カローラⅡに乗って、会いに行く (夏詩の旅人2 リブート篇) | Tanaka-KOZOのブログ

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★ついにデビュー13周年!★2013年5月3日2ndアルバムリリース!★有線リクエストもOn Air中!



 2000年1月

僕は友人カズの自宅スタジオで、録音を終えた1stアルバムの、ミックスダウン作業に追われていた。

ミックダウンは、そのアルバムの命とも言える作業だ。
これが上手くいくかいかないかで、作品の評価がまるで変ってくる。

僕は何度もミックスダウンが済んだ曲を聴き返しては、また気になる部分をミックスダウンし直すという作業を繰り返していた。

そんなとき、僕がレコーディングをしているという話を、カズから聞いた歌手の櫻井ジュンが、ここにやって来ると僕は知らされるのであった。

彼女と会うのは、もう10年以上も前…。
2人で浅草の浅草寺へ初詣に行って以来の事であった。





「のぞみ…、今日はオフなのに付き合ってくれてありがとね♪」
カローラⅡの助手席に座るジュンが、運転するショートカットの女性に言う。

ショートカットの女性の名は、藤田のぞみ 26歳
歌手、櫻井ジュンのマネージャー兼ドライバーである。

のぞみは、中学2年生の時にジュンの大フアンになったのをきっかけに、高校を卒業すると同時にジュンの所属する芸能事務所に就職し、後に念願のマネージャーとなった。

「気にしないでジュンちゃん。それよりどこに行くの?」

運転するのぞみが、隣のジュンに聞く。
2人の乗る車は練馬区の石神井公園付近を走行していた。

「私の学生時代のバンドメンバーが、今日レコーディングしてるの。だから今からそこへ顔を出しに行くの」(ジュン)

「レコーディング~!?、こんな住宅街で…?」(のぞみ)

「自宅の地下に、録音スタジオがあるのよ」(ジュン)

「へぇ~すごい!、お金持ちなんだね~!」(のぞみ)

「お父様が1級建築設計士で、設計事務所を自宅でやっててね。それでカズが父親に頼み込んで、事務所の地下にスタジオを造ってもらったのよ」(ジュン)

「カズって?、ジュンちゃんの先輩で、スタジオミュージシャンをやってるって言ってた、あのギターの人?」(のぞみ)

「そう、その人の事…、それで今日は、当時バンドボーカルだった彼も自宅スタジオに来てて、一緒にレコーディングしてるんだって…」
「懐かしいなぁ~…、学生時代、よくバンドメンバーでそこに集まってたんだぁ…」

当時を思い出すジュンは、バンドリーダーだったボーカルの彼を思い出しながら、含み笑いをするのだった。

「その懐かしい仲間に、今日は会いにいくんだぁ?(笑)」(のぞみ)

「うん…」(ジュン)

「どうしてまた…?」(のぞみ)

「のぞみ…、私ね…。実は歌手を引退しようか、迷ってるの…」(ジュン)

ジュンは30代になってからは、CDの売り上げは激減しアイドルとしての限界を感じていた。

「だッ…、だめだよジュンちゃんッ!、引退なんて…ッ!」
「なんでそんな事、急に言うのよぉッ!」

ハンドルを握るのぞみが、ジュンに憤慨する。

「急じゃないよ…。ずっと考えてた…」(ジュン)

「えッ!?」(のぞみ)

「29のときだから…、2年前かな…?」
「ほら…、NHKの通路で私、女の人と話してた事あったの覚えてる?」
「あの後、あなたが私にドラマの挿入歌の仕事を取って来てくれたとき…」

ジュンは穏やかな口調であるが、少し寂しそうな表情をして言った。

「あの…、ジョーさんの出てるドラマの挿入歌の時?」
思い出しながら、のぞみがジュンに言う。

※ジョーとは、元ロックミュージシャンで、現在は俳優のキリタニ・ジョーの事である。


「そう、その時…。あの女性は私の学生バンド時代の先輩で、弓緒(ユミオ)さんて言ってね…。すごく歌が上手くて、私が尊敬してるシンガーなの」

運転中の、のぞみは、ジュンの話を無言で聞いている。

「私がデビューして2年後だったかな…?、彼女もこっちの世界に入って来たのよ」
「でも、ユミオさんは、あんなに歌が上手いのにヒット曲が出せなくて…、それで段々と、バックコーラスの仕事がメインになっていったわ…」

