(再レビュー)
●新女性問答(1939年) 監督:佐々木康
主な出演::桑野通子 川崎弘子 三宅邦子 水戸光子 坪内美子 徳大寺伸 春日英子 夏川大二郎 廣瀬徹 大塚君代 森川まさみ 原清子 小橋昌子 葉山正雄 笠智衆

【愛憎編】
女学校時代の仲良し7人組は、大学進学後も「七人会」という女子独身倶楽部を結成していた。メンバーの1人・路子(三宅)が結婚することとなり、お祝いに駆けつけた他の6人は、路子に彼氏の写真を見せてほしいとせがむなか、時代(桑野)は大きな衝撃を受ける。その写真に写っていたのは、時代の姉・お葉(川崎)の恋人・村川(廣瀬)だったからだ。当の村川は、長年付き合ってきたお葉を捨て、実業家の娘の路子に鞍替えしたというわけだ。


お葉と時代の姉妹には事情があった。元々は裕福な家だったが、人の良い父親が悪人に罪を着せられたうえ、獄中死を遂げたのだ。その無念を晴らすには法律の知識が必要と考えたお葉は、時代に大学で法律を学ばせるため、自身は芸者の道を選んだのであった。

しかし、時代は、姉が芸者では仲間たちに軽蔑されると恐れ、「姉は銀座の美容室で働いている」と事実を隠し通していた。
村川との結婚をやめてほしいと路子に詰め寄る時代。このとき時代は姉が芸者であることを打ち明けるが、これに対し路子は「私と村川が別れたからといって、あなたのお姉さんが幸せになれるわけではない」と言い、さらには「芸者なんて男にふしだら」と口汚く罵る。これに激怒した時代は、路子と喧嘩別れしてしまう。
かくして路子と村川は結婚するが、まもなく路子の父親が亡くなったことで、負債の山だったことが判明する。鼻っから財産だけが目当ての村川は、金のない路子の家には何の魅力も感じなくなった。村川は「大陸に渡り成功して帰る」との言葉を記した手紙を送り、路子の元を去ってしまう。
金の工面ができずに家屋敷を出ることとなった路子だが、唯一の救いがあった。それは若い頃から父の秘書を勤めていた日野(徳大寺)の存在だ。日野は女中の志津とともに、路子のこれからの暮らしを支えていく。

物語は先の「七人会」に戻る。路子に次いで結婚したメンバーの雪子(水戸)が彼女たちの住まいに遊びに来た。雪子の夫が皆をご馳走に招待したいというのだ。皆が喜び勇んで食事会場に出向いたところ、偶然にも客に連れられた芸者姿のお葉と会ってしまう。焦る時代。
ここで、姉が芸者であることが皆にバレてしまい、時代は軽蔑の目を向けられる。女の自立を求め大学に進学した彼女らは、「女」を売りモノにする芸者に対し、日頃から嫌悪感を抱いていた。彼女たちと絶交した時代は、たった1人で勉強に励み、弁護士の道を目指すのであった。
方や、村川の子供を宿していた路子は、日野と志津の世話になりながら無事に出産していた。だが、日野に想いを寄せる志津を察し、自分が居ては邪魔だと、我が子とともに行方をくらましてしまう。

【友愛編】
お葉は弁護士事務所を経営する城木(夏川)から求婚される。「娘には母親が必要だし、時代さんが弁護士を目指しているなら、私と一緒になったほうが心強いだろう」と言う。しかし、村川のことを気にかけるお葉は、城木の申し出を丁重に断る。村川と路子が幸せに暮らしているなら諦めはつくが、行方知れずのままでは心穏やかではないという。

猛勉強の末、大学の女子部を首席で卒業した時代。卒業後は弁護士試験に挑むため、城木の好意に甘え彼の事務所に就職する。
一方、行方不明となっていた路子は子供を育てながらバーで働いていた。「まともな職に就いたほうが子供のため」という知人から紹介されたのが、城木の娘の家庭教師だった。なんという因果か!城木の願いで路子の面接に立ち会ったお葉は、彼女の名前を聞いて直ぐに分かった。自分から村川を奪った女ではないか!?
しかし、心優しいお葉は路子の住まいを訪ね、村川とのことを隠しつつ路子が安心して働けるよう支えとなる。
これを機に、路子と時代が再開する“不幸な”つながりができる。

