昨日、今回の用字用例辞典の改訂の私の印象としては第一に頻出語の表記変更が非常に多いことである旨書きましたが、その次に印象としてあるのは、その表記が変更された頻出語の中でも表記が分かれて非常に分かりにくくなったものが多いというものです。
今日の表題の言葉もそうで、前のルールでは「もと」が基本、「元」がレアケースであるというものでしたが、新ルールでは表題のような多様な表記に変更され、また、その内容も、「元」の表記が大幅に増えており、全く異なるものとなっております。
それで、前がほぼ「もと」一択だったので、全然分からないんですよ。用字用例辞典を見ても、特に「下」は「法の下」「一撃の下」、「本」は「本を正す」「本と末」「大本」「日の本」、「基」は「資料を基」「基になるデータ」などと例示が幾つかされているだけなので、本当に分からない。
というわけで、久々に辞書と突き合わせてみます。
このブログでいつも使っているデジタル大辞泉を見ますと、「もと」という読みの項目は、「下/許」「元/旧/故」「本/元」という漢字で書ける、三つの項目に分かれています。そもそもある程度は日本語として別の意味があるんですね。
ではまず「下/許」ですが、「物の下の部分。また、そのあたり。した」「その人のところ。そば」「その規則や支配力の及ぶところ」「(「…のもとに」の形で)…した状態で。…で」です。例として「旗の下に集まる」「桜の下に花見の宴を設ける」「親の下を離れる」「厳しい規律の下で生活する」「監視の下におかれる」「敵を一撃の下に倒す」が記載されています。用字用例辞典の例と比較して、これらは全て用字用例辞典では「下」と書けばよいものでしょう。
ただし、「親の下を離れる」とありますが、「親元」となったときは「下」ではないので注意が必要です。
そして次に「元/旧/故」ですが、これは意味は「以前。むかし。副詞的にも用いる」で、前のルールでは使い方によって平仮名表記、漢字表記で分けておりましたが、新訂の用字用例辞典では「元」と表記してよいものであります。
最後に「本/元」です。つまり消去法でこれの中に少なくとも用字用例辞典のルールの「本」「基」「もと」は含まれるということですね。
意味がたくさんありますので、そのまま引用します。
1 物事の起こり。始まり。「事件の―をさぐる」「うわさの―をただす」
2 (「基」とも書く)物事の根本をなすところ。基本。「生活の―を正す」「悪の―を断つ」
3 (「基」とも書く)基礎。根拠。土台。「何を―に私を疑うのか」「事実を―にして書かれた小説」
4 (「因」とも書く)原因。「酒が―でけんかする」「風邪は万病の―」
5 もとで。資金。また、原価。仕入れ値。「―がかからない商売」「―をとる」
6 (「素」とも書く)原料。材料。たね。「たれの―」「料理の―を仕込む」
7 それを出したところ。それが出てくるところ。「火の―」「製造―」「販売―」
8 ねもと。付け根。「―が枯れる」「葉柄の―」
9 箸 (はし) や筆の、手に持つ部分。
※「―」は「もと」が入ります。
まず分かりやすいのが4と6で、これは用字用例辞典では明らかに「もと」であります。用字用例辞典で「もと」の項目に、この表記になるときに本来用いる漢字は「素」あるいは「因」である旨記載がありますし、例と意味を見ても明らかです。
1、5、7、8、9は、用字用例辞典の例と照らし合わせたところ「元」でよいと思われます。
同様に、3は「基」で間違いないでしょう。辞書で意味の冒頭にも(「基」とも書く)とありますし。
しかしながら、この辞書の「―・せばすべて自分が悪い」という使い方は、用字用例辞典で例示されている「元をただせば」と一致するように思われます。