【映画】「イット・フォローズ」を観た。 | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。

 

 


※ネタバレあります






イット・フォローズ
鑑賞日: 2016年1月11日
映画館: TOHOシネマズ六本木

 

 

 




好き度: ★★★★☆ 4.5/5.0点



ホラーの皮を被った青春ラブストーリー



2016年も始まったばかり。この言葉を今年何度も使うだろうけど、この「イット・フォローズ」が2016年1発目の「今年ベスト」と言える映画でした。

この映画は、ここ数年でも画面の作りこみに関しては頭ひとつ抜けてるレベルでこだわりを感じさせるものばかりで作り手の凄まじい熱とこだわりが詰まったもののように感じましたよ。画面の構築へのこだわりと美学に関しては、個人的にはレフンの「ドライヴ」以来。スコアの素晴らしさ、そして様々なホラー作品の影響を受けながらもしっかりと新しい恐怖演出がなされているところが素晴らしかったです。なにより「それ」がものすごくおぞましいビジュアルなのが良い。


セックスで「それ」が移せるという設定でございます。

 

 



設定としては「it それ」がひたすらゆっくりと歩いて追いかけてくる。捕まったら最後、惨殺される(ここに関しては最初のツカミが素晴らしい分、緊迫感が持続している)。「それ」は様々な人間のに姿を変える。「それ」はセックスにより人に移すことができる。しかし、移された人が殺されるとまた移した人もとに「それ」が戻ってくる。また、移した側もまだ「それ」の姿は見える。

はじめは「リング」の設定にかなり近いなぁと思ってて、実際かなり影響下にある作品だと思うんですよね。でも、「リング」との決定的な違いこそこの映画の肝だと思います。それは、移すという行為が即物的なものではなく、身体性をともない、かつ相手がいないとなりたたない、「セックス」によるものという点だと思うのです。


はじめのカマシと設定説明もスムーズでした

 


僕なりにこの映画のテーマは、人と関わる、わかりあう、愛し合うというのはどういうことなのか、という映画だと思いました。この映画はホラー映画というジャンルを使った、素晴らしい青春映画であり、なによりラブストーリーだったんですよね。

この映画の恐怖は、「それ」は感染者にしか見えず、感染していないまわりの人間には見えないということがなにより怖かったです。「それ」は突然現れてゆっくりと歩いてくるため、昼間でも油断のすきがなく、普通の人間が「それ」に見えてきて、計算しつくされた画面作りも相まって、昼間でもものすごく怖いというのがすごかったんですよね。観客も画面のどこかに「それ」がいるのではないか?と画面をくまなく探すことになりとてつもない緊張感がずーっと続くことになるのです。


昼なのに怖いのは新鮮!!

 



まぁ、というのは置いといて、移す・移されるの関係においてこの映画では登場人物たちの心のベクトルは常に同じ方向を向いておらず、適当な人間とセックスしてもその人間が殺されてまた自分のもとに戻ってきてしまう。敬愛する三宅隆太監督がホラー映画の肝としてよく使う言葉「背負う気あんの?」というのを思い出しました。まさに「背負う気」が本気である人とセックスすることはこの映画ではずっとないんですよね。そんな中、終盤、本気で「背負う気」がある男とセックスをする。このセックスは映画中でも心のベクトルが初めて同じ方向を向くセックスでした。そしてラストシーン直前に引用される「白痴」の朗読、そしてあのラストシーン。なにも解決していないように見えるけど、実際彼と彼女は「背負う気」のある相手を見つけたラスト。ラストの後ろに見えるものが「それ」なのかどうかもわからないですが。常に死と隣り合わせなのは僕たちの人生もそうだと思うんですよね。そんな残酷な人生の中で、唯一光が見える瞬間って一緒にわかりあえる相手が隣にいること、なんじゃないでしょうかね。実は象徴性の高いラブストーリーだったんじゃないですかね。と思うわけです


この主人公もまた絶妙でした。

 


この映画、ずっと誰か1人しか「それ」は見えないんだけど、もしまだ見えているとすれば「それ」は、ラストはどちらも「それ」が見えてるはず。ひとりしか見えてない「それ」と複数の目で見えてる「それ」。複数の目で同じ目線で「それ」を見ることができればそれはただの「人」だったりすんじゃねぇかなぁなんてことも思ったりね。

常に「それ」という死が襲ってくる分、生であり性である「セックス」もより象徴的なものに見えてくるなぁとか。監督自身はこの映画は性病のメタファーではなく、生と死と愛の物語だと言ってるらしいし。性を意識することで生に近づき、同時に死が向かってくるという映画なのでは…なんてことも思ったり。


化粧シーン。ここすごい大事だと思うんですよね。

 


気になるところもまだまだ多い。そもそも見た人それぞれによってことなる「それ」の解釈とか、序盤で覗き見してる少年たちはなにを象徴してるんだろうとか(性の目覚めの象徴?)、突然飛んでくる赤いボールの意味、たくさん出てくるプール、最後の血に染まるプールの意味、などなど、語りしろたっぷりでいろんな人の解釈が聴きたくなりますね。そして圧倒的にカッコよく美しく怖い、死の匂いが濃厚に漂いながら生きることを肯定する開かれたメッセージ性。難しいことを除いてもまず1本の映画としてめちゃくちゃおもしろいというのがなにより偉い。素晴らしいホラーを見ました。素晴らしかった!