TBSテレビ日曜21時のドラマ『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』
1年前に日本テレビで『リバーサルオーケストラ』が放送されていたことで
同じように主人公の指揮者が市民オーケストラを再生させる展開を
「二番煎じ」のように揶揄するネット記事の見出しを見かけたが
これだけの数のテレビドラマが作られれば、大まかな設定が重なるなんてことはよくあること
それをいちいち批判的に捉えるのがネット民のよくないところ
『リバーサルオーケストラ』が、専らオーケストラの再生とコンサートの成功によって
大逆転でのオケの存続を目指すということに注力したのに対して
今作の方は、オーケストラを舞台にした親子の再生の物語がメイン
オーケストラの団員が家庭の事情で辞めると言い出すこともなければ
最終的にはオーケストラの存続が確定する結末も待っていない
これでも「二番煎じ」だというならば、全ての医療ドラマや刑事ドラマは「二番煎じ」だろう
サブタイトルの『父と私のアパッシオナート』の「父と私」
当然に西島秀俊さんと芦田愛菜のことだと思ったし、実際に中心で描かれたのはこの2人の関係
そこに関しては、最後には互いの思いが通じて仲直りをするだろうということは見えていたし
誰もが予測できた展開だったのではないだろうか
しかし今作が面白かったのは、さらなる「父と私」を用意していたこと
1つは西島秀俊さんが「私」の側になり、父親の柄本明さんとの関係を描く回
西島秀俊さんが香川の実家を飛び出して一度も帰郷していない成り行きが描かれ
高校時代に野球部だったというまさかの設定
母校に招かれての講演の日が柄本明さんの野球部監督の引退式にも重なり
少し離れた場所からの「お父さん、お疲れ様でした」が30年ぶりの会話
それでも柄本明さんは、もう帰って来るな、帰ってこなくていいからしっかりやれと
一切物理的な距離は近づかないまま、すぐに背を向けて互いに手を振るだけの短いやり取り
心だけでも一歩近づいたのだろうかというのが逆にリアルな親子の姿にも感じた
この回には、もう一組の「父と私」も描かれた
西島秀俊さんに弟子入りした當間あみと、父親で市長の淵上泰史の親子
こっそりバイオリンを練習しているのを淵上泰史に見つかって頭ごなしに叱責された當間あみは
最初は言われるがままにバイオリンをあきらめようとするのだが
家出をして大西利空に連れられて香川にやって来て、西島秀俊さんの講演での
「あなたの夢を否定するその言葉に耳を貸さないでください」の言葉に感銘
ターミナルに迎えに来た淵上泰史の目の前でバイオリンで「キラキラ星」を演奏
それでも連れて帰ろうとする淵上泰史の手を振り払い、アレンジを変えた「キラキラ星」を演奏
「たった2か月でこんなに弾けるようになったの、私上手いの」
「お父さんが褒めてくれないなら私が褒める、私は私を信じているから」と
初めての淵上泰史への反抗、親離れの言葉
個人的にはこの場面が今作の一番の泣きポイントだった
そういえば、當間あみと芦田愛菜の共演に、昨年の『最高の教師』を思い出していたが
2月にテレビ放送されたアニメ映画『かがみの狐城』でも、声優として
當間あみが主演の声で芦田愛菜も共演していたことを知った
今作でもシーン自体は少なかったが、芦田愛菜が當間あみのバイオリンのコーチとなって
『最高の教師』に続いて密接な関係性での共演が続く2人だ
最後に西島秀俊さんをドイツに送り出すシーンでは
空港のラウンジで演奏するオーケストラの中心で、初めて當間あみが指揮棒を振り
「安心して下さい、最高のコンマスが入りましたから」という言葉で
芦田愛菜がバイオリンを手に登場、
2人が加入したオーケストラ、西島秀俊さんに笑顔で『さよならマエストロ』
よくあるシーンではあるが、ここに父娘が絡むことで新鮮なものを感じさせてくれた
個人的にちょっとツボったのは、序盤にリンゴで何を食べたいかと西島秀俊さんに聞かれ
芦田愛菜が思い付きで適当にお菓子の名前を言った後で
通勤途中に「タルトタタンって言えばよかった」とつぶやくシーン
タルトタタンというと、西島秀俊さんが主演した『シェフは名探偵』で鍵となった料理の1つ
まさかそこまで考えての台詞ではないだろうが、ドラマフリークには嬉しいひと言だった