■トヨタ・業界・国交省。自動車型式指定不正問題で「最も罪深い」のは誰だ? | タマちゃんの暇つぶし

タマちゃんの暇つぶし

直ぐに消されるので、メインはこちらです→ http://1tamachan.blog31.fc2.com/ 

MAG2 NEWS:トヨタ・業界・国交省。自動車型式指定不正問題で「最も罪深い」のは誰だ?クルマの安全を脅かす事なかれ主義日本の大問題2024.06.12より転載します。
 
貼り付け開始、

https://www.mag2.com/p/news/601108
 
20240611_toyota-akio_eye
 

自動車の「型式指定」不正問題で、トヨタ本社の検査を行うスーツ姿の国交省職員たちの“勇姿”が報道されている。だが彼らは本当に「不祥事企業を査察する正義の味方」なのだろうか。トヨタは衝突試験で、日本基準の1100キロより重たい1800キロの評価用台車を使用した。世界ではEV車の比率が高まっており、重量2000キロ前後のクルマが猛烈な勢いで増えている。にもかかわらず、なぜ日本は旧態依然とした基準を金科玉条としているのか?トヨタ・業界団体・国交省それぞれの問題点を米国在住作家の冷泉彰彦氏が解明する。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:自動車型式指定問題の本質を考える

型式指定不正の本質と「本当の大問題」3つ

日本では各自動車メーカーによる型式指定の際のデータ不正問題が連日報道されています。このニュースについては、私としてはやや単純化した議論をしていたこともあり、読者の方からお叱りを受けました。貴重なご意見ですので、Q&Aコーナーではなく、ここで取り上げようと思います。

いつも興味深く拝読しています。しかし今回の配信(メルマガ6/4号)のうち、「トヨタなどの認証不正を叩くな」には異議があります。

冷泉さんの主張のように、今回は「この『不正』は100%『形式』です。それよって、安全性に影響はなく、従ってリコール修理などは必要ありません。とにかく、日本独自のルールでの『検査基準』から微妙にズレていただけの話」であったとしても、自動車メーカーが勝手に「安全性に影響はない」と判断する先には、必ず安全性に影響する問題が生じます。「ヒヤリハット」のように。

たとえ形式的規定に過ぎなくとも、法規に違反しているのであればそれに応じて批判され罰を受けなければなりません。でなければ、法が当事者の「顔」や事情に応じて恣意的に運用される(それは、刑が決まった上での情状酌量とは異なります)事になり、法秩序の信頼性が下がります

また当事者も、これが大丈夫なら次はこれぐらいでも…と、倫理観が低下していくものです。ここ10年来そのような考えの元で、三菱自動車に始まり何件、自動車主要メーカーやその有力下請けによる(実害が伴う事もある)不正が続いたことでしょう。

トヨタはリーディング・カンパニーなのですから、なおのこと厳しく扱われるべきです。彼らは、日頃から下位企業に対して一方的に決めた規則の遵守を求め、形式的あるいは形骸化した事柄に対する少しの違反にさえ厳しい指導を行い、“100%の品質保証”という非現実的な要求さえ課しています(つまりは、購入部品に対する自らの責任をも下請けへ全て転嫁)。であれば当然、自らも「ルール」に従うべきです。それがトップの矜持と責任と云うものです。

会長の「謝罪」会見を見るに、謝罪よりも利己的な言い訳に力を注いでいる印象を受けました。その姿は、かつての三菱のそれに重なります。甘やかしてはいけません。でないと、きっとまたやらかします。

この中で、とにかく大切なのは「法秩序の信頼性が下がります」という部分です。トヨタをはじめとする、メーカー側を是として、国交省を否としてしまうという議論では、ご指摘の通り日本の法秩序を否定することになってしまいます。これは議論としては無責任です。

同様の議論としては、6月10日に配信された弁護士の郷原信郎氏の指摘があります。郷原氏は「コンプライアンスとは、『定められた法令や規則に違反しないように行動すること』を意味する『法令遵守』ではなく、『組織が社会の要請に応えること』だとしています。立派な定義だと思います。

そのうえでコンプライアンスの重要な要素として「法令と実態との乖離」への取組みが決定的に足りなかったと断罪しています。そのうえで、6月3日、国土交通省に不正の報告を行ったことを受けての記者会見で、豊田会長は、「(認証制度と実態に)ギャップがある」と語りました。また、同じ会見でトヨタの本部長からは「より厳しい条件の試験」をしていたという発言が繰り返されたことが紹介されています。

