テロリスト登場!(夏詩の旅人2 リブート篇 「対決!テロリスト篇 3話」) | Tanaka-KOZOのブログ

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 2006年9月下旬。
鎌倉国立大学学園祭まで、あと1週間。



 
東京石神井公園、カズの自宅スタジオ。

「お~!、すごいなこのニュース…」
スマホでニューストピックスを見ながら言うドラムの小田。

「ちょっと聞いてんの小田さん!」
1週間後に迫った、鎌大野外ライブについての説明を、メンバーにしていたジュンが言う。

「だって、今日逗子で銃撃戦があったんだよ」と小田。

「銃撃戦!?」
反応する僕。

「もう!…」
話を聞いてくれない僕らへ、ジュンがふてくされる。

「ほら!、カズもこっちに来て聞いてよ!」
ジュンは少し離れた場所に座っていた、カズの背中越しへそう言った。

カズはモデルガンを手にしていた。

モデルガンは、デザートイーグル357口径。
彼はガンマニアで、趣味のサバイバルゲームで使っている愛用銃を握っていたのだった。

本物のデザートイーグル357口径は装弾数が9発だが、サバゲーで使われるこのエアガンは、もっと多く連射できる。
最近のモデルガンは精巧に造られていて、重量、質感とも本物そっくりだ。

「お前はいつまでたっても、こういうオモチャが好きだなぁ…」
カズに近づいて僕が言う。

彼の自宅スタジオにはショーケースがあり、その中にはアメコミキャラのフィギュアや、ライトサーベル、モデルガンなどがたくさん飾ってあった。

「オモチャとバカにしてると痛い目に合うぜ」
カズが僕へ銃を向けて言う。

「ちょっと下がってみろ…」
カズが僕を3m程後ろへ下がらせた。



パンッパンッ!
いきなり僕目がけて撃つカズ。

「痛ッ!、痛ぇッ!」

カズの撃ったBB弾が、僕の身体にめり込む感じで当たる。

ははははは…。

「お前やめろよ!」
想像以上の痛さに、僕はややキレる。

「結構痛いだろ?」
嬉しそうに言うカズ。

「これくらい痛くないと、サバゲーでホンキになれねぇんだよ」
そういうとカズは、また僕を撃ってきた。

パンッパンッ!、パンッパンッ!

「痛ぇッ!、やめろバカッ!、痛ぇッ!」

スタジオを走り、逃げ惑う僕を追い回すカズ。

ははははは…。

その光景を見て笑う小田。



「もう!」

ジュンは、打ち合わせにならないメンバーたちに呆れかえって怒っていた。




 東京霞が関、警視庁本部内。

「これもバッグの中に入ってたのか…?」
数枚のパンフレットやチラシを手に取り、平松刑事が言った。

銃器と一緒にバッグの中にあったそのチラシ類は、コンサート会場、野球場、ライブハウス、ディスコ、クラブ、大学などのものであった。
これらの場所が、次のテロの標的である可能性は、十分ありえると誰もが感じていた。

