15兆円を超える経済対策が発表されてから、
「たまきさんは、どう思いますか?」
ということをよく聞かれるので、私の考えを述べさせていただきたいと思います。
まず、15兆円という規模について。
過去、経済対策の策定に多少なりともかかわった経験からすると、まず「総額」ありきで策定するのが、経済対策の常識になっています。
つまり、今回の場合だと、例えば、
GDP(国内総生産)が、約500兆円ですから、3%のプラス成長の効果を出したいということで、
500兆円×0.03=15兆円
となっているわけです。
自然体で何もしないとマイナス2%凹むことが予想された場合、プラス3%の景気対策を打つことで、何とかプラス1%を確保しようというのが、15兆円の狙いです。
そんな簡単な計算で決めているわけないだろう、とのご指摘を受けるかもしれませんが、たぶん、今回も同じような考えではじき出された額だと思います。
そして、この総額を決めてから、どんな中身にするか、予算を「積み上げ」ていきます。
ただし、1990年代の前半に私も幾つかの経済対策を見てきましたが、なかなか「気のきいた」予算を積み上げていくことは容易ではありません。
今年の場合は、2009年度の本予算成立直後の補正予算編成ですので、本予算における査定で漏れた案件が、次々と潜り込んでいることは容易に予想できます。
しかし、私は、財政政策のあり方として、こうした予算の「積み上げ」を否定しているわけではありません。
というのも、穴を掘って埋めるだけでも、それが経済活動としてカウントされればGDPは増えるからです。また、短期的には、雇用も増えます。
では、何が問題なのか。
私は、3つの問題があると思っています。
まず、今回の対策は、赤字国債の大量発行を伴って発動される経済対策なので、将来の借金返しの目途が立たなければ、金利の急上昇を招く危険性を内包しています。そして、金利が上昇すれば、住宅建設や設備投資にマイナスの影響が出て、経済対策の効果が減じます。
また、大規模な財政出動は必ず円高を招きます。その結果、輸出産業が打撃を受け、結局、内需の拡大を輸出の減少が相殺して、結局、経済対策の効果が上がらない可能性があります。これを、マンデル=フレミングのモデルと言います。
最後に、最大の問題だと私が考えるのは、現在の年金制度をはじめ脆弱な社会保障制度の下では、多くの国民が将来に対する不安を抱えたままです。こうした不安が蔓延する中での経済対策は、お金が世の中に出て行ったとしても、それが家計の貯蓄として止まる率が高くなるため、景気対策としての効果が著しく減じてしまいます。
今は、大規模な経済対策が不可欠な時期だとは考えますが、こうした問題点を抱えたままの経済対策では、結局、効果が少ないにもかかわらず、多額の借金だけが残る結果になる可能性があると心配しています。
そこで、少なくとも次の3点に注意が必要だと思っています。
まず、金利の上昇を防ぐためにも、将来の税収増につながる「成長分野」に特化した予算配分に心がけること。
第2に、財政出動するのであれば、各国が協調して行うこと。
資本の移動が自由な世界では、一国だけの財政出動は、輸出の減少を招きますので、各国が協調して財政出動を行うことで、通貨価値への変動をできるだけニュートラルに保たなければなりません。その意味で、先のG20の政策協調は、一定の効果があったと評価しています。
第3に、短期的な経済対策とあわせて、抜本的な社会保障制度の改革に取り組むことが不可欠です。
現在の年金制度は、2004年に、100年安心できる制度だという約束で導入されました。しかし、先日の厚生労働省の発表を見ても、もはや、国民に約束した年金額(現役の50%以上の給付)を確保できないことが明らかになっています。そんな今だからこそ、国民の将来不安、特に、老後の生活の不安を解消するための社会保障制度の改革、とりわけ、年金制度の抜本改革に早急に着手しなければなりません。
現在の政権の下で、この社会保障制度の大改革ができないのであれば、やはり、一度政権交代をして、長く続く安心できる年金制度を作り上げなければなりません。
それが、民主党に課せられた歴史的責務の一つだと思っています。
こんなときだからこそ、民主党はもう一度、「年金の民主党」というブランドに磨きをかけるべきです。制度設計や、新制度への移行スケジュールを精緻化すべきです。
やるべきこと、変えなければならないことは、山のようにあります。
「もう、変えないかん!」
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