それから数日、ハニは食事もろくにとらず、泣いてばかりいた。
《出発前日》
明け方、スンジョが水を取りに降りてくるとギドンと鉢合わせる。
ギドン:“ハニはまだ拗ねてるのかい?”
スンジョ:“…すみませんお義父さん。”
ギドン:“いや、こちらこそすまないね。兵役なんだ。君が気にすることじゃない。
…ハニもね。仕方ないとわかってるはずなんだ。ただ、君が好きすぎて、認めたくないんだろうな。いつまで経っても子どもで”
スンジョ:“…お義父さん。”
ギドン:“ん?!なんだい?スンジョくん”。
スンジョ:“俺、…やっぱりハニを連れて行こうかと思うんです。”
ギドン:“え?!スンジョくん、それは…”
スンジョ:“あいつも一応看護師の資格は持ってるわけだし、出来ないことはないと思うんです。”
“…ただ、俺も、初めてのことで、あいつをかまってやる余裕があるかどうか。”
“頑張ってきたあいつを知ってるから、ちゃんとした病院でしっかり経験積んで、一人前の看護師になって欲しかったんですが…”
ギドン:”スンジョくん。ありがとう、そこまでハニのことを想ってくれて。”
スンジョの手を取るギドン。
ギドン:“キミのような男が夫で、ハニは本当に幸せ者だ。(泣)
だがな。スンジョくん。君の選んだ道だ。
気にすることはない。行ってきなさい。
ハニのことは心配するな。私たちがついてる。”
スンジョを笑って送り出すギドン。
階段でこっそり聴いてるハニ。
ハニ:“……。”
《二週間後…》
-スンジョ-
島にきて二週間が経った。
俺は毎日仕事に追われ、忙しい日々を送っている。
住民の人達はいい人ばかりでこんな経験の浅い医者を受け入れ、信頼し、よくしてくれる。
だが、不十分な設備に足りない薬品、高齢者ばかりで診療所にくることすらかなわない患者も少なくない。
正直離島医療がここまでとは思わなかった。だが、だからこそやりがいもある。
…それに、
忙しい方が気が紛れていい。あいつのことを考えずにすむ。
~回想~
結局、俺が出発する前日まで、ハニは食事もろくにとらず泣き続けた。
あまりにも可哀想で、見ていられなくて、出発する前の晩、やっぱりついてくるかと言おうとしたが、…
“あたし、絶対一年で一人前の看護師になってみせる。あなたの妻として恥ずかしくない人間になって、必ずあなたのところに行くから。”
そう言って、送り出してくれた。
震える肩が、泣くのを必死に我慢していると教えてくれた。
そんなお前がありがたかった。お前が妻であることが誇らしくて、愛しくてたまらなかった。
仁川埠頭で別れたときも、1人で発った俺を見送りに来たハニは唇を噛み、必死に泣くのをこらえていた。
その姿に俺も胸が詰まり、何も言ってやれなかった
~回想終了~
だからだろうか、
ふとした瞬間、思い出すのはハニの泣き顔。
今もまたお前が泣いてるんじゃないかと心配でたまらない。
なのに、今の俺は遠すぎて、泣いてるお前を慰めてやることも、抱きしめてやることすら出来ない。
お前のいない隙間が大きすぎて、クタクタになるまで働いて、倒れるように眠りにつかなければ、この腕がお前の温もりを求めてしまう。
覚悟はしていたつもりだが、お前と離れるのがこんなにキツイとは…。
“一年の辛抱だ”と自分に言い聞かせる。
ふと携帯に目を向けるとメールが来ていた。
1日に何十通と送られてくるハニからのメール。
離島医療では電話が命綱だ。
だから電話は出来ない。必要な連絡はメールでしろと言っておいた。
嘘ではないが、ハニの声を聴くと、どうしても逢いたくなってしまうのがわかっていたから。
メールを見ると、今日何があったか事細かく書かれていて、ハニの様子が手に取るようにわかる。
中には浮気を心配する内容も…
(バカだな。こんなにお前のことで頭がいっぱいなのに、浮気なんて出来るはずが無いだろう?)
忙しくて返せないことがほとんどだが、10日ほど経ったとき、メールの最期に『逢いたい』と書かれていた。
胸が締め付けられるようだ。
ひさしぶりに返事を送る。
『俺は元気でやってる。』
(泣かないでくれ。)
『メールばかりしてないで、ちゃんと勉強しろ』
(俺もお前に逢いたい。)
『患者に迷惑かけるなよ。』
(心はいつもお前の隣にあるから)
愛想のない文章で押包んだ俺の本心。
お前に届くだろうか…?
to be continue…