「こんだけあると、絞り込むのも大変ですね」
平松に、それらのチラシを手渡した式田刑事が言う。

「絞り込むのは不可能だ…。だから1個1個しらみつぶしに当たるしかない」
チラシ類を机の上に置いた平松が言う。

「分かりました」と式田刑事と井星刑事。

「差し当たっては、このチラシにあるK大、M大、鎌倉国立大学が、来週の週末に学園祭が行われる」
「しかし、これだけの理由で、大学側に学園祭を中止しろとは言い難い」

「一般来場者から目立たない程度の人数で、一応これらの大学へ警護に入ってみよう」
「俺は鎌大に行く。式田は岡田とK大へ、井星はM大の学祭へ入ってくれ」

「分かりました」
平松に指示された2人の刑事が言った。



 2006年10月上旬。
鎌倉国立大学学園祭当日。

午前8時半。
僕はジュン、カズ、小田さんと4人で鎌大に到着した。

「なんかやけに多いな、ああいうの…」

校舎の外で垂れ幕を抱えた、反原発デモ集団の姿を見て小田さんが言った。

「ホントだ…。こっちは学生たちがやってる…」とジュン。

僕らが校内を歩いていると、今度は鎌大の生徒らしき集団も、拡声器を手に原発反対を唱えていた。



「今日は、この大学の講堂で原発フォーラムが開催されるんだよ」とカズ。

「だからこんなに多いんだぁ!?」
ジュンが言った。

「僕の大学生の頃は“日米安保条約反対”って、やってる学生デモだったけど、今は違うんだね…」
小田が言う。

「時代を感じるなぁ…」
自分より年上の小田の言葉に対し、少しからかう様に僕は言った。

「えっ!?、何ッ?、カズたちが大学生の頃って、学生デモとかやってる連中いなかったのッ!?」
小田さんが僕とカズに言う。

「いないですよ」
苦笑いしながらカズが言う。

「小田さんまでの世代が、団塊の世代の、最後の生き残りを生で見た世代なんだろうねぇ…」
僕がそう言うと。

「なんだよ!、俺だけ年寄り扱いしちゃってさッ!」
ふくれて、小田さんが言った。



「ややッ!…、どもどもッ!」
その時、僕らの後ろから、聞き覚えのある声がした。

振り返ると警備服を着たハリーが、笑顔で手を挙げて立っていた。

「ハリー!久しぶりだなッ!」
カズが笑顔で言う。

「ホントにアンタは、どこにでも現れるな…?」
僕も続けて言う。

「今日はどうしたんだ?」
僕はハリーに質問した。

「ガハハハハ…!、わたし前回警備会社クビになっちゃったじゃないですか?」
オールバックに、少し色のついたメガネをかけたハリーが、白い歯をむき出して豪快に笑った。

「ああ…、茅ヶ崎の…」
僕はそう言うと、あの時ハリーと一緒に、メイを助け出す為、大立ち回りをしたあの事件の事を思い出した。
※「ア瞳ニモマケズ」の回、参照。

「それで新しい警備会社に転職したんです!、そして新しい会社では、私の今までの実績を買われて、警備責任者というワケですよッ!」
そう言うとハリーは、自慢げにガハハハハ…と、また笑い出した。

「それで、今日は鎌大の学祭の警備に…?」と僕。

「イエスッ!鷹巣クリニックッ!…、ガハハハハ…!」
ハリーのしょうもないギャグに、思いっきり引く僕ら。

「そうか…、で、仕事の方は上手くいってるのかい?」
カズがそう聞いた瞬間…。

「バカヤロッ!」と、ハリーがイキナリ、カズにビンタした!

叩かれた頬を両手で押さえるカズ。
状況が把握できない彼は、目を見開いてハリーを見つめる。

「試合する前から、負ける事を聞くやつがあるかッ!、バカヤロ~ゥッ!」
ハリーが意味不明な事を言い出す。

そう言い終えるとスッキリしたのか?、いつものハリーの笑顔に戻り、「じゃッ!、わたし仕事ありますんでッ!」と手を挙げて僕に言った。

僕の後ろでは叩かれたカズが、「てめっ!、何ワケわかんねぇ事いいやがってッ…!」と、ハリーに飛び掛かろうとしてるが、小田さんに「まぁまぁ…」と押さえつけられて、飛び掛かれないでいた。

走り去っていくハリー。
20m程先には、彼の部下たちが整列して待っている姿が見えた。

「それじゃあ、みなさぁ~ん!、今日も1日、元気でやっていきましょう~!」
整列した部下たちの前で、ハリーが笑顔で言っている。

「元気があれば何でも出来るッ!…。いくぞぉ~ッ!」
「イ~チ、ニィ~、サンッ…」



「イノキか…」
僕が見つめる先のハリーは、メンバーと共に「ダァ~ッ!」と、元気よく拳を突き上げ叫んでいた。


 その頃、警視庁公安部の平松刑事も、既に鎌大へ現れていた。
彼は部下4人とで、覆面警護にあたっていた。

「こっちは今のところ特に変わった様子はない。引き続き監視を続ける」
懐の無線マイクに向かって、校内の別の場所にいる仲間にそう言う平松。

「もし怪しいやつを見かけたら迷わず職質しろ。いいな…?」
彼はそう言い終えると、マイクから口を放した。

時刻は9時になろうとしていた。
鎌大にも来場者が、かなり集まり出していた。

(もしこんなとこでテロを起こされたら、被害はこの前とは比べものにならない事になる…)
平松はそう思うと、一層気を引き締めて警護に当たる決心をした。

ピィ…ッ

その時、平松の無線の音が鳴った!

