【映画】「リップヴァンウィンクルの花嫁」を観た。 | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。

 

 

 

 


リップヴァンウィンクルの花嫁
鑑賞日: 2016年5月14日
映画館: T・ジョイ出雲

 

 

 

 

 




好き度: ★★★★☆ 4.5/5.0点



現代日本版 『不思議の国のアリス』



やっとこちらでも公開されたということで「リップヴァンウィンクルの花嫁」、ほぼ前情報を入れずに観に行ってきました。これがほんとに素晴らしかった!!岩井俊二による現代日本の『不思議の国のアリス』のような少女の成長譚であり、明確な監督の「悪意」が見え隠れしてて特に前半は皮肉なほう皮肉な方に物語が転がり、主人公をグイグイ追い込んでいく悲劇でもあり。ビジュアルは美しく綺麗だけど、本質はとてもドス黒い寓話であったと思います。だからといって、この映画の本質である「薄っぺらさ」を否定しまくって主人公を追い込みまくる前半戦だけど、だからといって否定だけで終わらず、そこからはじまる希望もあるぞと、ギリギリのところで優しく肯定する姿勢にもグッときた。そんな映画でございました。


主人公は黒木華。

 

 



SNSで知り合った男と結婚することになった派遣教員の黒木華は、親族が少ないため「なんでも屋」の綾野剛に結婚式の代理出席を依頼して式を挙げる(その綾野剛ともSNSで知り合ってます)。しかし、新婚早々に男が浮気し、義母から逆に浮気の罪をかぶせられた黒木華は家を追い出されてしまう。そんな黒木華に、綾野剛が月給100万円という好条件の住み込みのメイドの仕事を紹介する。そこで知り合ったのが破天荒なメイド仲間のCocco。デッカイお屋敷で2人だけの生活がはじまりますが、実はこのお屋敷の持ち主がメイド仲間のCoccoだとわかり、Coccoのほんとの仕事はAV女優だということがわかり、Coccoがガンで余命いくばくもないということがわかり、でもCoccoと黒木華はお互い惹かれあい愛し合い、でもCoccoが自殺願望があって一緒に死んでくれる人を探していたことがわかり、愛するCoccoのためなら死んでもいいと決意し、でもCoccoは死に、黒木華は生き残る。という映画でした。自分でも何を書いているのか!という展開ですが、そういう映画でした。


CoccoのSNSのハンドルネームが「リップヴァンウィンクル」で、愛し合ったその花嫁が黒木華、というところからこのタイトルになっていた。つまり「リップヴァンウィンクルの花嫁」とは黒木華のことなんですね。

 



黒木華は本当に素晴らしくて、近年稀に見るイライラさせられっぷりで張り倒したくなるような主人公になってて、とにかくめちゃくちゃイライラさせられて最高でしたw この黒木華は、常に受動的で、自分の選択を他人に委ねるタイプの、個人的に1番嫌いなタイプの人種だった前半戦だけど、だからこそ終盤の彼女の成長が際立つ作りになっておりました。そんな主人公にひたすら振り回されるので、3時間はあっという間のジェットコースタームービーになっております。ひょんなことから摩訶不思議な世界に迷い込む不思議の国のアリスのような、リアルな劇映画というよりは童話的でありファンタジー的な映画とみるとより楽しめると思います。

最近、人間の行動原理の根源は「寂しい」という感情なんじゃない?という話をしていて、なんかシンクロしたんですよね。虚しく、寂しいこの世界でも、ギリギリのところで希望めいたものが見つかる瞬間もあるのだという肯定感に涙が出ました。

この映画、前半なんかは特に現代の日本の病理みたいなものをすごく誇張して描くんですよね。SNSを中心とした薄っぺらい生身感のない人間関係、本音を言わず体裁だけを大切にする人間性…みたいな岩井俊二は今の若者世代が大っ嫌いなんだろうなぁ(笑)と思わざるを得ない描きかたをしていて、一見どこか説教臭いなぁと思わなくもないのですが…でも、これをひっくり返すんですよね。でも、そんなSNS社会になった今でも、そんな関係性の中からでも、真に人間的なツナガリみたなものって成立するよ!って、否定否定否定ときて最後に肯定するんですよね。そこにグッときたんですよね。よく考えれば、この映画の主人公3人(黒木華、綾野剛、Cocco)は全員出会いはネットでありSNSなんですよね。でも、なんだかんだそんな出会いでも苦いかもしれないけど確実に確かなかけがえのない思い出になるんですよね。

黒木華にとっては地獄めぐりのような摩訶不思議なファンタジー世界であった現代社会でしたが、ラストシーン、映画時間3時間後の彼女の顔は、この世界でぶれずに生きていけるたしかな現代社会のひとりの大人の人間の顔になっていました。アリスが成長したように、彼女も成長したのです。


 

 

 






おわり