遅くなりましたが、司法書士試験の筆記試験に合格された方おめでとうございます。
本当に良かったですね。
最終合格発表後は、研修、就職(または即独)となっていく訳ですが、合格者にとって最も重要な「就職先の事務所選び」について書きたいと思います。
一般的に事務所を選ぶ基準は、下記のとおりではないでしょうか
① 給与
② 取扱業務
③ 残業や休日出勤
④ 社風 事務所の方針、スタッフとの人間関係(特に所長との)
あなたが①~⑤まですべて希望通り、
給与が高く
独立開業後に自身のやりたい業務を覚えることができ
残業や休日出勤がなく
事務所の方針に賛同でき
所長を含めたスタッフとの人間関係も良い
という事務所に就職できるのであれば、しばらくは順風満帆ということになります。
一方、どれか一つでも希望と違うと、不満を抱え、司法書士として勤務することがつまらないものになっていきます。
苦労して司法書士試験に合格したのに、「つまらない仕事」とならないように「就職先の事務所選び」は慎重にしましょう。
さて、基準について一つずつ見ていきましょう
① 給与
給与はできるだけ多くもらいたいと思うのが通常ですが、払う側からすると儲けが少ないにもかかわらず多くの給与を支払うことはできず、儲けが多いから給与を多く支払うことができるのです(中には儲かっているのにケチで給与が少ないという事務所もあるかもしれませんが・・)。
では、儲かっている事務所は、どうして儲かっているのでしょうか?
当たり前ですが、仕事がたくさんあり、そこで働くスタッフが多くの利益を出している、つまり「スタッフ一人一人の負担」が儲かっていない事務所より大きいということです。
通常、仕事が楽で給与が多いということはないのです。
「仕事が大変なことは覚悟して、給与が高い事務所に勤めたい」という方はよいのですが、「仕事が楽で給与も高い事務所に勤めたい」と考えている人は注意が必要です。
② 取扱業務
たとえば将来、「独立開業した場合に相続や成年後見を主軸にしたい」と考えているのに、求人票の高い給与に惹かれて決済中心の法人や債務整理中心の事務所に勤めても、独立開業後、苦労することになります。
また、将来の開業予定地に需要があるかどうかも重要です。商業登記や企業法務をやりたいということで都会の事務所で修行しても、田舎ではその知識を生かす商業登記系の案件自体が極端に少ないということもあります。
「自分はどの業務をやりたいのか」と「勤務先の取扱業務」がマッチしていることが重要になります。
③ 残業や休日出勤
「働き方改革」が叫ばれる中、プライベートを優先し、残業や休日出勤などできればしたくないと考えるのが一般的だと思います。私もその考えは否定しません。
では、経営者側からの立場で考えてみましょう。その事務所は、人手が足りなくて司法書士を雇っているのです。戦力になってもらいたいのです。
案件を多数抱え、決済の予定が次々決まっていく中、当然時間内では間に合わず残業が必要なときに、勤務している司法書士が定時に帰る。では、間に合わない案件の処理は誰がするのでしょうか?
他のスタッフにしわ寄せが来ることになります。あなたが将来、独立開業し司法書士を雇いました。ある日、翌日の決済が立て込み、残業しないと間に合いません。しかし、勤務している司法書士が定時で帰っていったらどのように感じますか?
最近SNS等で「残業しなければ終わらないような人員配置をしている会社は経営者失格だ」というような発言を見ることがありますが、果たしてそうでしょうか。司法書士は利益率の低い業種であり、月末に集中する業務を残業なしでこなせるような人員を確保することは、事務所の利益の面でも社会全体の人手不足の状況からも非常に難しいと感じております。
残業や休日出勤をしたくないのであれば、決済業務が多い事務所はお勧めしません。相続や成年後見等の仕事は、業務が集中したり、「いつまで」という制約は比較的少ない仕事ですので、そのような業務を中心に行っている事務所を選択するべきでしょう。
また、残業や休日出勤ができないのであれば、求人票や面接時の質問で十分に確認すべきということになります。
④ 事務所の方針、スタッフとの人間関係(特に所長との)
これが一番重要であると考えます。
通常、「事務所の方針に忠実に行動し」「仕事ができる」人は、褒められることがあっても叱られたり注意されることがないので「人間関係」は悪くなることがありません。
たとえば「スピード第一」という事務所に、マイペースでゆっくり仕事をしたい人が入ったらどうなるでしょうか。
また、「報告連絡相談を大切にする」という方針の事務所に、報告連絡相談など重要ではないと考える人が入ったらどうなるでしょうか。
その事務所は、今まで「事務所の方針」があってそれに沿った行動をして実績を上げ、司法書士を雇用しています。おそらく、その事務所は開業以来相当の苦労を重ねてきたものと推測されます。それなのに、その方針を守らない人が入社したとしたら「今までのその事務所の積み重ねてきた努力が踏みにじられた」という思いになるのではないでしょうか。
当然注意を受け、「人間関係が悪い」と感じてしまうでしょう。
実際「人間関係が悪い」というのは、もちろん事務所側に問題があるケースもあるでしょうが、事務所だけが原因ではなく勤務する司法書士にも原因ということも多々あるのです。
これについては、求人票、ホームページ、面接等で事務所の理念や方針等を十分に確認し、事務所の方針、所長の考えに自分が合っているのかをよく検討すべきということになります。
⑤ 法人か個人事務所か
一般的に法人は給与が高く、福利厚生等も充実しているというイメージがあります。一方、個人事務所の場合はその面に関しては条件的に劣るのではないでしょうか。
業務については、法人は分業制が多く、一つの業務しか覚えることができないという話を聞きますが、個人事務所は幅広く業務を経験することができるでしょう。
① ~⑤まですべてあなたの希望通りの事務所もあるかもしれませんが、反対にブラック事務所もあると思います。
ところで、「司法書士を雇用している司法書士」というのは全体の3~5%くらいであると思われます。
実際に入社してから「失敗した」「辞めたい」と思うことがあるかもしれませんが、何かしら他の司法書士より優れている部分があるからこそ3~5%に入っていると思いますので、たとえブラック事務所であったとしても、何も学ぶことがないということはなく、絶対に何かしら学ぶことがあるでしょう。
司法書士として就職する。
事務所に勤務するということは、就寝時間を除けば、1日のうち家族よりも多くの時間を一緒に過ごすことになります。
その時間が、「辛い」ものなのか「楽しい」なのかによって人生が大きく変わってくることになります。
失敗して後悔することのないよう、慎重に選ぶべきであると考えます。