続・児童ポルノ法改正案について | 狂直の日記

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多摩武蔵守のブログです。
こちらのブログは政治話中心で行こうと思います。ブログタイトルは『三国志』虞翻伝の評より拝借しました。
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 今回も児童ポルノ法改正案を取り上げます。


【要旨】

・単純所持は処罰対象ではなく、違法化されるだけ。罰則が加わったのは自己使用目的所持(前回記事の訂正)。

・改正案の政府の調査が、マンガ・アニメ・ゲーム等の創作物全てを規制するもの、というのは間違い。児童ポルノの文脈で論じられる創作物が、創作物全てを指すというのは飛躍しすぎている。


【本文】

 まず、前回の記事について訂正があります。もっとも今回の訂正は、「曰く、冤罪のもとになる。曰く、定義が曖昧。曰く、子供の写真や写真集まで違法になる。曰く、警察が片っ端から家宅捜索をする」という規制反対派の論拠を補強するものではないので、規制反対派の意見には説得力がないという結論は変わりません。 


 前回の記事の冒頭に「児童ポルノの単純所持も違法化され、刑事罰が科されるようになる」というくだりがありますが、これは私の間違いで、単純所持は処罰対象ではなく、違法化されるだけです。犯罪ではないので、強制捜査もされません。

 また違法化されるのは「みだりに」所持することなので、正当な業務による行為である場合は該当しません(刑法第35条)。図書館や医療写真等は、この正当業務行為で犯罪に該当しない、ということになると思います。


「第六条の二 何人も、みだりに、児童ポルノを所持し、又は第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管してはならない。」


 罰則が加わったのは自己の使用を目的とする所持(「自己の性的好奇心を満たす目的」での所持)です。


「第七条第一項 自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。自己の性的好奇心を満たす目的で、第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管した者も、同様とする。」


 なおこの性的好奇心充足目的の所持に対する処罰は、施行日から1年間は適用しません(法案附則第1条第2項)。すなわち、持っていたらこの間に処分せよ、ということです。


 性的好奇心目的の所持と単純所持が現実に区別できないという反論があるかも知れませんが、現実的に区別できないから法的にも区別すべきでないというのはナンセンスな議論だと考えます。「現実的には区別がつかなくても法的には区別がついている」というのは、児童ポルノに限った話ではないからです。

 

 前置きが長くなりましたが、本題です。


 児童ポルノ法改正案において、ネットで激しい反対が繰り広げられているのが、附則の第2条で、児童ポルノに類するマンガ・アニメ・ゲーム等と児童の権利を侵害する行為との関連性を調査して、法律施行後3年後に必要な措置を講ずる、というものです。


「第二条 政府は、漫画、アニメーション、コンピュータを利用して作成された映像、外見上児童の姿態であると認められる児童以外の者の姿態を描写した写真等であって児童ポルノに類するもの(次項において『児童ポルノに類する漫画等』という。)と児童の権利を侵害する行為との関連性に関する調査研究を推進するとともに、インターネットを利用した児童ポルノに係る情報の閲覧等を制限するための措置(次項において『インターネットによる閲覧の制限』という。)に関する技術の開発の促進について十分な配慮をするものとする。

2 児童ポルノに類する漫画等の規制及びインターネットによる閲覧の制限については、この法律の施行後三年を目途として、前項に規定する調査研究及び技術の開発の状況等を勘案しつつ検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。」


 児童ポルノ法の立法趣旨は「児童の性表現を大人が食い物にするという性的虐待から児童を保護する」ことですが、なぜ創作物の話が入っているのかと、私も首を傾げるところはあります。

 自民党の高市早苗議員も、「実在の児童と創作物とでは立法技術が異なるので、一緒の法律で規制するのは難しい」という主旨のことをホームページで書いていたと記憶しています(今はその記事を見ることができませんが)。


 しかしこれがあるから反対、というほどのものでもないと考えます。この条文を根拠に罰則を課したり、国民に義務を課したり権利を制限することはできないからです。


 また、「マンガ・アニメ・ゲームを消し去ることを狙っている」というのは完全な誤りであると考えます。なぜなら、児童ポルノの文脈、すなわち「子供を性の対象とすること」で論じられる創作物が、創作物全てを指すというのは飛躍しすぎているからです。

 また政府が上記の調査を、マンガ・アニメ・ゲームを規制する口実にしようとしているというのも脅迫的言辞だと考えます。

 2008年に「バーチャル社会のもたらす弊害から子供を守るために」という報告書が有識者の手によりまとめられたことがありましたが、そこでも「子供を性の対象とする作品」とそうでない作品の線引きはされているからです。(注1)


 そして、同じようにネットで「文化が消える」「あらゆる作品が規制される」という反対論があふれかえっていた東京都青少年健全育成条例改正案の例もモデルケースとして参考にすべきだと考えます。

 東京都条例は、要約すると「幼児虐待、婦女子陵辱、輪姦をはじめとする過激な性描写」を掲載した漫画等に「18歳以下の目に触れさせないよう区分陳列の義務を課す」ものです。立法趣旨からも条文からもそれは明らかだったし、条例成立後の東京都の運用実績を見ても、不健全指定される作品は月に数件~十数件です。(注2)


 規制反対派は児童ポルノ法が創作物全般に規制が及ぶものであるという脅迫的言辞を振りかざす前に、することがあるのではないでしょうか?


【脚注】

(注1)「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守るために 最終報告書」

 http://www.npa.go.jp/safetylife/syonen29/finalreport.pdf

(注2)「東京都青少年健全育成審議会」

 http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/09_kenzensin.html


【参考資料】
「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(平成十一年五月二十六日法律第五十二号)
 
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.html

「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案」(第181回国会)    http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g17301005.htm

「児童ポルノ規制に関する論点解説」(2013年5月11日に「うぐいすリボン」が名古屋で開催した「児童ポルノ規制に関する論点解説講演会」のレジュメ。名古屋大学・大屋雄裕教授作成)

 http://www.scribd.com/fullscreen/141603591?access_key=key-2hxpkaf4n432jn6sqkcu

「児童ポルノ法 ~規制反対派の断末魔が聞こえる~」
 
http://blog.livedoor.jp/captain_nemo_1982/