中学生や高校生のみなさんが英語の勉強をしているとき、「なんで2個以上のものになったら複数形でsをつけるっていう変な形にするんだろう。めんどくさいなあ」「三単現のsなんてうっかり忘れちゃいそう。なんでわざわざこんな形にする必要があるんだ」って思ったことがあるかもしれません。
自分もそんなことを思ったことがあります(笑)
日本語には複数になったらこんな形にするとか、主語によって動詞の形を変えるとか、そんなことをする必要はまったくありません。
そんな言語に慣れてしまっているぶん、英語のそういう点については、やっかいな思いをすることでしょう。
ただ、そのような変化というのは、英語の歴史をさかのぼって考えてみれば、全然やさしいものなんですよ。
みなさんは「古英語」というのを知っていますでしょうか?
5世紀ごろから10世紀はじめごろまでイングランドで話されていた言語で、今の英語のご先祖様にあたる言語です。
日本でも平安時代などに使われていた日本語が存在していて、それは「古典」として国語の授業で習いますよね
とくに高校生なら「あるある」のような感じでうなずいてもらえると思うのですが、古典の日本語は文法はかなり今のと違っていますし、単語だって今の日本語にないものや、今の日本語とはちがった意味があるものとかがありますね。
だから、古典の日本語はある程度の勉強が必要になるわけですが(だから高校の国語の授業では「古典」という科目があるんですよね)、古英語は英語にとっての古典なわけです。
同じように、古英語は今の英語とはまったくちがう言語だと考えてもらって大丈夫です。
今回は、そんな古英語の世界を少しのぞいてみることにしましょう
まずは動詞からです。
今の英語では、三単現のときならsをつけるとか、過去形のときならedをつけるというのが原則などのようなルールがありますね。
現在形のときは主語が三人称で単数(つまり、「私」「あなた」にかかわっていない、1人(1つ)だけ)のときだけsをつけますが、それ以外のときなら何もしなくて大丈夫です。
ところが、古英語の場合、主語が一人称(私)、二人称(あなた)、三人称の場合でそれぞれ動詞の形がちがっています。
それだけじゃなく、主語が単数のときと複数のときでも動詞の形はちがいます
しかも「現在形」と書きましたが、直説法現在(ふつうの現在形)と接続法現在(仮定法の現在形)という種類のちがう「現在形」があります。
ということは、「現在形」だけで、主語の人称・単数か複数か・直説法か接続法かということにより、単純計算をしたら3×2×2=12パターンの形があるわけです
同じことが「過去形」にもあります。
さらに弱ったことに命令文についても、「1人だけの人」に命令しているのか、「2人以上の人」に命令しているのかで動詞の形がちがいます。
今の英語の命令文だったら、「動詞の原形ではじめる」という1種類しかないので、命令文だけでも少しめんどくさいわけです。
もちろん古英語にも現在分詞や過去分詞があります。
なので、いろいろな形になって使われるわけなので、動詞1個を覚えるとなっても、10個以上の形をマスターしないといけないということになります。
動詞についてはここまでにしておいて、次は名詞についてです。
形の説明とかをする前に、大きな特徴をひとつ紹介しましょう。
古英語の名詞には性があるんです
今のフランス語とかドイツ語には「男性名詞」とか「女性名詞」とかがあるってことは、聞いたことがあるんじゃないでしょうか
英語にはそんなものはありませんので、ものを指すときは「それ(it)」ですみます。
ところが、フランス語とかドイツ語では「この名詞は男」「この名詞は女」と決められているので、ものを指すときは、「彼」「彼女」というのを使わないといけません。
これを読んでいるみなさんの中には大学に入りたいという人がいるかもしれないですが、大学の授業で第二外国語をやるとき、フランス語とかドイツ語みたいなヨーロッパの言語を勉強する際は、この点で苦労するかもしれません。
古英語、つまり昔の英語にもそれがあったわけです。
古英語にも、今の英語のa(an)やtheにあたる単語、つまり「冠詞」というのがありました。
この「冠詞」について、名詞の性別によって形が変わっていたんです。
ただでさえ、日本人にとって「冠詞」ってうっかり忘れちゃいそうになるぐらいのものなのに、その「冠詞」だけでも名詞のおかげで少しややこしくなるわけですね
そして、名詞には「格」というのがあり、これが古英語の名詞の最大の特徴といえるかもしれません。
中学・高校英語でも、「主格(「~は」、「~が」の形)」とか「所有格(「~の」の形)」などがあるので、「私」「あなた」「彼女」などの代名詞についてはそれぞれの形で使わないといけませんよ、っていうのがありましたよね?
あれと同じようなことが名詞にあるわけです。
古英語の名詞には主格、対格、属格、与格というのがあります。
主格は「~は」の形で、対格は「~を」の形、属格は「~の」の形なので、今の英語の主格、目的格、所有格とほぼ同じといえるでしょう。
そこにさらに与格というのが加わっているわけで、「~に、~のために、~にとって」の意味をあらわします。
そのそれぞれについて、形が決まっているわけです。
もちろん、今の英語と同じように単数か複数かで形も変わります。
動詞と同じように、名詞1個を覚えるだけでかなりの数の形を覚えるはめになります
動詞についても名詞についてもこんな難しい言語を今の中学生・高校生が勉強するってなったら、倒れてしまうんじゃないでしょうか?
時代が流れていくとともに、英語も変わっていき、だんだんと簡単になっていったわけですね。
そう考えると、今の英語もめんどくさい点はいろいろあるかもですが、かわいいほうじゃないでしょうか?
英語で「めんどくさいな」って思うことがあったら、「でもまあ、大昔の英語よりはマシか」って思ってがんばりましょう!