今週の「暮らしの古典」は57話《神託を告げる人》です。
歳末の慌ただしい季節になりました。
初詣風景を想像してみました。
神職のお手伝いをするミコさんに焦点を絞ります。
朱の袴にお神楽を舞うミコさん。
縁起物を授けるミコさん。
ミコさんには「巫女」の漢字が宛てられてます。
どこか標題が透かして見え始めます。
拙著『水都大阪の民俗誌』和泉書院、2007年
《5 近代大阪の都市民俗の展開》に
郷土雑誌『上方』記事から
「住吉の神巫子さん」を取り上げたことがあります。
◆昭和初期は、
都市を中心に民俗の再生が盛んに行われた時代である。
神事に携わる人たちにも近代化は進行している。
上田長太郎「住吉の神巫子さん」(112号)に、
昭和16(1941)年当時、
住吉神社の神巫子の月給制度、養成、衣裳、化粧のしかたなど
専属の神巫子の実態を知ることができる。
神事・祭礼の近代化は、「復興」「再興」と称して再生を図る。
その際、当時の風俗を
「さも古風なもの」として取り込み再生を遂げるのである。
ここでのミコは「神巫子」が宛てられていて
当然のことながら彼女たちは、
月給制で、神社から雇われている身です。
そのようなミコさんでありますが、
『広辞苑 第七版』 (C)2018 株式会社岩波書店の「ミコ」を繰りますと、
意外なことに気づきます。
◆み‐こ【巫女・神子】
神に仕えて神楽・祈祷を行い、
または神意をうかがって神託を告げる者。
未婚の少女が多い。かんなぎ。→シャマン
「神意をうかがって神託を告げる者」とあります。
ミコとは、「口寄せ」をする女性なの?
清楚に振る舞う彼女たちに、このようなマジカルパワーが潜むの?
『新編 大言海』冨山房1982年の「口寄」に当り
「口」の意味を確かめました。
◆巫女(ルビ:カウナギ)、神人(ルビ:ヨリマシ)ニ、
物怪(ルビ:モノノケ)ノ霊ヲ
憑(ルビ;ヨ)ラシメテ、其言語(ルビ:クチ)ヲ述ベシムルコト。
「口」は「其言語」、「物怪」の発する言葉なのです。
そこでおよそ20年前、2005年1月2日から調査を始めた
石切劔箭神社「石切さん」(東大阪市東石切町)の参道での
情景を思い起こしました。
「「麓のマチの祈祷師たち」-霊気蠢く石切参道-」
(『大阪春秋 第118号』新風書房 2005年4月発行)を引きます。
◆橋を渡って右手に二階建ての文化住宅風の
「霊感鑑定所」がある。
「黒滝不動明王のお告げによる
難病と運命指導と加持祈祷」とある。
不動明王のおどろおどろしい絵が描かれている。
階段の手摺りには消えかかった文字で「病院」とある。
常夜灯の立つ辻には、神道一心教の占い師がいる。
写真図1 石切参道「霊感鑑定所」
撮影日:2005年1月2日
薄暗い室内では神霊との交感が行われているのでしょう。
霊気の蠢き(うごめき)を感じる参道でありました。
日頃、何とも気にも掛けない「霊」なる漢字が氾濫する空間でした。
この参道には癒やされるべき「霊」の持ち主が大勢居るのでしょうか?
◆この参道においては、神仏に言寄せる風がある。
神仏による効験は「霊験」、神の霊は「神霊」であって、
「神霊占い」「神霊易学」が客を引く。
神霊による祈祷も行われている。
いっぽうで、「霊のさわり」「霊障」といった「霊」は、
たたるとされる霊である。
「降神霊占い」「霊おろし」が盛んに行われている。
この参道中程に、
「金の鈴・銀の鈴」という占い店があり、
そこに女性の「先生」がおられました。
彼女を紹介したのは、
『みんなの民俗学』著者で今や、
ヴァナキュラー研究への道を開く民俗学者・島村恭則でした。
写真図2 『みんなの民俗学』

「麓のマチの祈祷師たち」を引用します。
◆右手には「金の鈴・銀の鈴」という占い店がある。
正面には赤い衣装を身に纏った地蔵尊像が立ち、
「水子供養・先祖供養・霊のさわり」とあって、
「病院・医者では治らない 神のさわり・霊のさわり
原因→解決」と説明がされている。
写真図3 占い店「金の鈴・銀の鈴」
撮影日:2005年1月2日

派手な看板に目が惹かれますが、
調査に赴いた際、「先生」に直接、お目に掛かり、
吃驚仰天しました。
◆彼女は童謡の大好きな気さくなおばさんでもある。
彼女の修行の中心地は、出雲大社であるが、
生駒山西麓の長尾滝でも行を積んだという。
彼女は龍神を最高の神として崇め、
その霊力によって諸霊を成仏させるという。
「龍神を最高の神として崇め」る彼女による加持祈祷の手順を
調査カードに書き込んだりもしました。
たしか「サニワ(審神)をする」と仰有ったのです。
「サニワ」とは「沙庭」といった場所ではなかったの?
いずれ本居宣長『古事記伝』を紐解く中で、
神功皇后の「巫女性」を深掘りすることになります。
大阪民俗学研究会代表
大阪区民カレッジ講師
大阪あそ歩公認ガイド 田野 登