「どうしたッ!?」
無線に出て、相手刑事に聞く平松。

「怪しい奴を見つけました!」

「今どこだ!?」

「講堂の裏です」

「分かったすぐ行く!」
そう言うと平松は無線を切って、講堂の方へ急いで向かった。

 平松が講堂の裏へ到着すると、一人の男が刑事に後ろ手にされ、壁際に押さえつけられていた。
男は警備員の恰好をしていた。

なるほど…。
警備員に紛れ込んでテロを実行する…、あり得る事だ…。

平松は押さえつけられている、その警備員の所持品検査をした。

「わっ…、わたしは警備責任者ですッ!」
拘束されている男が言う。

構わず所持品を調べる平松。
身分証が出て来た。

身分証の顔写真と、拘束されている男の顔を見比べた平松が言う。

「こいつはシロだ」

「でもこいつ怪しいですよッ!」



「放してやれ」
平松がそう言うと、刑事は警備員を解放した。

身分証の名前は“イマイ”という名だった。
ハリーだった!

 確かにこの警備員は怪しかった。
だが、テロリストの怪しさとは、また違った怪しさだと、平松の刑事としての勘がそう判断したのであった。

「痛てててて…」

後ろ手にされてた腕を振りながら言うハリー。
解放されたハリーは、その場を離れて行った。

その様子を、遠巻きで見ていた人物に平松は気が付いた。

その男をチラッと見る平松。
男は慌てて目を逸らすと、その場からそそくさと立ち去って行った。

「おい…」
平松が仲間の刑事に小声で言う。

「あの男が怪しい…。後をつけるぞ…」

「はい…」

部下の刑事がそう言うと、2人は立ち去って行った男の後を追った。



 鎌倉大記念講堂 原発フォーラム会場

「いよいよ始まるな…野中くん」
大柴がリョウに言う。

「ええ…。今日ここから始まるんですね」

大柴と2人で壇上を見つめるリョウ。
会場内はボランティアスタッフ4名が、パイプ椅子を並べて準備している姿があった。

開演前だが、既に数名の来客が講堂の中に集まって来ていた。
この原発フォーラムへの関心の高さが伺えた。

来場者の中には、孫らしき男の子を連れたお婆さんの姿も見えた。

その姿を見たリョウは、あの津波災害のあった日、リョウの事を助けてくれた渋川トメと孫の事を思い出した。

(あの時のお婆さんも、今ではどこかの町へ移住してしまったのだろうな…)
そう思うと、一刻も早くM県港町を復興させなければと、強く思うリョウであった。



「大柴さん、フォーラムの進行は、こんな感じでどうでしょう?」
イベント会社“Unseen Light”社長の、岬不二子がA4用紙を手に言う。

不二子は、野外ライブステージの設営が済んだので、こちらの原発フォーラム会場の方に来ていたのだった。

大柴は不二子からA4用紙を受け取ると、それに目を通しながら不二子と打ち合わせを始めた。

「リョウ!」
そう呼ぶ声に反応したリョウ。

リョウが振り向いた先には、僕やカズたち4人の姿があった。

「原発フォーラムがあるって聞いてたけど、君ら(毎朝新聞社)が主催だったんだ?」と僕。

「ええ…。今日、ここから始まるの。復興に向けた新しい第一歩がね…」
壇上の垂れ幕の方を見つめながらリョウが言った。

「あら?、二人はお知り合い?」
大柴との話が終わった不二子が、こちらへ向かって歩いて来た。

「君か…?」と不二子に言う僕。

「そうだったな…、講堂で行う原発フォーラムも、君の会社が関わってたんだっけな…?」
思い出すように、続けて僕は言った。



「で?、どういうお知り合い?」と不二子。

「彼女は、俺が以前働いていた会社の後輩だ」

「そうなんだ…?」
そう言った不二子の後ろにいた大柴と、僕は目が合った。
僕らは遠巻きに、お互いが軽く会釈する。


「お前、美人の知り合い多いなぁ…」
