いつだってこのモーテルはそこにある
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監督: キャスリン・ビグローさん
脚本: マーク・ボールさん
出演: ジョン・ボイエガさん、ウィル・ポールターさん、アンソニー・マッキーさん、他
原題: Detroit
上映時間: 142分
あらすじ: モーテルで度を越えた尋問が行われます。
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1月は仕事が忙しすぎてあまり映画を観れてなくて、「ジオストーム」や「嘘を愛する女」、「ダークタワー」なんかはスルーになっちゃいそうだなぁ…。2月に入ると「スリービルボード」「羊の木」「RAW」などなど一気に注目作が押し寄せてくるし…観てるドラマもたまってて「ゲームオブスローンズ」S7をやっと今観てるんだけどこれがほんとに面白くて…とか、「ザ・クラウン」のシーズン2も観なきゃなぁ…とか、色々とたまりまくってますが、そんな中でも今月いちばん楽しみにしていたキャスリン・ビグローの新作「デトロイト」が公開されたということで夜中に車を走らせ初日のレイトで観てきました。
凄まじい映画でした(´Д` )
例によって映画.comさんからあらすじを拝借すると…
「ハート・ロッカー」「ゼロ・ダーク・サーティ」のキャスリン・ビグロー監督が、黒人たちの不満が爆発して起こった1967年のデトロイト暴動と、その暴動の最中に殺人にまで発展した白人警官による黒人たちへの不当な尋問の様子をリアリティを追求して描いた社会派実録ドラマ。67年、夏のミシガン州デトロイト。権力や社会に対する黒人たちの不満が噴出し、暴動が発生。3日目の夜、若い黒人客たちでにぎわうアルジェ・モーテルの一室から銃声が響く。デトロイト市警やミシガン州警察、ミシガン陸軍州兵、地元の警備隊たちが、ピストルの捜索、押収のためモーテルに押しかけ、数人の白人警官が捜査手順を無視し、宿泊客たちを脅迫。誰彼構わずに自白を強要する不当な強制尋問を展開していく。出演は「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」のジョン・ボヤーガ、「レヴェナント 蘇えりし者」のウィル・ポールター、「トランスフォーマー ロストエイジ」のジャック・レイナー、「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」のアンソニー・マッキーら。脚本は「ハート・ロッカー」「ゼロ・ダーク・サーティ」も手がけたマーク・ボール。
てな感じ。
先に書いちゃうと、ビグロー作品は好きな作品がいろいろとあるんですが、個人的にはこの「デトロイト」が頭一つ抜けてビグロー作品ではベストになりました。それくらいこの映画には食らいました。素晴らしい出来だと思いました。
とにかく、怖かった。ほんとに怖かったし、心底嫌な気持ちになって、この恐怖感はここ最近の映画ではトップレベルのもので、それってつまりビグローが描こうとしていたものがすごくうまくいってる証拠だと思うんですよ。
ある種の体感映画というか、これ「ダンケルク」とかに近いと思うんだけど、その時代、その空間に観客もいるような気持ちにさせる、恐怖映画版のライド映画だと思うんですよね。撮影手法も相まって、ほんとにそこに観てる側もいる気持ちになって、心底最悪な気分でしたし、ジョン・ボイエガが尋問を受けている人々とは一歩引いた位置にいることもこの「同じ空間にいる気がする」感覚にとてもプラスに働いていると思います。観客はただスクリーンを観ているしかないわけで、この空間で観ているしかなかったジョン・ボイエガと重なりますよね。
中盤のモーテルでの尋問シーンの40分は息する間もない素晴らしい出来の恐怖描写だったと思います。「残酷映画だーいすき☆」な私でもこれは、久しぶりに映画を観ててほんとにツラすぎて涙が出ました。映画を観ててツラくて涙が出ることってそうないんですが、、それほどこの40分ほどの尋問シーンは凄まじい出来だったのだと思います。白人の女の子がキャーキャーと金切り声をあげるあたりでもうなんか心がやられてしまいました。
この映画のウィル・ポールターに代表されるデトロイト市警側の恐さって、極限状態に陥って、倫理観というものがなくなってしまった状態の人々の恐怖というか、この異常な暴動状態だからこそ人間の真に醜いサディズム性があらわになってしまうという、一皮剥いたら人間という生き物はどこまでもおぞましい人間にになってしまうんじゃないか?という恐怖がベースだと思うんですよ。
だから、この映画を観ていて感じる真の恐怖は、僕らはいつだって被害者側になり得るし、そして逆に加害者側にもなり得るというところだったりしました。しかも、ただ見ていただけの、ジョン・ボイエガでさえも、映画後半にあるようにこの巨大な社会的暴力に飲み込まれて容疑者だとされてしまうわけで、つまり、ただ観てるお前らでさえいつだって被害者にもなりえるんだよ、という、このなんていうのかな出口のない地獄感というか、不条理劇としての強度に打ちのめされました。
加害者側にもなりえるというのは、映画を観ていてこの本を思い出したからでもありました。
しかも、では今現在このような不条理な殺人や尋問がなくなったか?と言われれば、、言わずもがなですがますますやりきれない気持ちになります。
あと怖かったのはデトロイト市警の異常な尋問を、初めは普通の倫理観を持ってると思っていた軍の人間がだんだんとデトロイト市警のサディズムの磁場に寄っていく恐怖。あと、ミシガン州警が、デトロイト市警が行き過ぎているということを理解しながらも「人権がかかわる問題には関わりたくない」とその場を去るシーン。この辺でさらにさらに地獄感が増していきました。この辺の畳み掛けるような地獄の作り方、ほんとにキャスリン・ビグロー容赦ないな…と思いましたよ。。
後半、ちょっと映画全体として尻尾が長いかなぁと思わなくもなかったけど、むしろ事件後も、ジワジワと地獄が続く感じというか、のうのうと生きてるデトロイト市警のあいつらとか、前述したジョン・ボイエガのこととか、あまりにも中盤が凄すぎたせいで印象は薄いですが、しっかりと丁寧に描き切っているなと今になって思いました。
あとなにより、こんな題材を扱いながら、しっかり劇映画としてスリリングで「おもしろい」というのはほんとにエライしすごいですよ。社会派なテーマですがちゃんと不条理な恐怖映画・ホラー映画的なジャンル的おもしろさがあって。とてもまっとうな劇映画でした。
個人的には、ほんとにすごい映画を観たなぁという気持ちです。実録恐怖映画の新たな傑作が一本生まれてしまったなと思います。早くも、年間ベストテン入り確実の一本でした。
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好き度: 90点
凄まじい映画でした(´Д` )
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