●東京の女(1933年) 監督:小津安二郎
主な出演:岡田嘉子 江川宇礼雄 田中絹代 奈良真養 大山健二 笠智衆
姉のちか子(岡田)と弟の良一(江川)は2人で暮らしている。
ちか子は会社のタイピストとして働いているが、大学生の良一の学業を支えるために、勤務後は大学教授の元で翻訳のアルバイトをしていると聞かされていた。
ちか子と良一は仲の良い姉弟
ところがある日、ちか子が勤める会社に警察が訪ねて来た。
「彼女の会社での素行はどうなのか?」と尋ねられる社長。
真面目で卒なく仕事をこなすちか子の評判は優良で、翻訳のアルバイトについても会社は承認している。
ちか子の勤め先に警察が調査にやって来た
夜の女として酒場で働くちか子
しかし、翻訳のアルバイトというのは嘘で、夜の酒場で働きながら売春をしていたのだった。
ついに、ちか子に対する売春容疑で警察が動き始めたわけだが、良一の恋人・春江(田中)は、巡査である兄(奈良)からちか子の容疑を聞かされた。大きなショックを受けた春江は、そのことを良一に話してしまったのだ。
姉の潔白を固く信じる良一は、春江と大喧嘩になる。
良一は、夜遅く帰宅したちか子を問い詰めたところ、真実であると告白する。
すべては自分の学業のためと理解しつつも、自暴自棄となった良一は家を飛び出してしまう。
社会的に自立したちか子は春江にとって憧れの女性。そんなお姉さまが売春だなんて・・・ショックを隠し切れない春江であった
姉の真実を知り良一は大いに苦悩する
翌日、ちか子は良一の行方を尋ねに春江の家を訪れる。そこに巡査の兄から電話が入り、春江は良一が自殺したことを聞かされる。
大学生が自殺したことで、スクープを取らんとする新聞記者らがちか子宅に押し掛ける。「自殺した理由に心当たりはないか?」と聞く記者に対し、ちか子は「これといってありません」と毅然と答える。ちか子の売春容疑など知る由もなく、特ダネにならないと思った記者らは早々に立ち去っていく。
自宅に戻された良一の亡骸を前に泣き崩れる春江。その傍でちか子は「良ちゃんは最後まで姉さんをわかってくれなかったのね。このくらいのことで死ぬなんて・・・ 良ちゃんの弱虫」と涙ながらに呟く。
物語は、くだらないゴシップ事件を求める記者2人(笠・大山)の姿で終わる。殺伐とした世相を如実に表現しているが、人様の不幸を食い物にするマスコミ根性は昔も今も変わらない。
≪見どころ≫
『東京の女』が公開された1933年・昭和8年と言えば、五・一五事件の翌年。富裕層を守るばかりの政党政治への反発に端を発する事件であることはご存じのとおりだが、この事件以降も貧富の格差は広がるばかりだった。
元々、ちか子と良一は裕福な家で生まれ育ったのだろう。世界恐慌の煽りから親もろとも全ての財産を失い、たった2人で世の中に放り出されたと想像される。
不況を象徴する「大学は出たけれど」という言葉が流行した時代。良一の成長だけが生き甲斐のちか子は、売春をしてまで弟を大学にやることに対し、何ら犠牲とは思ってはいない。血を分けた者に対する女性特有の愛情(姉性愛?母性愛?)は男には理解できないのかもしれない。
方や良一は、自分のために姉が犠牲になっているというジレンマに苛まれ、自身の存在意義への不信から自殺という道を選んだのだろう。
春江の立場はさらに複雑である。ちか子が売春さえしなかったら、否、少なくともその容疑をわざわざ良一に伝えることなどしなかったら、愛する恋人が自殺するという最悪の事態には至らなかったわけだ。まずは自身の直情的な行動が悔やまれるが、ちか子を哀れに思うと同時に、恨んでも恨み切れない。
いずれにしても、世知辛い世の中を姉と弟の2人きりで生き抜いている、ちか子と良一の姉弟愛と絆は、我々現代人が考えるよりはるかに固い。
下衆な新聞記者役で登場する笠智衆さんと大山健二さん














































































































