沈黙 -サイレンス-
好き度:★★★★☆ 4.0/5.0点
踏まなかった人、踏んじゃった人、何度も踏んじゃう人
あのスコセッシが遠藤周作の「沈黙」を映画化。かなーり前から映画化の話はありましたがやっと結実。
この名曲を聴きながら…
あらすじを書くまでもない名作の映画化ですが、一応映画.comさんから拝借すると、キリシタンの弾圧が行われていた江戸初期の日本に渡ってきたポルトガル人宣教師の目を通し、人間にとって大切なものか、人間の弱さとは何かを描き出した。17世紀、キリスト教が禁じられた日本で棄教したとされる師の真相を確かめるため、日本を目指す若き宣教師のロドリゴとガルペ。2人は旅の途上のマカオで出会ったキチジローという日本人を案内役に、やがて長崎へとたどり着き、厳しい弾圧を受けながら自らの信仰心と向き合っていく。というお話。
というわけで「沈黙 サイレンス」、単純にこの映画、すげぇおもしろかったです(・∀・)!!
個人的な話になりますが、僕は母親がカトリックでですね、僕自身はちがうんですが、まぁ母親の影響もあってキリスト教的な考え方なんかにはちいさいころから触れながらおおきくなりました。そんな僕の母親が人生ベスト小説と言ってるのが遠藤周作の「沈黙」なんですよ。で、とにかくこれを読みなさいと、母親がきっかけで読んだのが高校生くらいのときかな?で、まぁ内容も内容なのでね、衝撃を受けて、おもしろいなぁ~と。で、カトリックの母親がこの小説を人生ベストって言ってるのが不思議でしてね。まぁキツイお話じゃないですか。で、聞いてみたんですよなんで人生ベストなのか。返ってきた答えが「人間は弱いし、ぶれることもあるけど、でもそれでいいんです。って言われてる気がするから。」という答えでして、その時は良くわからなかったんですが、今やっとこの映画を観てその答えの意味がなんとなく分かったような気がしましたね~。
この映画、とにかく静か~なサディスティックさが素晴らしかったですね。これは映画のほうを見てから気づいたんですが、キリスト教を弾圧する日本側がほんとにこの作品のおもしろみだな~と思いました。とにかく拷問やロドリゴを追い詰めていく過程がものすごく事務的というか、淡々としてて、かつ日本側の言い分がすごく論理的に見えるというのもおもしろかったです。キリスト教徒を捕まえて、拷問をして踏絵をさせるんですが、その描写がザ・役所って感じで(笑) なんですかねあの市役所とかにいって手続きなんかをするときに見るあの役所の職員感(笑) みたことあるな~って思いましたよ(笑)
「は~いじゃぁ並んでくださーい。はい〇〇さん!はい前に来てくださいね~。はいじゃぁこちらキリストになるんで、踏んじゃってください!え?踏めない?いやいやほんとにこっちも疲れてるんですよ、はっきり言ってあなたがキリスト教であるかどうかなんてどうでもいいんで、もうとにかく仕事終わらせて帰りたいんで、踏んじゃってくださいよ~。形だけですから。ちょっとかすめるくらいでもいいんで!」みたいな感じなんですよみんな(笑)ほんとに会社の健康診断のごとくでした。で、ここぞというときにヤレヤレと首チョンパしてまたヤレヤレお茶でも飲もうぜと帰っていくという(笑)
イッセー尾形演じる将軍とか浅野忠信演じる通訳とかも言ってることは、すごく実はロジカルで納得できるというバランスもおもしろかったです。ただ残酷なだけじゃなくて、なんというかすべて見通したうえで追い詰めるために最適なカードを着実に切ってくる感じのいやらしさがすごくあって、ほんとこの2人は特に演技がすごかった。キリスト教を全否定して、こんなイカサマ許せん!殺せ!というバランスではなく、ほんとイヤ~な攻め方をしてくる2人。ドS!!
この映画でいちばん恐ろしかったのは踏絵でありました。まじであの試されてる感というか、踏んでも地獄踏まなくても地獄という感じがまじで怖かったですね。この映画では、その踏絵を踏まなかった強い信仰心を曲げなかった人や、自分のせいで周りの人々が苦しんで死んでいくのに耐えられず踏んじゃう人や、はたまた何度も何度も踏んじゃう人が出てきます。たしかに踏まなかった人は美しい死に方なのかもしれません。苦渋の選択で踏んでしまった人は裏切り者であり弱者なのかもしれません。しかーし、この映画、踏んじゃった人にギリギリのところで提示してくる優しさがあってですね、そこに感動しました。まぁなんというかさ、僕らなんて弱いですし、隠れキリシタンが踏絵を踏んじゃったように、なにかに負け、挫折し、心が折れる瞬間が生きてればあると思うんですよね。でも、何かに負けても、挫折しても、心が折れても、ギリギリのところで自分の中になにか揺るがないものを持ってなんとか心を支えてそれでも生きて行かなきゃならないのがこの世じゃないすか。だから、「揺らぐときもある、負けるときもある、でもそれでいいんだよ。」と言ってくれているような映画オリジナルで膨らませたラストショットには感動しました。宗教観ってひとそれぞれ、いろいろありますが、やっぱり僕は生きてこそのものだと思うんですよね。より豊かに生きるための一材料というか。だから、どんなに踏絵を踏んで裏切りまくっても、それでも生き続けたキチジローは最低なんだけど、とっても美しかったです。
てなわけで面白かったです。ドスンとくる一本でした。