DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?
7月14日(月) 16:45~ TOHOシネマズ六本木
好き度: ★★★★☆ 4/5点
アイドルも企業の社員である
AKBのドキュメンタリー、タマフルで二作目が取り上げられてから、何気に全て見ておりますな。今回はタマフルのサタデーナイトラボに高橋栄樹監督がきてこの映画の話をしていて、とてもおもしろかったのでね、今回も行ってまいりました~。このシリーズ、見たあといつもこんな感想ですが、やっぱアイドルって大変な職業だな(;・ω・)という気持ちです。
宇多丸さんによる高橋栄樹監督インタビューを貼っておきます
一作目のドキュメンタリーは岩井俊二プロデュースのシャンプーのCMみたいな映画でしたが、二作目の『show must go on』から高橋栄樹監督が手掛けまして、かなりコンセプチュアルなものとなりました。
特に、やっぱり二作目の『show must go on』の衝撃は今でも忘れられないくらいの問題作で、映画ファンのなかでも大変話題になりましたな。高橋栄樹監督が手掛けるようになってから、やっぱドキュメンタリーの魅力、ドキュメンタリーでしか得ることができないカタルシスがあって、単純にドキュメンタリー映画としてほんと素晴らしいものになってますよね。まだ、みてないかた、とりあえず二作目の『show must go on』はとりあえずみてほしい。ディストピアSF感すらありましたよね。なんなんだこの地獄のような映像は…とこちらも過呼吸になりましたよ。
ここで宇多さんの名解説を張っておきます。これは必聴!
RECさんたちとの対談も最高。
二作目はとにかく戦争映画だったんですよね。『AKBに入りたいっていってた子供が、AKBに入りたいと言わなくなった』とシネマハスラーのリスナーメールにあったほどですから。『プライベートライアン』を見て戦争なんて絶対しない!と思うのと同じです。
そして、その続編三作目が去年ありました。『No Flower without rain』ですな。これもやっぱりしっかりコンセプチュアルで、AKBのトップに咲き続けた前田敦子の卒業を軸におきながら、スキャンダルやその他の理由でAKBからリタイアした子達にスポットをあてて、そこの対比でみせていく映画でした。『AKBだけが人生じゃないよ。まだまだ君たちの人生は可能性に満ちてるよ』という高橋栄樹監督の暖かい視線がたしかにそこにはあったり、前田敦子という人物の超人性がすごかったり、これもまたみどころのある映画になっておりました。
こちらも宇多さんの解説。峯岸さん事件の直後なんだねー
というわけで、前置きが長くなりましたが、今回の四作目は、個人的には『組織論』『企業論』の映画だなぁと思いました。
今回の軸は、大島優子の卒業。この軸を中心にエース社員が抜けた組織の揺らぎ、不安。また、エースの中心社員が抜けたことで一番揺らいでるのは会社上層部だ!という視点がおもしろかった。会社上層部=運営がわの迷走ぎみの経営戦略のしわよせが社員たち=アイドルたちに降りかかり、その人事異動により、やめるものもいれば新たな道をいくものもいる、それでも前に進むしかないのだ…。という、これ立派な企業論の映画だったんですよね。
二作目をみたときに残酷だ!これは残酷だ!と言ったもんですが、本当に残酷なのはむしろ今回の映画だと思うんですよね。組織に属していることから来る逃げがたい『不条理性』がかなり描かれてますよね。もっと言えば、直接はでてこないけど、そのアイドルの上にいて運営している大人たちの顔の存在がもっとも感じられる映画になっていたと思います。
それは結構序盤からイヤナヤダミとして作用してて、紅白歌合戦の大島優子卒業発表直後の場面、でてきますよね。あそこ、『紅白でそんな発表するなんてダメだろ。大島優子はなに勘違いしてるんだ!』と、世間的にも批判があったじゃないですか。このシーン、舞台裏、出番終わってからの場面、まず大島優子が出番終わって向かうのがメンバーのもとではなくNHKの石原プロデューサーのもと。そこで「ちゃんと言えました。」みたいなやり取りがあり、そしてそのあと大島優子がメンバーニ「自分等のコンサートで発表できなくてゴメンね。こんなところでしちゃってゴメン。こんなところで。」というセリフ、これでわかるように、この後ろにはこれをここで言わせた大人がいるんだなっと容易に想像できる舞台裏シーンになっていて、すごく刺激的なシーンでした。
大人の判断のしわ寄せがアイドルに降りかかるという意味で一番象徴的だったのが大組閣とその後…というシーン。まぁ行ってみれば人事異動ですわ。名古屋とか難波とかにみんな飛ばされるんだけど、そこでの苦悩がすごく痛々しかったんですよね。『これ以上親に負担をかけられない』と移籍をことわったもの、これは良い機会なのかもと移籍を決意するもの、そしてこれをきっかけに辞めていくもの。俺のちんけな悩みなんぞこの子達のものに比べたらちっぽけなものですな…。たった一度の大人の判断で女の子の人生が変わる瞬間が、撮られちゃってるんですよね。めちゃくちゃ残酷だけど、ドキュメンタリーの醍醐味ですよね。
軸である大島優子の物語もとてもおもしろかったです。前作の軸である前田敦子の撮られ方とあきらかに違ってて、その対比もおもしろかった。国立競技場の卒業ライブのシークエンスはすごかった。バックステージものの醍醐味でしょう。大島優子に雨天中止を告げる瞬間のシーン、ここの残酷だけどドキュメンタリーとして超魅力的なすさまじいシーンがあって、よくここを納めることができたな、よくこの瞬間にカメラがいたな、と。ここの音をミュートする演出も含めて、さすがとしか言えないですよ。この映画の軸であり、チームの軸であった大島優子が崩れ落ちる瞬間。ドキュメンタリーとして最高に弾けた瞬間だったと思います。正直、泣きましたここ。
この後の、大島優子が…
あと、握手会襲撃のシークエンスがあったりして、ちょっとここだけ、浮いてたなぁと感じました。まぁ事件が事件なだけにしょうがないですが、今回の映画の全体のテーマからいっても浮いてるところなので、なくても良いのでは…とちょっと思ったりしましたが。
でもよかったのは、今まで地獄だ地獄だといってきた総選挙のシーンで全てを包み込んだというところ。宇多丸さんもいってたけど良くも悪くもだけど、みんなにスポットがあたるこの総選挙というイベント、もしかしたらそれほど地獄でもないのかもなぁと思いました。前半に出てきた悩める社員たち=アイドルたちに、みんなにスポットライトがあたり、とりあえずそれぞれの物語も一区切りできてまとめられてるし、上位陣のコメントも柏木由紀さんの握手会への言及とか、指原さんのAKBはそんなにあまいところではありませんというコメント、そして、渡辺麻友の1位、と、これまで映画で語ってきた問題定義にアイドルが自らそれを乗り越えるような、答えを出すような作りになってるんですよね。高橋栄樹監督の構成力のうまさ、改めて感じました。
というわけで、ちょっと長かったかなぁと思うところもありましたが、とにかく高橋栄樹監督の構成力、ドキュメンタリーならではのカタルシス、大島優子のあの瞬間、これが見れただけで大満足でした。楽しかったですよ。アイドルも大変な職業ですよ。。不条理な組織でも、戦わなきゃいけないんですよ、その点では僕らも一緒なのですな。。残酷だけどね。
おわり
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スタッフ
監督
高橋栄樹
企画
秋元康
製作
窪田康志
大田圭二
秋元伸介
作品データ
製作年 2014年
製作国 日本
配給 東宝映像事業部
上映時間 120分
映倫区分 G
備考 ODS