そんなとき、お葉のもとに村川から連絡がくる。村川への未練を隠せないお葉だが、村川に路子の居所を伝え、会いに行って欲しいと懇願する。そして、路子親子の住まいを訪ねる村川だが、路子は「この子の父親は2年前に死んでしまった」と復縁を頑なに拒否する。しかし、村川が来た目的は、路子との間に生まれた子供を奪い取るためだった。無理やり子供を連れ去ろうとする村川。そこに偶然、お葉がやってくる。拳銃を手にした路子は村川を撃とうとするが、放った弾丸が不運にも間に立ったお葉に当たってしまう。お葉は死の床にありながらも、「村川さんの代わりに死ぬのなら私は本望。親子3人、幸せになって欲しい」と訴え、ついに絶命する。

時代は見事に弁護士試験に合格した。ともに苦労してきたお葉と喜びを分かち合うことができたし、お祝いに駆けつけてくれた七人会の友人らとも仲直りができた。そんな喜びも束の間、「お葉の死」という悲報を受ける。故意ではないと言え、かつての友人・路子が姉を殺した・・・こんな悲劇があるだろうか。
これ以降ストーリーは、「殺人犯・路子」の裁判へと展開する。
七人会の仲間たちから「時代に路子の弁護をしてほしい」と頼まれる。実の姉を殺した殺人犯の弁護などできるはずがない。
しかし、梅吉(坪内)からも「お姉さんだって路子さんの弁護を望んでいるはず。命を懸けてまで村川と路子の幸せを貫いたお葉の美しい心を汚してはいけない」と説得された時代は、路子の弁護を引き受ける。
いよいよ裁判が始まった。懲役3年の求刑に対し、「殺意のないところに、なぜ殺人が起こったか?」が争点となる。「村川の立場は法に触れないものの、男子として欺瞞に満ちた恥ずべき行動こそが事件に至る根源。人道的に糾弾されるべきは村川」と弁論する。必死の弁護の甲斐あって、路子には執行猶予の判決が下される。
全てが解決した後、時代は姉の想いを受け、城木との結婚を決める。

【見どころ】
◎大勢の芸者衆を集めた時代の弁護士合格祝いの席はまさに大臣
級の壮観さ。さらに三味線の演奏で七人会の友人が『純情の丘』 を歌うシーンが感動的。
◎路子を弁護する時代の弁論シーンには、実に10分以上もの長尺。『白い巨塔』(1966年)で滝沢修さん扮する船尾教授が、参考人として裁判の最後に無罪の妥当性を説明するシー ンが思い出される。このシーンは、『新女性問答』のオマージュと言ったら言い過ぎだろうか。いや、裁判劇で弁論のシーンをある程度リアルに描こうとしたら、これだけの尺をとらないと内容的に乏しいものになるからと考えられる。
【人間関係】
ストーリーの展開がやや複雑であり、これに加えて登場人物の奇遇なつながりが絡んでくる。
◎まず、雪子の夫は城木と知り合いで、七人会の女子らを食事に連れて行った先で、城木が連れてきたお葉ら芸者衆と遭遇する。
◎日野は出版社に勤める雪子の夫と友人関係にあり、自分の原稿を買ってもらったお金を路子の出産の病院代に充てる。残念なのは徳大寺伸さん演じる日野の立場が尻切れトンボぎみなこと。法廷のシーンで志津と一緒に顔を見せるが、ストーリーに最後まで絡んでほしかった。
◎城木の弁護士事務所で時代と一緒に勉強する男の妻が、同じアパートに住む路子の子供を預かっている。この路子の部屋が、お葉が死に至る事件現場となる。
【虎に翼との関連】
この作品から、朝ドラでやっていた『虎に翼』やモデルとなった三淵嘉子さんを連想する人も多いだろう。作品公開の年が1939年だから、三淵さんが司法試験に合格した1940年と時期的にはほぼ重なってはいるが、朝ドラのように「女性にもようやく開かれた法曹界」とか「日本初の女性弁護士」といったニュアンスは微塵もない。
また、当作品は、女性の社会的地位の向上といった問題よりも、「女性が自身の立場に関係なく、1人の人間としてどのような人生を全うすべきか」、「どれだけ悔いのない生き方ができるか」を問うたもので、そこに『新女性問答』たるテーマが反映されていると思う。
愛する者を幸せにするために、身を挺したお葉の人生は幸せだったに違いない。

「姉が芸者だから付き合わないだと?そんな薄っぺらな友情なら、こちらから熨斗を付けてお返しする」と啖呵を切る梅吉姐さん。

時代の弁護士試験合格を喜ぶお葉。この作品は、とにかく川崎弘子さんが美しく可愛らしい。

「お祝いを知らん顔していてはお友達として恥じゃないの?喧嘩別れしたままでは悲しい」と七人会のメンバーに時代の祝福を求める雪子(水戸光子さん)。