「私は、あの頃、たまたま運が良かっただけで売れた…。でも彼女には、その運が巡って来なかったの…」

「あの日、NHKの収録が終わった後、たまたま通路でバッタリあってね。彼女は私に、自分はもう引退する事に決めたって、教えてくれたの…」

「その時に、あんただって今年29になるんだろ?って、将来の事も、そろそろ考えなきゃって言われたよ…」

「あの頃には、私も段々仕事も減って来ててさ…。だからユミオさんも私の事、きっと心配して言ってくれたんだと思う…」

「彼女は、もう、やるだけの事はやったから後悔はしてないって…、それで恋人と結婚する事にしたんだって私に言った」

「ま…ッ、まさか!、結婚するの?、ジュンちゃんッ!」(のぞみ)

「まさか…!、しないよ…、相手もいないのに…(笑)」
そう言ったジュンが含み笑いをする。

「あ~びっくりしたぁ…、私はてっきり、ジョーさんとジュンちゃんが、まさかまさかの結婚ってハナシになるんじゃないかと…」(のぞみ)

「もおッ!、誰があんなチャラいやつと結婚すんのよッ!」(ジュン)

「へへ…(笑)」(のぞみ)

「それにね…」(ジュン)

「え?」(のぞみ)

「私…、芸能人とだけは結婚しないって、決めてるの…。特に、お笑い芸人と、ミュージシャンはね…!」(ジュン)

「ふふ…、それ、いつも言ってるね?(笑)」(のぞみ)

「あ!、のぞみ!、そこ左に曲がって!」
含み笑いでハンドルを握る、のぞみに、ジュンが急に言う。

「えッ!?、はいッ!」
そう言って左に曲がるカローラⅡ。

「その橋越えたら右ね!」
ジュンの言葉に黙って頷くのぞみ。


「着いたわ…。車はそこの更地に停めて大丈夫だから…」
カズの家に到着したジュンが、家の目の前にある空き地に、車を停める指示を出す。



「おじさん!、こんにちは!、お久しぶりです!」
設計事務所のガラス戸から覗き込むジュンが、カズの父親に言う。

おや!?っとした表情のカズの父。
そしてジュンに無言で、微笑みながら会釈する。

「カズは下ですかぁ~?」
ジュンの問いに、頷くカズの父。

ジュンは再度、カズの父に会釈すると、「のぞみ!、行くよ!」と言って、地下に続く階段を降りて行った。

厚い防音扉の前に立つジュン。
彼女はおもむろにそのドアを開けた。

ギィ…。

ドアを開けて見えたのは、懐かしい2人の後姿であった。

ミックスダウンの作業をしていると思われる、バンドリーダーだった彼と、その後ろのソファで、マンガを読んでニヤ突いてるカズである。



「久しぶり…」(ジュン)

「おう!、来たか!?」
マンガを置いてカズが言う。



「こーくん…」
バンドリーダーだった彼に、笑顔のジュンが言う。

「久しぶりだな…?」(彼)

「10年振り…?、いや…、もっとか…?」
ジュンが考えながらそう言う。

「どうだ最近?、調子は?」(彼)

「暇になって来て、ヤバイよ…」
苦笑いで言うジュン。

「そうか…」(彼)

「ねぇ…、こーくんも、いよいよ、こっちの世界(芸能界)に来るの?」
ジュンが彼に聞く。

「まだ決めてない…。取り合えずCD作ってから考えるよ…」(彼)

「そう…。はい、これ差し入れ…」
ジュンはそう言うと、ここに来る前に牛丼屋でテイクアウトした袋をそのまま渡した。

「おう!、サンキュー!」
笑顔のカズが、その袋を受け取った。

「牛丼…?、しかも、松屋?」
袋の中を覗いた彼が言う。

「カズは松屋派なの…、高校時代は学校が終わると、毎日荻窪の駅前で牛丼食べてたんだよ」

ジュンがそう言うと、カズが後ろで「そうそう!」と言って頷いていた。

「それで差し入れは、カズからのリクエストで、松屋にした(笑)」(ジュン)

「ほぉ…。俺はてっきり、ポカリを持って来たかと思ったぜ…(笑)」(彼)

「懐かしい~!、柳瀬川であなたが釣りしてるとき、よく学校帰りに持っててたよねぇ?私…(笑)」(ジュン)


※女子高生のみなさん、憧れてる運動部の先輩に、ポカリを差し入れすると落とせますよ(笑)