僕の横からカズが、ヒョイと顔を出して言う。

「ども…」
カズがリョウに挨拶をする。

リョウもカズに会釈した。

「ここが会場かぁ…」
「へぇ…?、途中でライブとかもやるんだぁ?」
カズは興味深そうに、会場を舐め回すように見つめる。

「ちょうど良かったわ。みなさん揃ってる様だから、今から野外ステージをお見せするわ」
不二子が、僕ら4人にそう言う。

「ああ…、そうだな案内してくれ」
「じゃあリョウまたな…」と、僕はリョウに挨拶して歩き出す。

わ~い!と、行こうとするジュンを手で制して止めるカズ。

「ん!?」と、カズに振り返るジュン。

「どうした行かないのかぁ~?」
少し離れた場所から僕が言う。

「先に行っててくれ、後から行く」とカズ。

「分かった~」
そう言うと、僕と不二子は講堂から出て行った。

僕と一緒に出て行く不二子の笑顔を眺めているカズ。

そしてジュンの方は、なによ…?という目で、カズを見つめる。

「お前はここにいろ」とカズがジュンに言う。

「なんでよ!?、あたしもステージ見たいんですけどぉ…」

「ここにいる方が面白そうじゃないか?」

「どこが?…、ぜんッぜんッ…」

「俺はお前と一緒に、ここにいたいんだよぉッ!」
突然ジュンに、おちゃらけて言うカズ。

「うわっ!キモッ!何突然!?」

「いいからここに残れって!」

「カズ、サイテー!、あんた結婚してるじゃない!?」

ははははは…。

2人のそのやり取りを見て小田が笑う。

「それでも良いんだよぉ~!」とふざけて言うカズ。

「お前の人生、バーリトゥード(何でもあり)かよぉ!?」
どこかで聞いた様なセリフをジュンが言った。





「今日はベーシストとして参加ね。ちょっと残念かしら…?」

 鎌倉大学構内のレストラン。
僕の向かいに座る不二子が言う。

ステージを案内してもらった僕は、不二子とレストランに入って打ち合わせをしていた。

「別にここでは、自分が歌わなくたっていいさ」

「ここではって…?」

「それに今日の主役はジュンだしな…」と僕が言う。

「ねぇ…、前から聞こうと思ってたんだけど…」と不二子。

「なんだ?」

「あなたって、どうして積極的にメディアに出ないで、旅なんかしてるの?」

「おかしいかい?」

「ヘンよ…!、なんか意図的に避けてるみたい…?」

「そんな事はないよ」
苦笑いで僕は言う。

「ただメディアに積極的になると、旅が出来なくなるからな…」

「それよ!、なんで旅にこだわってるの?」

僕は不二子のその質問に、なんと言うべきか?少し考え、言葉を選びながらしゃべり出した。

「2004年…、2年前の夏だ…」
「俺は会社を辞めて、シンガーソングライターの道を選んだ」

「だがその時の俺は、自分が選んだこの道にまだ自信が持てなくて、伊豆の今井浜まで車で旅に出かけてたんだ」
「現実逃避というやつだ…」

「あなたにも、そんな繊細なとこがあったの?」
少し驚く不二子。

「なんだよそれ?」
苦笑いでいう僕。

「あっ…、ごめんなさい!、続けて…」
不二子はそう言って、話の続きを急いた。

「そこである女性と出会った」

「女性?」



「ハルカ(晴夏)という、プロサーファーを目指している女性だ」

「当時彼女は26歳…、プロになるには最後のチャンスだったと思う」
「だが彼女は、余命が少ない実家の母親の元へ、サーフィンを止めて東京に帰ってしまったんだ」

「残念ね…」

「そう思うだろ!普通!?」
僕が突然身を乗り出して言ったので、不二子が少し驚いた。

「ところが彼女は俺にこう言ったんだ」

「大丈夫!、しばらくしたらまた帰ってくるから…」
「人生遅すぎたってもんは無い!やろうと思えば、またいつからでも始められるんだから…てね」
※「Surfer Girl」の回、参照。


