【新訂にて変更】「元」or「下」or「本」or「基」or「もと」 | ある在宅ワーカーのつぶやき

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みそっかす反訳者が、用字用例辞典(日本速記協会)の表記ルールにおける個人的な解釈についての記事を書いています。2020年4月半ばから新訂対応です。たまにテープ起こしについてのそのほかの話も。文中で引用している辞書はこちら→https://dictionary.goo.ne.jp/jn/

昨日、今回の用字用例辞典の改訂の私の印象としては第一に頻出語の表記変更が非常に多いことである旨書きましたが、その次に印象としてあるのは、その表記が変更された頻出語の中でも表記が分かれて非常に分かりにくくなったものが多いというものです。

 

今日の表題の言葉もそうで、前のルールでは「もと」が基本、「元」がレアケースであるというものでしたが、新ルールでは表題のような多様な表記に変更され、また、その内容も、「元」の表記が大幅に増えており、全く異なるものとなっております。

それで、前がほぼ「もと」一択だったので、全然分からないんですよ。用字用例辞典を見ても、特に「下」は「法の下」「一撃の下」、「本」は「本を正す」「本と末」「大本」「日の本」、「基」は「資料を基」「基になるデータ」などと例示が幾つかされているだけなので、本当に分からない。

 

というわけで、久々に辞書と突き合わせてみます。

このブログでいつも使っているデジタル大辞泉を見ますと、「もと」という読みの項目は、「下/許」「元/旧/故」「本/元」という漢字で書ける、三つの項目に分かれています。そもそもある程度は日本語として別の意味があるんですね。

 

ではまず「下/許」ですが、「物の下の部分。また、そのあたり。した」「その人のところ。そば」「その規則や支配力の及ぶところ」「(「…のもとに」の形で)…した状態で。…で」です。例として「旗の下に集まる」「桜の下に花見の宴を設ける」「親の下を離れる」「厳しい規律の下で生活する」「監視の下におかれる」「敵を一撃の下に倒す」が記載されています。用字用例辞典の例と比較して、これらは全て用字用例辞典では「下」と書けばよいものでしょう。

ただし、「親の下を離れる」とありますが、「親元」となったときは「下」ではないので注意が必要です。

 

そして次に「元/旧/故」ですが、これは意味は「以前。むかし。副詞的にも用いる」で、前のルールでは使い方によって平仮名表記、漢字表記で分けておりましたが、新訂の用字用例辞典では「元」と表記してよいものであります。

 

最後に「本/元」です。つまり消去法でこれの中に少なくとも用字用例辞典のルールの「本」「基」「もと」は含まれるということですね。

意味がたくさんありますので、そのまま引用します。

 

1 物事の起こり。始まり。「事件の―をさぐる」「うわさの―をただす」
2 (「基」とも書く)物事の根本をなすところ。基本。「生活の―を正す」「悪の―を断つ」
3 (「基」とも書く)基礎。根拠。土台。「何を―に私を疑うのか」「事実を―にして書かれた小説」
4 (「因」とも書く)原因。「酒が―でけんかする」「風邪は万病の―」
5 もとで。資金。また、原価。仕入れ値。「―がかからない商売」「―をとる」
6 (「素」とも書く)原料。材料。たね。「たれの―」「料理の―を仕込む」
7 それを出したところ。それが出てくるところ。「火の―」「製造―」「販売―」
8 ねもと。付け根。「―が枯れる」「葉柄の―」
9 箸 (はし) や筆の、手に持つ部分。

※「―」は「もと」が入ります。

 

まず分かりやすいのが4と6で、これは用字用例辞典では明らかに「もと」であります。用字用例辞典で「もと」の項目に、この表記になるときに本来用いる漢字は「素」あるいは「因」である旨記載がありますし、例と意味を見ても明らかです。
 

1、5、7、8、9は、用字用例辞典の例と照らし合わせたところ「元」でよいと思われます。

 

同様に、3は「基」で間違いないでしょう。辞書で意味の冒頭にも(「基」とも書く)とありますし。

 

それで、2は、用字用例辞典の「本」に「大本」等あることから、「本」の表記でよいと考えられます。(※読みは「オオモト」です。旧表記では「大もと」でしたが、表記が変わりました)
 
ここで微妙なのが、用字用例辞典で「本」の項にある「本を正す」と、「元」の項の「元をただせば」です。音が全く同じです。どっちがどっちか微妙なところです。
 
まず、デジタル大辞泉には、別に「本を正す」として項目立てしてあって、「物事の起こりや原因を調べて、はっきりさせる」という意味が記載され、「―・せばすべて自分が悪い」という例示がされています。

しかしながら、この辞書の「―・せばすべて自分が悪い」という使い方は、用字用例辞典で例示されている「元をただせば」と一致するように思われます。

そして、用字用例辞典で「ただす」と平仮名表記するのは日本語として「質」で表記できるとき、つまり「不明な点などを聞いて、明らかにする。問い確かめる」という意味のときで、「正す」は「よくないところ、まちがっているところをなおす。正しくする」「乱れているところを整える」という意味のときです。
 
ということで、デジタル大辞泉にある「物事の起こりや原因を調べて、はっきりさせる」という意味のときは、上記引用した辞書の1の意味プラス「ただす」であり、用字用例辞典的には「元をただす」と表記するものでありましょう。
そして、「本を正す」のときは、「根本を直す」みたいな意味であると考えられます。上記引用した辞書の2の例示の「生活の本を正」を見ても、間違いはないでしょう。
 
以上、えらく記事が長くなってしまいましたが、これが私の今一番警戒している言葉です。新訂のルールは本当に難しいです。