「ははは…、懐かしいな(笑)」
「ところで後ろにいる彼女は…?」
彼がジュンの後ろに立つ、のぞみの事をジュンに聞く。

「あ!、ごめんなさい、紹介が遅れて…、彼女は私のマネージャーの、のぞみ!」

「中学生の時に、私のフアンになってくれて、それで高校卒業と同時に、ウチの事務所に就職してから、私のマネージャーになったの!、可愛いでしょ!?」

ジュンの言葉に彼は、「へぇ…」と頷く。

「初めまして…、ジュンちゃんのマネージャーをしてます、アカシック・レコード事務所の藤田のぞみです」

のぞみはそう言うと、彼とカズに頭を深々と下げた。

「どもども…」
カズもつられて急いで頭を下げる。

「君さぁ…」
彼の方は軽い会釈をしながら、のぞみの顔を見つめて言った。

「モリダカに似てるって云われない?」(彼)



「モリダカ…?」と、のぞみ。

「歌手の森高チヒロ…」(彼)

「あ~!、あ~!、前にも云われた事あるじゃない!、のぞみぃ~!」
彼の言葉に納得するジュンが、のぞみに振り返り笑顔で言う。

「だろ…?」
そう言ってのぞみに微笑む彼。

「そ…、そうですかぁ…?」
返答に困ったのぞみが彼に言う。

「年齢的にも、これじゃ彼女の方がアイドルだな…?」

彼がそう言って含み笑いをすると、隣のジュンは「何よぉッ!」と、むくれるのであった。

「まぁ…、でもジュンも…」(彼)

「はぁい?」(ジュン)

「オンナらしくなってきたじゃないか…」

彼が微笑んでそう言うと、ジュンは顔を赤らめた。

「えッ!?、えッ!?…」
両手を頬に当てたジュンが、ソワソワする。

「ジュンちゃん、何、照れてんのぉ?」
のぞみが笑顔でそう言うと、ジュンは、「照れてなんか無いわよ!」と言う。

「珍しいわね?、あなたがそんな事、言ってくれるなんて…」
照れているジュンが、伏目がちに彼に言った。

「俺さあ…、最近、常々思うんだよ…。女性が生涯で1番美しいときって、27から33歳くらいなんじゃないかってさ…」

彼がジュンの問いにそう答える。

「へっ!?、そおなのぉ?、それって、一般的には“オバサン”って呼ばれ始める時期だと思うけど…?」(ジュン)

「こう言っちゃぁ何だけど、ハタチくらいまでは、ブサイクでも、ちょっと太ってても可愛く見えちゃうモンなんだよ(笑)」
「若いコを、よくよく観察してみると、ほとんどが、そんなに可愛い顔してないと分かるよ。まぁ男もそうだけどな…」

「国民的美少女だとか、モームスとかの新メンバーオーディションで、中学生や小学生とかが合格したりしてるけど、それは若いから可愛く見えちゃうだけで、そんなコたちが、後に成長した姿を見たとき、俺には別にどこにでもいる普通の一般人と変わらない様にしか見えないよ」

「オンナが本当に美しいのかを計れるのは、成人を越えてからだな…。誰でもチヤホヤされてた22歳を過ぎた辺りから、段々と分かって来るんだよ」

「本当に綺麗な女性は、30越えても綺麗なんだよ。そうでもないやつは、22歳辺りでモテ期はおしまい!(笑)」

「だから調子に乗って、男選びを長引かせて、自分は30までに結婚するなんて言ってるやつぁ、大抵乗り遅れて、次の若い世代に男を持って行かれちゃうというワケさ」

「もてはやされてる時に、調子に乗って勘違いするんじゃなく、来るべき27歳を迎えるまでに、どう準備をしてオンナを磨いておくかが、重要だな」

「それができないやつは、早く結婚しちまった方が良いぞぉ~(笑)」

そう言うと彼は、「ははは…」と笑い出すのであった。

「まぁ~…、偉そうに…」

ジュンがそう言ってムッとしながら彼を睨むが、隣にいたのぞみは、「でも、的は得てるよ!」と、ジュンに言う。

「だろ…?」
彼がドヤ顔して、のぞみに言った。

「じゃあ、オトコの方はどうすんのよ!?、どうやってモテる様に努力するのよ?」(ジュン)

「男はな…、齢を取ると、全体的な雰囲気でモテてくるんだよ」と彼。

「全体的な雰囲気~?」(ジュン)

