【ストーリー内容】
次の日の朝、大野くんが転校するという話は既にクラスでも噂になっていました。杉山くんは、大野くんに真偽を確かめました。大野くんは転校するのは本当で、引っ越し先は東京だと言います。愕然とする杉山くん。2人には中学も高校も一緒に進学するという約束、そして一緒に船乗りになるという夢もありました。
「俺たちの夢はどうなるんだ……」と問いかける杉山くんに、大野くんは「しょうがねえだろ……」としか言えませんでした。
その言葉に失望した杉山くんは、「お前みたいな約束やぶり、どこにでも行きやがれ」「俺はお前なんていなくたって大将なんだ」と言い放ちます。大野くんも杉山くんの物言いに腹を立ててクラスメイトとサッカーをしに行ってしまいます。
またも仲違いしてしまった2人ですが、2人にはそれぞれの思いがありました。
親の転勤によって決まった転校。それは、子供である自分にはどうにもできないと感じた大野くん。だけど、親友の杉山くんなら理解してくれると思っていました。
杉山くんは、大野くんが東京に転校する事を責めたかったのではありません。だけど、2人離ればなれになるという事を「親が決めた事だから仕方がない」という言葉で済ませてほしくありませんでした。
2人はお互いに、「離れていても夢は変わらない」と言ってほしかったし言いたかったのです。
2人が揉めた様子を一部始終見ていたまる子は、1人残された杉山くんがこっそり泣いている事に気付きます。
サッカーをしていた大野くんも途中で涙が出てきます。咄嗟に「目に砂が入った」とごまかしますが、一緒にいたブー太郎は大野くんの本音を見抜いていました。
それから2人はまたもバラバラになったまま日々が過ぎていきます
ある日の帰り道、まる子は1人で帰る大野くんに声をかけました。少し世間話をした後、まる子は杉山くんとの事について持ちかけます。大野くんは、杉山くんの言葉が本心であると頑なに信じ、杉山くんが泣いていた事をまる子から知らされても「嘘だ」と言って聞きませんでした。
まる子はその夜、お父さんに東京までの距離について聞きます。大した距離ではないとお父さんは言いますが、それでも移動手段は基本的には新幹線、汽車を使えば3時間はかかると知るとやはり遠いと感じるまる子。
次の日、昨日のまる子の説得は効果なくやはり2人はバラバラのままでした。
そしてそのまま日々が過ぎ、とうとう大野くんが引っ越す日の前日を迎えます。
「とうとう仲直りしないままお別れなのかな……」と心配になるまる子とたまちゃん。クラスでは、次の日に大野くんのお別れ会をするという呼びかけがありました。みんな、明日に行う出し物を考えなくてはなりません。
その日の帰り、今度はブー太郎が杉山くんを説得していました。そして、杉山くんは大野くんが泣いていたというブー太郎の言葉を信じます。その夜、杉山くんは家に帰ると、お姉ちゃんから夏のセーラー服を2枚借りました。

【詳細ネタ】
・大野くんは、杉山くんに問われる前日に引越しの件を知った。

・帰り道、まる子は大野くんに引っ越しの準備の事について尋ねる。大野くんは自分の荷物は少ないからそんなに大変ではないと言う
・まる子の家では夕食はおでんだった。おじいちゃんは、がんもどきが好きなもよう。
・たまちゃんは東京へ行った経験があるが、とても遠かったという
・花輪くんは頻繁に外食や娯楽で東京へ行くため、東京は遠くないという感覚。
・まる子は、アメリカも東京も同じようなものだと言う。
・まる子はお別れ会で手品をする予定。たまちゃんは紙芝居をやるとの事。
・まる子は家にある手品セットを使おうと、手品セットのあるおじいちゃんの部屋のおしいれを物色。そこにはおじいちゃんが隠し持っていたまんじゅうの箱があった。

 

【コメント】

●たぬき「静岡と東京って大人の感覚で言えば本当に大した事ないんだけどさ、やっぱり子供にとっては県外なわけだし遠いんだよな。せいぜい市内が許容範囲なんじゃないか?当時は交通環境も今ほど充実していなかったし、SNSも携帯電話もない時代で遠距離の人との連絡手段もだいぶ不便だったし」

 

○さぬき「まる子が『東京もアメリカも同じようなもの』って言ってたまちゃんと花輪くんをドン引きさせちゃってたけど、実際にそれぐらいの感覚の子がいるって事なんだもんね」

 

●たぬき「でも今回の仲違いは、転校で離ればなれになる事はきっかけにしかすぎなくて、それ以上に問題なのはなんと言っても『言葉足らず』な所なんだよな。自分の気持ちを十分に相手に言葉で伝えられなかった事さ。2人とも何でもやりこなす器用さはあるけど、人情面では不器用だから」

 

○さぬき「どっちが悪いかと言ったら、今回もどっちも悪くないんだよね。強いて言えば、大野くんがあまりにも冷淡すぎるような印象もあるんだけど、大野くんは大野くんで前日に相当悩んだと思うんだよ。杉山くんと離れてしまう事や、この事を杉山くんが知ったらどう思うだろうとか。東京なんて行きたくないって親に必死で訴えた可能性だってあるしね」

 

●たぬき「だからこそ、杉山くんに転校する事を責めているような言い方をされたのはキツかったんだろうな。本当に親の都合であって自分のせいじゃないし、自分だけ地元に残るわけにもいかないし、『しょうがねえだろ』しか言えないもんな。でも、杉山くんの気持ちも分かる。大野くんのあの振る舞いでは本心がどうであろうと、『あっさり転校してハイさよなら』っていう風に感じられるから、それじゃ淋しすぎるからな」

 

○さぬき「運動会の時と違って厄介なのは、お互いに『お前なんて居なくても平気だ』みたいに、相手を否定するような事を言っちゃっている所なんだよね。2人とも本心じゃないのについ言っちゃって、お互いがそれを真に受けちゃって……」

 

●たぬき「2人とも想いがすれ違ってしまった悔しさと離れ離れになる悲しさで涙を流したわけだが、幸いにもそれを第三者がちゃんと見ていてそれぞれに伝わったんだよな。大野くんは信じていなかったが」

 

○さぬき「こういう部分で、大野くんと杉山くんの性格の違いがちょっと分かるよね。大野くんは頑固だけど、杉山くんは自分の本音をきちんと言うし人の言葉にも聞く耳を持つんだよね」

 

●たぬき「まぁ、現に今も『大野くんはクール、杉山くんはお姉ちゃんがいるから比較的軟らかい』みたいな感じに言われているけれど、この話の場合は説得した相手も影響していたと思うんだよな。杉山くんを説得したのは弟子のブー太郎だったけど、大野くんの場合は相手がまる子だったでしょ?ましてやこの年頃。男同士の事で女子に口出しされたくないって気持ちはすごく分かる」

 

○さぬき「あ、それはあるかもね。全体を通しても大野くんの方がやや気難しい印象はあるけどね……。それにしても、この話の大野くんってだいぶ気苦労が多いよね。騎馬戦では落とされるし、合唱コンクールでは声が出なくなるし、挙句の果てに転校する事にまでなり……」

 

●たぬき「確かにな。何か起こるとしたら何故かいつも大野くんなんだよな」

 

○さぬき「ブー太郎の話を聞いて、杉山くんは何かを決意したみたいだね。合唱コンクールでも声が出なくなった大野くんの代わりに即興で歌うような奴だ。今回も何かすごい事をしてくれるに違いないよね」