僕は大学時代、池袋でバイトしてました。
ある日、そのバイト先へ新人バイト君が入って来ました。
彼は僕よりも一歳年上でしたが、顔がプロレスラーのデック・マードックに似ている事から、あだ名を「ディック」と呼ぶことにしました。
ディックは、デビルマンで有名な永井豪のアシスタントをしており、自身も売れてはいないけど、雑誌にマンガを掲載していました。
だけど売れていないので、食べて行くために、僕のバイト先へ働きへ来たのでした。
ディックは池袋の駅前に住んでいたのですが、家賃が2万円だったそうです。
なんでそんなに安いんだ?と聞くと、ワケあり物件で、幽霊が出るそうです。
ディックが住む前はお婆さんが住んでいたそうですが、その部屋で亡くなっています。
彼が着替えようと、部屋のファッションケースのファスナーを開けると、その中から死んだお婆さんの顔が出てくるそうです。
他には、マンガを描いていると金縛りにあって、小人がピョコピョコ出て来るとか…。
僕はいつも「嘘つけ~!」と、彼に言ってましたが、彼は本当だと言います。
そういった現象は、彼の師匠である永井豪氏にも出たそうです。
永井豪氏は悪魔の話しを描いたりしてますが、そういう事を描いていると目の前に悪魔が現れるそうです。
(まるで、デス・ノートの世界ですね)
僕は仕事が終わると、よくディックら仕事仲間たちと居酒屋で飲んでました。
飲みに行く場所は、いつもきまってS龍でした。
S龍は、安くて量が多いので、金の無い僕らには持って来いの居酒屋だったのです。
ある年末、僕らはバイト仲間だけで忘年会をS龍でやる事にしました。
通された部屋は、日本間の畳敷の部屋でした。
そして忘年会は、いつものように、ディックの心霊体験話になりました。
僕らは「嘘つけ~!」と、ディックを馬鹿にしました。
ディックは、「そんなに幽霊を馬鹿にすると、幽霊が怒ってるよ」と、天井を指さしました。
ディック曰く、そこに幽霊が集まって来てるのが見えると言うのです。
みんなは、笑ってディックを馬鹿にしました。
すると、その瞬間、天井の吊るされた電灯が、バリバリバリという音と共に、僕らの宴会のテーブルの下まで落ちて来たのです。
電灯はテーブルまで落ちませんでしたが、すぐ上までコードに揺られながらぶら下がっていました。
「ほら、幽霊が怒った…」と、ディックは言いました。
僕らはお店のおばさんを呼び、その電灯のコードをガムテープで天井に張り付けて補修してもらいました。
それから1年後、また僕らはディックとS龍で、忘年会をやることになりました。
奇遇にも、通された部屋は昨年と同じ部屋でした。
天井を見ると、電灯の長いコードがガムテープで補修されてるのを見て、僕らは去年と同じ部屋なんだと気づくのでした。
「あ~あんな事あったね~」なんて、僕らは話しながら忘年会は始まりました。
そして、僕らがリクエストすると、お決まりのディックの心霊話が始まりました。
当然、僕らはディックを馬鹿にしました。
そしたら、また天井の電灯がバリバリバリと落ちてきたのです!
こんな偶然ってあるのでしょうか!?
お店の人は、「おかしいねぇ…。あれ以来、1度も落ちた事ないのに…」と、言ってました。
これは、ディックの言う通り、霊が怒った現象なのでしょうか?
数年前に、池袋のS龍へ行きました。
あの日本間のガムテープで止めた電灯は、まだそのままでした。