「そう!、まず清潔感を忘れずに、そしてガサツな動きをしない。どこで、誰に見られて、悪い噂を立てられるか分からんからな…」

「それと年齢、性別を問わず誰にでもソフトな対応をして、ガツガツと意地汚いマネをしない事!」

「常に余裕を持った振る舞いをし、言動に知性が感じられ…、その次に中年体形にならずに、運動も、そこそこやってれば間違いなしってか?(笑)」

「これって、芸能界で成功する為の心得にも通じないか?」

「的を得てますよぉ~!!」
彼の問いかけに、のぞみは再び感心して言うのだった。

「あの~…、ところで似てると言えば…、そちらも似てるって云われませんか…?」

今度は、のぞみが彼にそう言い出した。

「誰に?」
ジュンがのぞみに向かって聞く。

「ほらぁ…、あの人…、名前ど忘れしちゃった…、俳優の…、ほら…、何だっけ…?」(のぞみ)

「もしかして、××××か?(笑)」(彼)

「はぁーーーッ!?、あなた何言ってんのぉッ!?」(ジュン)

「似てねーよッ!」(カズ)

「ぐぅッ!」(彼)

「自分で言ってて、恥ずかしくないのぉ~!?、のぞみも変なコト言わないでよ!、この人、調子に乗るからぁ!」(ジュン)

「俺が言ってンじゃねぇッ!、俺の周りが言ってンだ!」(彼)

「××××のフアンが聞いたら、お前、殺されるぞ!」(カズ)

「大丈夫だ…、小説では伏字にしてるから…(笑)」(彼)

「そんな、世界でたった1人に言われたからって、フツー自分で言う~~!?」(ジュン)

「1人じゃねぇよ!、別々の場所で、まったく関係のない女性たちが言ったんだって!」(彼)

「どうせキャバの営業トークだろぉ?」(カズ)

「キャバでも言われた事あるけど、一般のOLさんにだって、似てるって言われたんだよぉ!」(彼)

「一般のOLさんが、どういうシチュエーションで言うのよ?、あなたにそんな事!?」(ジュン)

「合コンだ…」(彼)

「はぁーーーーッ!?、あなたその齢になって、まだ合コンなんてやってんのぉッ!?」(ジュン)

「あうッ!…、間違えた…。異業種交流会だ…」(彼)

「バカじゃないの~?、言い方変えてるだけで一緒でしょぉッ!?」(ジュン)

「ゼッタイ似てねぇよ!、××××なんて!」(カズ)

「黙れッ!、デイブ・スペクターッ!」(彼がカズに言う)

「え?」(何それ?とジュン)



「お前は、オールバックにすると、デーブ・スペクターにそっくりだぁッ!」(カズを指差して言う彼)

「アーッハハハハハハ……ッ!、それ、前にも聞いたぁ~!、似てるぅ~~!(笑)」(カズを見ながら、手を叩いて大笑いするジュン)

「ぐぅッ…!」(カズ)

「ギャグが寒いのも、そっくりだぁッ!」

そう言ってカズを指差す彼の後ろでは、腹を押さえて足をバタつかせたジュンが、ひぃーひぃー笑っている。

「あの…」

その時、大騒ぎしている3人に向かって、ずっと黙って見ていたのぞみが、ボソッと言った。

「ん?」と、のぞみに振り返る3人。

「似てますよ…。椎名吉兵…」(のぞみ)

(あぁ…ッ!……、言っ…、ちゃったぁぁぁ…!)



のぞみの言葉に振り返った3人は、眉をハの字に、悲壮感溢れる表情で絶望した…。



「まったく…、あなたって変わンないわね…」

それからしばらく経ってから、スタジオ内のソファに腰かけたジュンが、呆れ気味で彼に言う。

「よく言われるよ…」
そう言って彼は微笑むのであった。

「ところで、あの頃の連中は今何してんの?」(ジュン)

「リキやガクはもう分からないな…、連絡取ってないよ…」(彼)



「俺、ベースのハヤシとはたまに会って飲んでる。あいつチョッパーでSOUL好きだから、赤坂見附にあるSOULバーで飲んだりしてる」(カズ)

「ハヤシは、俺の弾き語りライブにも、たまに来てくれるから、俺も会うな…」(彼)

「そう…、マサシやハチは?」(ジュン)

「ん~~…、あの辺になると全然分かんないなぁ…」(彼)

「ジュンは何年か前に、ユミオと会ったんだろ?」(カズ)

「うん…」(ジュン)

「青学の連中は、今どうしてるんだ?」(彼)



