遠ざかる景色 | 右岸だより

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 歳を取り、ヒマになりなり、昔やりたかったことを手掛けようと思っていますが、思うようにできません。そんな中で出来ることを探したり、出来るように工夫したりしてもがいている毎日を綴ってみたいと思っています。

遠ざかる景色 野見山暁治 みすず書房

 知らなかったが、著名な画家だそうだ。記憶が薄れていく状態を画家らしく「遠ざかる景色」と表現している。あいまいになりつつある記憶を手繰り寄せた随筆集。

 いろんな話が出てくる。印象に残った話の一つは若いころ出会ったフランス人は他人の自由を尊重する配慮に満ちており、この姿勢が日本人の礼儀正しさへの敬服につながったと彼は理解している。ところが戦後再訪してみると、自己の自由が他人の自由を優先するようになったと感じている。これは日本も同じだろう。

 彼は戦没画学生の美術館(無言館)の設立にかかわったようだ。これをきっかけに戦没者家族を訪ねる旅を行った。この話が後半に出てくる。芸術を志向することの大変さ、それが周囲に及ぼす影響、志を果たせず戦死したことの空しさ、そして残された人々の悲嘆を味わう大変な旅行だった。これをやりぬいたこと自体が大変なことだった。