「俺は彼女がそう言ったときに、ガーンと頭を叩かれた気がしたよ!」
「一体俺は、何をウジウジ悩んで、現実逃避してたのかってさ…」

「そんな事があったの?」

「ああ…、ちょうど君が下田のFM局の仕事を、俺に持って来てくれた時の、1ヶ月ほど前の話さ」

「ああ!あの時…」
不二子が思い出した様に言う。
※「ハイビスカスの少女」の回、参照。

「まぁ、それ以外にもいろいろ、俺の背中を押してくれる様な言葉をかけてくれたりもしてね」
「あの時の彼女には、ホント感謝してるんだ」

「それで俺は彼女に約束したんだよ」

「約束?」

「ああ…、“俺も君みたいに、人に力を与えられる様な歌を作るよ”ってね」
「それが今の俺の音楽活動の原点で、生き甲斐にもなっている」

「そうなんだ…」

「だから、今俺はこんなに元気よくやってるんだぜって、彼女に知らせたいんだよ」

「連絡しないの?」

「知らないんだ」

「知らないの!?」

「ああ、東京のどこへ帰ったかも分からない。とにかく最後の挨拶をする前には、もう実家へ帰ってしまったんだ」

「じゃあどうする気なの?」

「そこで、東京へ帰った彼女がもしサーフィンを再び始めていたら現れそうな海…」

「ええッ!、それで伊豆とか神奈川の海へしょっちゅう旅してるのッ!?」

「そういう事だ…」
「おかしいだろ?」

「というか、どんくらいの確率の話よ!?」

「無駄かもしれないが、やってみたいんだ…」

「その人のこと好きなのね…?」
不二子は、少し寂しそうにポツリと言った。

僕は不二子のその言葉を聞いてハッとした。

「そうか…、そうなのかもしれないな…」



(バカ…)

「2年前でしょ…?、もう結婚してるかも知れないわよ…」
そう言った不二子は、どうでも良い事を意地悪く口走ってしまった自分に後悔した。

「不二子…、俺は彼女が結婚してたら会いたくないとか、独身だったら会いたいとか、そういう事は別に関係ないんだ」
「俺は彼女と会ってから後のことなんて、これっぽっちも考えてないよ」

「ただ最後にちゃんと挨拶できなかったという事が、心の中でずっと残っていて、それがイヤなんだ」

「ただそれだけの理由…?」

「ああ…、俺は、人は別れる時、どう相手を見送るかという事が、とても重要だと考えているからね」

「ふぅん…」
頬杖をついた不二子はそう言うと、窓の外を眺めた。

その時、遠くから何か“ボンッ”という破裂音が聴こえた。

「なんだぁ!?、ガス爆発かぁ…?」
聴こえて来たその音に僕は言った。


 鎌倉大学の旧校舎の屋根が突然爆発した。
建物からは黒煙がモクモクと上がっている。

「なんだ!?、何が起こったッ?」
怪しい男を尾行中の平松刑事が、黒煙の上がる旧校舎の方へ振り返ると、部下の三上刑事へそう言った。

「分かりません!もしかしたら爆弾かも…ッ!?」

「三上ッ!、お前はあそこに行って爆破原因を調べて来い!」
「俺はあの男を追う!」

「分かりました!」

「状況が分かったら無線で知らせろ!」

「はい!」

平松がそう言うと、部下の三上は現場の方へと走って行った。


 ズズズズズ…。

爆発現場から、比較的近い場所にある講堂が振動で揺れた。

「何だあの音は?」と小田。

ざわつく講堂内の人々。

講堂にいるリョウも不安そうな顔をしている。
隣の大柴は、顔色一つ変えないで黙っていた。

ズキューンッ!、ズキューンッ!