「クミチョウ(山口クミ)が結婚して、今は北海道にいるって事だけは、そのときユミオさんから聞いた…」(ジュン)

「ふ~ん…北海道にねぇ…」(カズ)



「かッ…、蕪元はッ!?」(前のめりに聞く彼)

「知らないよ…、何?、蕪元センパイの事、気になるの?」(ジュン)

「いや…、別にそういうワケじゃ…、ははは…」

そう言って苦笑いで弁解する彼を、じとーと見つめるジュン。

「じゃあ、こーくんのバイト先の人たちはどうしてるの?」(ジュン)

「タカだけは、たまに会って飲むな…、そうそう、あいつ結婚したんだよ」(彼)

「ええ!、そぉなんだぁ~?」(ジュン)

「子供も生まれてからは、そんなに会ってないけど、この前、1回だけ俺のライブに来てくれて、その後、バグースで朝までビリヤードやった事があるよ」

「ヤスの方は全然わからん…。あいつは大学卒業して就職したけど、すぐ名古屋へ移動になって、それから会ってないよ」

「それからヤマギシ(あゆみ)は、未だに年賀状だけは毎年来るな…、タカもそうだけど…」

「結局、最後に残ったのは、いつも、この3人ってワケね…?」

ジュンはそう言うと、彼らに微笑むのであった。


そして夕方となった。

「俺らこれから、カミシャク(上石神井)の魚二郎へ飲みに行くけど…?」
一緒に来るか?と、ジュンに聞くカズ。

「ごめん、今日はもう帰る…。のぞみが車だし…」(ジュン)

「そうか…」(カズ)

「ジュンちゃん、行って来なよ!」(のぞみ)

「いいの!」(ジュン)

それから4人は地上へ上がり、ジュンの乗ったマークⅡを見送る。


「ジュン、またな!」
先程、デーブ・スペクターに似てると云われた、ギタリストのカズが言う。

「うん、また会おうね!」
その事を思い出し、含み笑いのジュンが言う。

「ジュン…、歌、やめンなよ…」

その時、彼が助手席に座るジュンに近づき、窓越しにボソッと言った。

「え!?、辞めないよぉ~…」

ジュンは、ちょっと驚いてから、そう言って苦笑いをした。

「そうか…、なら良い…」(彼)

「なんでそんなコト言うのぉ?、私が最近売れてないから?」(ジュン)

「違う…、ただ、そんな気がしただけだ…」(彼)

「辞めないよ…、待ってるからね、こーくん…」

窓越しからジュンは彼に微笑んでそう言うのであった。


そしてのぞみが運転するカローラⅡは走り出す。

「よかった…」

ハンドルを握るのぞみが、正面を向きながら言う。

「何が…?」
のぞみにそう言って聞くジュン。

「歌、辞めないって…、ジュンちゃんが言った…」(のぞみ)



「なんか昔の仲間に会ったら、そんな気持ちも飛んでったよ…(笑)」(ジュン)

「今日はジュンちゃん楽しそうだった…。久しぶりに見たよ、あんなに笑ってるジュンちゃんを…」(のぞみ)

「いつも3人揃うとあんな感じよ!(笑)、今日2人と会ったら、あの頃の自分に逆戻りしちゃったわ(笑)」(ジュン)

「良いんじゃない?、そういうのも…」(のぞみ)

「え?」(何を?とジュン)

「そういう仲間がいるのってさ…、羨ましいよ…」(のぞみ)

「ふふ…、そうね。ありがとう…」(ジュン)

「それからね…、今日分かっちゃった…(笑)」(のぞみ)

「何を?」(ジュン)

「ジュンちゃんが、イケメンのジョーさんから、猛アプローチされてるのに、それを受け入れない理由が…」(のぞみ)

「え?、何でぇ~?」(ジュン)

「教えなぁ~い!(笑)」(のぞみ)

「何よそれ?、ちょっと、のぞみぃ~~ッ!」(ジュン)



「ジュンちゃん、待っててね!、私がこれから、もっともっと頑張って、ジュンちゃんの仕事、バンバン取って来るからね!(笑)」(のぞみ)

「今でも十分頑張ってるわよ…。あまり無理しないでね…、のぞみ。あなたが倒れちゃったら、私、困るんだから…(苦笑)」

ジュンがそう言うと、運転するのぞみが、「はぁ~い…」と、明るく返事をするのだった。


  1月の夕暮れ時は、あっという間に真っ暗になる。
2人の乗ったカローラⅡは、ライトを灯しながら千川通りを疾走した。


To be continued….