三度目の殺人
忖度を、忖度すること。
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監督: 是枝裕和さん
脚本: 是枝裕和さん
出演: 福山雅治さん、役所広司さん、広瀬すずさん、他
上映時間: 124分
お話: コロコロ供述を変える容疑者の真実とは?
好き度: ★★★★☆ 4.0/5.0点
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是枝監督最新作、「三度目の殺人」観てきました。
キミも誰かを裁くか?(#・∀・)という感じでした。
映画.comからあらすじを引用すると、勝つことにこだわる弁護士・重盛は、殺人の前科がある男・三隅の弁護を仕方なく担当することに。解雇された工場の社長を殺害して死体に火をつけた容疑で起訴されている三隅は犯行を自供しており、このままだと死刑は免れない。しかし三隅の動機はいまいち釈然とせず、重盛は面会を重ねるたびに、本当に彼が殺したのか確信が持てなくなっていく。―――という話。
是枝作品、今回もすげぇおもしろかったです。今まで是枝作品にないようで確実にあった暗黒面を抽出して純粋培養したような映画でしたね。やっぱりこの人、根っこはノワールの人なんだなあと改めて思いました。
いろいろな語り口がある映画だと思いますが、この映画は忖度の映画だと思いました。様々な人が様々な忖度をします。観ている方も忖度しないと、盤面だけ観てると真実にたどり着かない映画だったし、テーマもそれでした。
この映画は「反復」がとても効いててさすがでしたね。特に福山とその娘の会話とか。あれとても効いてましたね。娘が父にかまってほしくて万引きをし、そのあとファミレスでの会話。これが根底にあるから後半はグイグイ吸い込まれる構造になってるのにうなりました。具体的に言うと広瀬すずが何度か流す涙がこれは演技なのか?それとも本気の涙なのか?という広瀬すずが本当には何を考えているのか…というところがミステリーになってるところがおもしろかったです。あと広瀬すずでいうと、この映画で唯一、最初で最後の広瀬すず主観のシーンがあるんですよね。上の写真の母と娘の会話。このシーンをなぜ入れたのかの演出意図がとても監督に聴きたいところだったりします。福山主観で進んでいくこの映画で唯一ここだけ福山目線じゃなくなるんですよね。完全に観客に向けられた、しかもけっこう大事な内容を言ってるこのシーン。斉藤由貴の素晴らしすぎる演技も含めて、ここがとても印象に残りました。
福山雅治の変化の映画としてもおもしろかったですね。容疑者とは一定の距離を取る福山でしたがどんどん役所さんに感情移入していき、これまでにはなかった事件の真相を追いかけていくことになる。このどんどん役所広司に吸い込まれていくかのような、福山、一連の黒沢清映画を観てるみたいでしたよほんとに(笑) 福山がグイグイ吸い込まれる役所広司ですが、役所広司が殺人を犯した根本には実は広瀬すずがいて、これは広瀬すずをファムファタールにしたやっぱり濃厚なノワールだったなぁと思ったのでした。
あとやっぱり人が人を裁くということの恐ろしさをめちゃくちゃ感じました。裁判をやりなおすか、やりなおさないか、というシーンのあのまさに忖度描写。殺人の容疑をかけられてる殺人犯の容疑者だとはいえ、あんな目と目で通じ合う♪ような目線のやりとりだけでうやむやにされ、何が真実なのかということは消えて行く…というあまりにもダークなラストはほんとに恐ろしかったです。が、役所広司にしては本望でもあるというこの何とも言えない感じ。変化した果てにある福山の思い。巨大な流れに流されていく真実を見つめる広瀬すず。という様々な人々がいろんな感情を殺し、様々な思いを忖度して、残酷にも日常が続いていくというこの三度目の殺人。いやはや是枝作品でもトプレベルでダークな映画になってました。
後半は演出が、是枝さんにしては後半は特に先走ってるというか、かかりぎみというか、めっちゃ前のめりで演出してて意外でした。制御してない感というのかな。是枝さんにしてはグイグイくるなという演出、画面作りでなんだか感慨深かったです。うまくいってるいってないは置いといて、珍しく是枝さんのアツイ熱を感じた後半の演出でした。