短歌ブログ 道 -2ページ目

      短歌ブログ 道

   横尾幹男先生は高校時代から短歌に目覚め
   生涯を短歌と歩もうと決意されたそうです 
   このブログは先生の下に集った
   ベテランから初心者の短歌を載せています

夫のぞむ緋のかた襷手縫いして食器洗いをお任せします

降る雪の際限なさに足すくみ梅の香便り聞きてため息

夫にきし年金はがきの扶養欄  黒星示す老人のわれ

安倍良香  作




つるつるの行く道を見てエールする転んでも良いまた立ち上がれば

人生を迷って生きてゆく君の背中を眩しく思う

梨木いずみ  作




鉛筆で書き込みのある貸本の遍歴にまた我も加はる

鮮やかにブロッコリーを茹で上げる一つひとつが莟とあらば

吉田千寿子  作




娘や孫に誘どうされて歩み来し野辺いちめん冬月華やぐ

寂しさを吐けば忽ち雪が降りわれの行処が定まりて来る

雪の降るこの世の冷たさ見ませとや移りゆく半月華やぎている

横尾良子  作




朝々を木々の枝ゆらし小鳥鳴く春の雪散らす目覚めよ我よと

ひとりいて少し淋しく居る我に花束抱き娘がチャイムをならす

横尾幹男  作
陽の中で梢に遊びし雀たちときにさらさら風花散らし

枝々のあちらこちらに綿雪がまあるく包む確かな息吹きを

藤原恵美子  作




とめどなく粉雪積もる午後の道西日もかすみて身に染む寒さ

この冬は孫たち二人も加わりて除雪の手伝い なんと楽しい

藤原三枝  作




深雪を膝まで埋まり歩みゆくこの道確かと踏みしめながら

窓埋める雪山見つつカーテンを開ける時間の少し早まり

澤田静子  作




水掻きでみづうみを駆け飛び立てる白鳥の点となるまでを見つ

牡蛎貝が荒き殻もて連れて来し海の匂ひへレモンを絞る

吉田千寿子  作




月光の華やぎ増したカーテンを開けばふいに雪の静もり

雪・雪と雪に包まれ歩み来て振り向くと我の他見当たらず
     
横尾良子  作




今日もまた為すことなく眺めいる窓を歪めて寒の雨降る

鉛色の雲のむかう乗り遅れました空晴れて虚像めきつつ立てるビル群
      
横尾幹男  作
子規がいい感銘したと俳句道風邪に臥せるも一句も捻らず

ストーブに乗せて温めた甘酒缶おやこで交わす下戸の正月

息二人なにの因果ぞ忙しき三月四月延命良しと終活に書き

安倍良香  作




ふわり舞う雪の重さを確かめる新しき年心新たに

三が日君の隣で寝正月こんな私を今年もよろしく

初詣  願うは健康迫り来る四十路の私人生半ば

梨木いずみ  作




屋根の雪氷柱と化して光りおり夕昏れの道を帰り来たりぬ

そこだけが明るみ始め尖りたる月の現る雪道のうへ

吉田千寿子  作




限りなく海へ降る雪くろぐろと春待つ我の眼を閉ざす

黄昏の空に静けく浮く月を眺めて生きいる人ひとりいる

横尾良子  作




垂直に終はりへむかふ此の世かなしんしんと夜しんしんと雪

まざまざと浮かぶよ傘を直しいしかの老人のささくれし指

横尾幹男  作



曇天の隙間に現れし光ありわれの眼を静かに照らす

一瞬の静寂のあと一人居るにわかに除雪機の音聞こえ来る

藤原恵美子  作




綿雪がななかまどの実にふんわりと小鳥飛び交う朝の光に

久方に友へ電話す懐かしく語れど尽きない思い出話

藤原三枝  作




青空へひかりを返す雪山やぽつりと顔出すすべり台あり

凍てし朝曇りガラスを手でふいて除雪の確認 日課となりし

澤田静子  作




空に野あり数多の花を咲かしめて花びらのごとき雪を降らせる

電線に糸のからみし風船へ手を伸ばしたし寒風の中

吉田千寿子  作




真昼間の雪に降られて歩み来し女ひとりの終着駅まで

老いふかくなりにし顔を映しいる鏡の向こうに冬月ひかり

横尾良子  作




ひかるもの持たざるこの身を運びゆき放ちぬ雪野の輝きの中

雪道の窪めるところことさらに重たく午後のひかりを溜める

横尾幹男  作
帯を解き肩から滑らす装いの丸き脱け殻今より日常

初雪を少し残せるいちいの木ビルの明かりをわずかに受けて

風雪に埋もれ声なき自転車たち主ぞいつ来る校庭の隅

阿部良香  作




寄るの更けてサンタのごとく君が来る雪の香りを身にまとわせて

忙しき師走の君との逢瀬待つ手帳を開き眺めて過ごす

梨木いずみ  作




どの家を温むるタンクローリーか夜明けの国道疾走しゆく

夜勤明けの主を待てる車へと一晩中を雪は降り積む

吉田千寿子  作