらでしたね。現代社会の西部劇ですよこれ。
その点、この映画、最近観た「パディントン2」そして「デトロイト」ととても通じ合ってるようなテーマだったと思います(ベクトルや描き方は違うけど)。
現実社会がサイテーになればなるほど、映画は、皮肉にもおもしろくなるんだなぁと、ここ3作「パディントン2」「デトロイト」「スリービルボード」を観て改めて思いました。今年あたりからぐっとこういうテーマが増えて行くんでしょうね。
アカデミー賞にノミネートされまくってるのも納得の1本でした。
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好き度: 80点
賞レース席巻も納得でしたヽ(・∀・)
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