映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ
「朝起きたら、おはようって言おう」
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監督: 石井裕也さん
脚本: 石井裕也さん
原作: 最果タヒさん
出演: 石橋静河さん、池松壮亮さん、松田龍平さん、田中哲司さん、他
上映時間: 108分
お話: 恋します。
好き度: ★★★★☆ 4.5/5.0点
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石井裕也監督最新作「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」を観てきたのですが、これがまたほんとうに愛おしい大好きな映画になりました。今年の邦画では今のところ一番グッときた映画になりました(・∀・)
あらすじを映画.comさんから拝借すると、看護師をしながら夜はガールズバーで働く美香は、言葉にできない不安や孤独を抱えつつ毎日をやり過ごしている。一方、工事現場で日雇いの仕事をしている慎二は、常に死の気配を感じながらも希望を求めてひたむきに生きていた。排他的な東京での生活にそれぞれ居心地の悪さを感じていた2人は、ある日偶然出会い、心を通わせていく。―――というカンジ。
東京の撮影がとてもよかったですね。僕は大学時代は東京のまさにこの映画に出てくる渋谷新宿あたりはチャリでいつも遊びにいってたあたりだったのでとても懐かしい気持ちになりました。この映画のもうひとり主人公はこの東京の風景だと思っているので、なんというかこういう今現在の東京の街並みをひとつの作品に収めることが出来てるということはとても財産になるんじゃないかなぁと思います。何十年後には貴重な資料になってそう。まざりっけない今の東京でした。
この、東京というものの沼な感じというか、田舎者からしたら夢の街東京かもしれないけど(実際僕もそうだったし)、でもたしかに今そこにある東京の暗い部分をしっかり描いていたのがとてもよかったですね。大都会東京のドンづまってる人々にスポットを当てるという。東京という巨大な流れにポツンと取り残されたような気持ちになるときってあるじゃん。主人公はそんな2人でしたね。
この映画のいちばんの魅力は石橋静河さんだと思いますが、彼女のたたずまいがとにかく素晴らしい。めちゃくちゃ美女とか、そういうわけでもないんだけど、なんというか彼女中心に映画が動いていくようななんだかとてつもない吸引力があって、明らかに画面を支配してるんですよね。驚異的な存在感でした。今年の新人賞は総ナメでしょう。ほんとに素晴らしいです。
詩集が原作ということもあってこの2人のセリフがとにかくポエティックだし明らかに不自然なんですよね。でも僕はこの不自然さがほんとに気持ちが良くてですね。はじめは明らかに違和感なんだけど(特に池松くん)それがどんどん映画のリズムとセリフが混ざり合ってきて、主人公2人が一緒になったときにそのリズム感がスパークしたというか、ああこの2人だ。この2人なんだと。2人ともほんとにつらつらと、またはぺらぺらととにかくポエティックなセリフをしゃべりまくるんですが、2人にとってその「言葉」というものはバリアであると思ったんですよね。2人ともかなりのどん底でとてもドンづまってる、明るい未来なんてあるんだろうかと絶望しながらもそれでもギリギリ前を走ってる感じで、言葉はそのための武器でありギリギリで自分を保つためにどん底な周りの状況と少し距離を保つためのバリアとしてのあのポエティックな言葉だと思ったんですよね~。だからただ詩的なセリフを吐いてるだけの映画とは確実に一線を画してるというか、セリフが詩的なことが主人公2人のキャラクターにとって必要なこととして機能してて、とても良かったです。やたらと社会問題のことがセリフに出てきて、テーマをもりこみすぎだ!なんていう批判もみたりもしましたが、それこそ世界とのバリアとしてのこのセリフだと思うととてもしっくりきたんですよね。
もうほんとにこの2人がほんとにめんどくさいやつらでね~、でもだからこそたまらなく愛おしくて、心底幸せになってほしいと願わざるを得ないめんどくささなんですよ2人とも。ほんとに。もう愛おしくてたまらんよ。
いろいろとどん底だった2人ですがそのどん底感の負の連鎖を2人が出会い求め合うことで断ち切りあらたな世界が開かれていく。それまでとはなにも変わってない同じ東京、同じ新宿、同じ渋谷なんだけど、でもとなりに誰かがいることで、世界はまたあらたに輝き始めるもんだよなぁと、最後の方は2人を観てるだけで涙が止まらなかったです。恋愛って素晴らしいなと、恋愛を肯定してくれる素晴らしい映画だったと思います。最後に彼女が言うんですよ、「朝起きたらおはようと言おう」って、泣くんですよ。「そういうことだよね?」と、言うんですよ。ほんとにそういうことだと思いました。「おはよう」って言える誰かがいることがどれだけ幸せか、そしてその相手が今はいなくてもそれこそどこかで「心臓を鳴らしている」んじゃないかと、どん底なこの世の中にかすかな希望が持てる、そんな優しさのある映画でした。大好きです!