その時、講堂の壇上から銃声が鳴り響いた。

壇上へ振り返る人々ッ!
そこには3人の若者が立っていた。

中央にいる男は、講堂の天井に向けて銃を構えていた。
どうやらあの男が発砲した様だった。



「みなさん、どうも初めまして。私はフールズのリーダー中沢です」
銃を持った手を下げてから、壇上の下で硬直している人たちへそう言う男。

その光景を不安に見つめるリョウやジュンたち。

「みなさんには、これから我々の人質になっていただきます」
中沢と名乗った男がみんなに言う。

「ハッハァーッ!、イッツ、ショウタイムッ!」
続けてその男が言った。


ピィ…ッ。

平松の元へ、三上刑事から無線が入った。

「どうした?、何か分かったか?」
尾行を続けながら平松が言う。

「平松さんッ、あの爆発はおそらくテロによるものですッ!」
「リュックを背負った男が旧校舎に入り、上がって行く姿が目撃されていますッ!」

「なんだとッ!?」

「その男が最上階へ行った後、すぐに爆発が起きた様ですッ」
「リュックの中は爆弾ですッ!、やつらは自爆テロを行った模様ですッ」

三上刑事がそう言うと、平松は自分が尾行をしている目の前の相手も、リュックを背負っている事に気が付いた!

(大変だッ!。あれも爆弾かも知れない…ッ!?)

「分かったッ!、お前はすぐ本部へ応援要請をしろッ!、俺は尾行してるやつを止めるッ!」
平松はそう言うと、尾行している相手に向かって走り出した!




 鎌倉大学記念講堂

講堂内の人々は中央に集められていた。
その中には、カズやジュン、小田、そしてリョウや大柴の姿もあった。

ボランティアスタッフと思われていた4人は、どこから持ち出して来たのか?、自動小銃AK47を構えて人質を囲んでいた。
彼らもフールズの仲間だったのだ。

「大柴さんッ!これは一体ッ!?」
リョウが隣の大柴に言う。



「野中くん…、もう少し様子を見てみようじゃないか…」
「面白い事になるかもしれない…」

「面白いだなんてッ…」
何てことを言う人なの!?という顔で、リョウは大柴を見つめた。


「何事ですかぁ~?」
その時、銃声を聞いた警備責任者のハリーが講堂へ顔を出した。

「ッ!!」

一瞬で状況を把握したハリーが固まった。



中央に集められた人たちは、警備員が現れた事で少し安堵の表情を浮かべる。

「ちょっとッ!、あんた警備員でしょ!?、なんとかしてよッ!」
ジュンがハリーに叫んだ。

「いや…、私はこれから重要な用事があるもんで…失礼…ッ」

「これ以上、重要な用事って何よぉッ!」
キレるジュン。

ズキューンッ!

その場から立ち去ろうとする、ハリーの足元に銃弾が飛んだ。

「おいッ、あんたも手伝ってくれねぇか?」
「このパイプ椅子で、出入口を塞ぐバリケード作るのをよ…」

一歩も動けないでいるハリーに、銃を向けた中沢が言う。

その状況を、固唾を飲んで見守るジュンや小田たち…ッ!

緊張が走るッ!

するとハリーは、いきなりテキパキと言われるがまま、バリケードを作り出した!



テキパキ!、テキパキ!

ダメだこりゃ…と、その状況を見て、ガクッと崩れ落ちるジュンたち。

ハリーの動きは、妙に手際が良かったのであった…。




「さてと…」
壇上にいる中沢が、ノートPCのセッティングを完了して言う。

ジュンや人質たちは、講堂内の中央に集められ座らされていた。
そして、その周りを4人のテロリストたちが、AK47銃を構えて見張っていた。

「日本政府及び、警察諸君ッ!」
中沢がPC画面に向かって、突然叫び出した。

「我々は、反原発を訴えるグループ、フールズであるッ!」
どうやら中沢は、PCの内蔵カメラを通じてネット配信をしている様だ。

「我々は、今、鎌倉国立大学の記念講堂に立てこもっている!」
「現在、ここには人質が10名ほどいる!」
中沢はそう言うと、壇上からPCの向きを変え、下に座らせている人質たちが映像に映る様にした」

「ご覧の通りだ…」
「そこで我々は君たちに要求する!、今から1時間以内に、現在日本で稼働している原発を全て停止せよッ!」

人質たちがざわつく。

ズキューンッ!

