『舟を編む~私、辞書つくります~』・最終回 | なにわの司法書士の徒然草

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NHK-BS日曜22時のドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』

 

 

映画にもなった小説『舟を編む』を、新人編集部員の池田エライザ目線で描き

 

現代風にアレンジを加えた作品

 

映画では、辞書製作に携わる人々の奮闘、苦悩、熱い思いを描いた印象だったが

 

今作は、それに加えて言葉の持つ魅力、温かさ、優しさといったものが伝わる作品

 

 

映画と違う連続ドラマの長所は、放送時間そのものが長いことに加えて

 

1話という明確な区切りがあることで、1話ごとにテーマのようなものを設けられること

 

今作では、1話ごとにある単語を取り上げて、その言葉のよく使われている意味の他にも

 

様々な意味を持っているということを教えながらエピソードを紡いでいった

 

 

一番印象に残ったのは、「からかう」という言葉を巡って

 

池田エライザと幼い頃に両親が別居して離れて暮らしていた母親との関係を描いた回

 

たまに会った母親が周囲の人に「あの子はいっつもからかって」と言っているのを耳にして

 

いたずらをし過ぎて母親に嫌われたと思い、それから会うのが怖くなった池田イライザ

 

改めて会った母親と当時のことも話して誤解を解いて

 

最後に母親から送られてきたメールが「あんなにからかってくれてありがとう」

 

見ている方としては意味がわからない言葉

 

池田イライザが辞書を引いても、よく使われる「からかう」の意味しか載っていなかったが

 

たくさんの辞書の中で1つだけ、山梨の方言として「手を尽くす」という意味が載っている

 

それを見つけた池田エライザがバス乗り場に向かって走り出し、改めて母親に思いを伝え

 

母親も池田エライザを抱きしめて「精一杯からかうだよ」

 

この1話だけをピックアップして1つのドラマにしてもいいぐらいのエピソードだ

 

 

その他にも、「あきらめる」に、物事の事情を明らかにするという意味があったり

 

「かなしい」に、切ないほどにかわいいという意味があったりと

 

通常は使用しない意味、しかし辞書には掲載されている意味があることを学ばせてくれて

 

「あきらめて欲しいです」とか、「あなたのことがかなしくて」なんて

 

パッと聞くと何を言っているのかと思う言葉が、温かい言葉であったというのが

 

いかにも辞書を扱う作品らしい、工夫されたストーリーになっていた

 

 

辞書を扱う作品らしさでいうと、エンドロールのキャストの名前の表示の仕方も

 

最近では珍しい縦書きで、辞書の見出しと語釈のような表記にしたのもその一つ

 

 

現代風のアレンジの点でいうと、用語採集がカード以外にもスマホにめもしたり

 

辞書を紙と並行してデジタル辞書を付録にしようとしたり

 

編集部のSNSを立ち上げて辞書の発行に向けて宣伝したりするというのは

 

原作や映画ではなかったところ

 

そして、序盤で池田エライザが疑問を呈した「恋愛」の語釈

 

どの辞書にも「異性」や「男女」となっていることについて議論がなされていたが

 

最終回になって入院中の柴田恭兵さんから池田エライザに届いたラブレター

 

「恋愛の語釈に『異性』『男女』は不要とする」

 

このあたりも非常に現代らしいところだ

 

 

時代を現代にしてしまったこともあって、最終回は2020年の新型コロナが話題に

 

個人的にはドラマというフィクションでわざわざコロナを扱う必要は無いとい主義

 

なぜわざわざコロナの時期を舞台にするのか、無駄にマスクをさせたりすることが

 

ストーリー展開にどんな意味があるのか、と最初は今作が嫌いになりそうだった

 

 

ところが、その後の展開で、今作の一番のテーマである「言葉の力」を描くのに

 

コロナを描くことが非常に効果的だということに気付かされる

 

野田洋次郎の妻で料理人の美村里江さんが、コロナのせいで店を休業に追い込まれ

 

京都の師匠の仕事を手伝うと決めた時に、離れたくない野田洋次郎は猛反対

 

離れていても言葉で思いを伝え支えることはできると説得する池田エライザに

 

そばに寄り添うことに比べると言葉なんて無力だと

 

人一倍「言葉」を愛してきた野田洋次郎とは思えない台詞が口を突く

 

その後、柴田恭兵さんから編集部員へのメールが届き

 

人間は他者とつながるために言葉を生み出した、人と人が分断された今だからこそ

 

言葉の力を再認識しなければ、という言葉が野田洋次郎に「言葉」を見直させる

 

 

また、辞書に掲載する言葉が確定した段階で新型コロナが発生したことによって

 

「クラスター」や「PCR検査」などなど、新しい言葉が次々と登場する中で

 

それらを無視して校了してもいいのかと問いかける野田洋次郎と

 

出版のスケジュールを考えると時間がないと反対する面々

 

ここでも入院中の柴田恭兵さんから大量にコロナ関連の用語採集カードが届けられることで

 

その思いに応えるべく、編集部員一丸となって原稿を変更修正して締め切りに間に合わせる

 

そんな辞書を作る人々の奮闘ぶりも、コロナによってエピソードを付け加えた形

 

今作に関しては、コロナを描くことは必須だったように感じた