悲劇の外交官 | 右岸だより

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 歳を取り、ヒマになりなり、昔やりたかったことを手掛けようと思っていますが、思うようにできません。そんな中で出来ることを探したり、出来るように工夫したりしてもがいている毎日を綴ってみたいと思っています。

悲劇の外交官 工藤美代子 岩波書店

 著名な日本史学者ノーマンの伝記。カナダ人だが父が宣教師だったので、長野生まれだ。日本語は堪能、日本に関する知識経験は豊富だ。これを活かし、日本研究者になる。外交官として活躍する。戦中、戦後は大活躍する。特にアメリカが重用した。特にマッカーサーのスタッフとして有能で、戦後体制の構築に大いに貢献した。

 ところが東西対立が激しくなり、アメリカでは「赤狩り」が蔓延した。今となってはマルクス思想、共産党、ソ連邦は別物だという認識が働くが当時は違う。「国富論」に疑問を抱くような思想には疑念が向けられた。

 伸び伸びと育ったノーマンはそんな友人が沢山いた。中には社会主義を名乗るものも共産党に入党するものもあった。人間関係からの捜査で、彼も嫌疑が掛かられた。カナダ政府としては、アメリカに歯向かうことは出来ない。そこで、彼を関係のない部署に異動させた。それでもアメリカの捜査、ジャーナリズム、そして大衆は許さない。その結果、追い詰められて自殺してしまう。

 名著の陰にこんな悲劇があったとは知らなかった。