「静かにしろいッ!」

天井に威嚇射撃をした中沢が、騒ぐ人質たちへ言う。

黙り込む人質たち。

「我々は本気だ!、先ほどの爆発は、我々の同志がやった自爆テロであるッ!」
「現在、この大学には至る所に、あのような爆弾を背負った仲間が潜んでいる」

「下手な動きをしてみろ…、遠慮なく爆弾をどんどん爆破させる…」
「脅しじゃないぞ…。見てろ!…やれッ!7班ッ!」



ボォ~ンッ…。

その時、遠くから爆破音が聴こえた。

「分かったか?、このままどんどん爆破を続ければ、犠牲者はどんどん膨れ上がるぞ!」

「それから、今日ここにお集まりいただいた同志諸君ッ…!」
「ついに今日、歴史的な日が訪れようとしているッ!、我々の念願が叶う日がやって来た!」


「反原発を唱える同志諸君ッ!、我々に力を貸してくれッ!」
「記念講堂の前に集まって欲しい!、ここは爆破がない、安全だ!」

「みんなは力を合わせて、ここに国家権力のイヌどもがやって来ないように阻止してくれッ!」
「大丈夫だ…。日本の警察は君たちを撃ってきたりする事は絶対ない。日本とはそういうお目出たい国だからな…」

「だから頼むッ!、あと…、あと一歩でこの国から原発を無くす事ができるんだ!」
「みんなで力を合わせて、この目的を達成しようじゃないかッ!」

「やろうぜッ!…、君もッ!」

校内でこの放送を見ていたデモ集団は、スマホにかじりついていた。

「そうだ…、同志諸君ッ…」
中沢が思い出した様に続けて言う。

「もし、校内で警察を見つけたら粛清してくれッ!」
「これは正義の戦いだ。邪魔をする警察を見つけたら粛清だッ!」

「粛清せよッ!…」

粛清せよ!…。

粛清せよ…。

粛清せ…。

粛…。

中沢の、この言葉がデモグループたちの脳裏に鳴り響き続ける。
その時、デモグループたちの目つきがギンッと変わった!

(そうだ!警察は粛清だ!…、粛清せよ!)

校内のあちこちに散らばっていたデモ集団は、“粛清”の言葉をスローガンに、記念講堂の方へ続々と向かい始めた。


「では最後にもう一度政府に言うッ!」

「いいかッ!?、1時間以内だぞッ!」
「もし要求を呑まなければ、ここにいる人質を1時間おきに一人ずつ撃ち殺すッ!」

「以上だッ!」
そう言い終えると中沢はPCカメラのスイッチを切った。

ジュンや人質たちは、不安でお互いの顔を見合わせた。



「大変だわ!」と不二子。

レストランにいた僕と不二子は、今何が起こっているのか状況を知るために、スマホのTV画面をチェックしていた。
TVのワイドショーからは、レポーターがヒステリックに叫んでいた。

「こちら鎌倉国大前から中継ですッ!、ご覧の通り、今犯人グループからの要求がありましたッ!」
「それでは一旦、スタジオに戻します」

「はい、ありがとうございましたぁ~」
「いやぁ…大変な事になりましたね。玉川さん!?」
TVの司会者がコメンテーターに質問を振る。



「そうですねぇ…、立てこもってるテログループは、一般人のデモ隊を味方につけて講堂前を守る行動に出て来ました」
「これは警察としても厄介でしょう…」

「どういう事ですか?玉川さん…」

「日本は、民間人のデモ隊などは、絶対に銃で撃って制圧したりしません…、いや出来ません!」
「もし、そんな事をしたら国際社会から大バッシングを受けてしまいますからねぇ…」

「では、警察はどうすることも出来ないと!?」

「そうですね…。まぁ日本も腐った政治をしているから、我慢に限界を超えた民衆が、こういうテロを強行してしまったというワケです」

「では、玉川さん的には、こういったテロ行為もいたしかたないと…?」

「そうですね…。いや、むしろ僕はテログループを応援したいくらいですよ!」

「玉川さんッ!それはちょっと問題発言では?」

「そんな事ありませんよ。もっとどんどんやるべきです!、そうでなきゃ国は動きませんから…」

コメンテーターの暴走した発言に、慌て出したディレクターが急いでCMに入れと指示を出していた。


To Be Continued….




Never let you down!(夏詩の旅人2 リブート篇 「対決!テロリスト篇 4話」)


拳銃はデザートイーグル (夏詩の旅人2 リブート篇 「対決!テロリスト篇 2話」)

友よ… (夏詩の旅人2 リブート篇 「対決!テロリスト篇 1話」)