●風の女王(1938年) 監督:佐々木康
主な出演:三宅邦子 佐野周二 高杉早苗 笠智衆 森川まさみ 奈良真養 葛城文子
化粧品商社でタイピストとして働く、由起子(三宅)と多恵子(森川)。2人はスキーに興じつつ、話題はおのずと気になる男性のことで盛り上がる。会社に三瀬(笠)という男がいる。多恵子は由起子に、「私も行くから彼をデートに誘ってみたら」と持ち掛けるが、多恵子は都合が悪くなり、結局、由起子は三瀬と2人で会うこととなった。
とんかつ屋に入った由起子と三瀬。三瀬は専務の福井(佐野)と古くからの友人だが、「奴は女ったらしで、多恵子にも手を出している」と中傷する。そして「僕は前から君のことが好きだった。結婚して欲しい」と由起子にプロポーズする。
心ときめく由起子であったが、自宅に帰ると専務の福井から速達が届いていた。その内容は、「明日の休日お会いしたい。私はあなたに美しい幸福をもたらしてあげたい願いで一杯なのです」というものであった。怪訝に思った由起子は、福井との面会に妹の布枝(高杉)に同行してもらう。
福井の話はこうだった。化粧の研究のために女性社員を1人パリに派遣する計画があり、由起子を推薦したいと言うのだ。なぜ社外で秘密裏に打診したのかというと、いつの間にかこの話が一部の社員に伝わり、野心を抱く女性社員が猛烈な運動を進めているそうなのだ。
一瞬、三瀬との結婚話が頭をよぎる由起子。社内恋愛を御法度とする会社のため、三瀬との結婚は退職を意味するからだ。その件はともかくとしても、福井と多恵子の関係を怪しむ由起子は、すぐにでも退職届けを出したいくらいだと言う。多恵子から自分に乗り換えるつもり?と早合点した由起子は、カンカンの体で福井と別れる。
そんな由起子の感情に反し、妹の布枝は姉に目をかけてくれる福井を上手く利用しようと企む。布枝は福井を呼び出し、「自分を愛人にしてくれ」と言う。音楽学生の布枝は、自分がピアニストとしてデビューするための支援に加え、姉の由起子を出世させることを福井に求める。しかし、福井は病床の妻を持つ身であるゆえに、愛人とはいかないまでも、生活のお世話くらいならという軽い気持ちで、布枝が住む部屋を与えピアノまで買ってやる。
話は三瀬と由起子との結婚話に戻る。パリ行きに乗り気でない由起子に三瀬は、「すぐにでも結婚しよう。会社を辞めれば福井だって何も言えなくなる」と言う。由起子の手を握る三瀬だが、その直後なぜか三瀬は怒り出し、「君は僕のことが信用できないのか。もう帰りたまえ!」と態度を一変させる。
(肝心なシーンがカットされているのか、由起子に対する三瀬の心境の変化が唐突)
そこにいきなり多恵子が現れる。実は三瀬と多恵子は恋人関係にあり、パリ行きを狙う多恵子は、有望な由起子を会社から追い出すために三瀬に結婚の芝居を打たせたのだ。パリで成功を収め一流の美容師となった多恵子とともに立派な美容院を経営するー これが三瀬の計画だった。
家を出て福井の世話になる布枝だが、福井は由起子ら家族の心配を解消すべく、自分が預かっていることを伝える。そして由起子に「あなたを愛している」と告白するが、妻のある身の不貞な心を自戒する。だから、布枝にはしっかりピアノの勉強をさせると誓う福井であった。
ところがだ。三瀬は多恵子との計画を実現するために、布枝に接近する。福井の弱みを握ろうというのだ。しかし、これを機に布枝が行方不明となったことで、三瀬と多恵子の関係が福井にバレてしまい、2人は解雇を言い渡される。「社員同士の恋愛は許されないが、専務なら女性社員の妹を妾にしてもいいのか?」と福井に詰め寄る三瀬だが、会社の正式な決定だからどうにも覆せない。
そのうち布枝が海辺の温泉宿に居ることが分かった。連れて帰ろうと宿を訪れた福井だが、ここで福井は布枝と男女の関係を持ってしまう。後から宿にやって来た由起子はそのことを知り、福井をひどく軽蔑する。そして、良心の呵責に苛まれる福井は、自ら命を絶つのであった。
その後、重役会議で由起子のパリ行きが決定される。もはや心のわだかまりがなくなった由起子は、その命に快く応じる。
パリへと旅立つ際、布枝は由起子に許しを乞う。福井を死に追いやったのは、自分の軽はずみな行為が原因であることを深く反省しているのだ。「いままでのことは夢だった」と言い、布枝の幸せを願う由起子であった。
さて、タイトルの『風の女王』とは誰のことだろう。もちろん由起子を指しているのだろうが、これをどう解釈すべきか悩むところ。そのヒントとなるのが、エンディングに流れるベルディの『女心の歌』だ。「風の中の〜 羽のように〜 いつも変わる〜 女心〜♪」である。
解雇される三瀬が福井に食って掛かった際、他の役員が「そういうのを引かれ者の小唄と言うのだ」という台詞がある。
「引かれ者の小唄」という表現があるのか? 調べてみると「刑場に引かれてゆく罪人が強がりを言って、鼻歌まじりの小唄を歌うこと」とある。すなわち、「窮地に立たされて負け惜しみや強がりを言うこと」を意味する慣用句なのだそうだ。勉強になった。
この作品の主人公役の三宅邦子さん。戦後は小津安二郎監督の作品でよくお目にかかったが、和装なのにどことなくエキゾチックな雰囲気を漂わせる、不思議な魅力を持った人。
そんな女優さんは令和の時代には存在しない。

















































