にもかかわらず、今回、国交省から要請を受けるまで、トヨタにおいて、それを自主的に調査して、「法令と実態の乖離」を把握することも、その問題を明らかにして解決をしようとする努力も、郷原氏は「行われた形跡はない」と断罪。厳しくこれを批判しています。

今回の読者の方からのご指摘、そして郷原氏の指摘というのは、非常に重たいものであります。このまま「より厳しい試験だからいいじゃないか」「トヨタは被害者だ」「監督官庁は形式主義だ」という単純化をしては、確かに法治国家も何もあったものではありません。

従いまして、今回はもう少し詳しい議論をしたいと思います。3点、問題提起をさせていただきます。1つは、不正の内容についてです。2点目は、どうして検査基準をグローバルで標準化できなかったのかという問題、3点目は日本発の「外電」の問題です。

トヨタが「反省」をせずに「事態の改善」を求めている理由

1点目の「不正の内容」についてです。今回も問題については、国交省は例によってネクタイ姿の集団を送り込んで、トヨタから順番に「本社の検査」を行っています。

非常に「おどろおどろしい」映像であり、確かに一般世論に対しては、企業が不祥事を起こしており、これに対して検察ならぬ国交省が正義の立場から査察に入っているように見えます。

では、具体的にはどんな違反があったのかというと、まずトヨタの場合は、6月4日に「型式指定申請における調査結果について」というプレスリリースを出しています。
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/40920185.html

このレポートですが、かなり具体的です。これだけ読んでもトヨタとしては、反省というより事態の改善を求めているということは読み取れます。

違法行為をして査察を受けた企業が「お上に対して恭順を示す」文章ではありません。文面の上では低姿勢であり、何度も謝罪しています。ですが、肝心な点は、

「対象となる車両は、すでに生産を終了しているものも含め、社内での徹底的な検証において法規に定められている性能に問題無いことを確認しております。従いまして対象車両にお乗りのお客様はただちに使用をお控えいただく必要はありません」

と明確に宣言しているということです。トヨタは安全に関しては胸を張っています。そして立入検査を受けた後も、この文章を取り下げてはいません。つまり、国交省も「安全には関係ない」ことを認めているのだと思います。

この6月4日のレポートですが、該当車両は次のとおりです。また、車種別に、問題となった点をマトリックス式の表にしており、分かりやすい構成です。

車種は、クラウン、クラウン(ロイヤルアスリート)、アイシス、カローラアクシオ、カローラフィールダー、シエンタ、ヤリスクロス、レクサスRXの7車種となっています。

トヨタが犯した「6つの違反」のうち「最も悪質」なのは?

具体的な「問題」は次の6種類です。

(1)は「エアバッグをタイマー着火した開発試験データを認証申請に使用」というものです。文面だけを読むと、衝突試験をサボって炊飯器のタイマーのようないい加減な機器を使って試験をしたように読めます。ですが、専門家や現場の方などが書いた資料を総合すると、そうではないようです。

具体的にはエアバックが乗員を保護しているかを試験するであったそうです。その際に、衝突を感知してエアバックを作動させる正規のマイコン(チップ)を作動させる代わりにミリ何秒という高精度の電子タイマーで発火させて試験しているようです。

つまり、これはエアバックが発火して展開する際の動作を試験するものだそうで、それを実際の衝突を使って行うと、発火しない場合もあるわけです。ですから、電子タイマーで発火させた結果は信憑性があるのですが、日本基準の試験手順とは異なることになるということです。

(2)は「規定と異なる衝撃角度」ということで、人間との衝突のインパクトを試験するものです。具体的には、人体に見立てた鉄球を衝突させる際に、日本基準は50度なのに、欧州基準のより厳しい65度の衝撃角で試験していたようです。より厳しい欧州基準のデータでクリアしていれば、安全面では問題はないわけですが、日本のルールには型式として違反していることにはなるというものです。

(3)は、「選定と左右逆の打点、左右片側試験を両側に代用」というもので、クルマの衝突位置が左右逆の試験結果、つまり左ハンドル車のデータを、そのまま使ったようです。実際は、設計上は左右で全く条件が同一のため、安全確認には問題はないそうです。ですが、日本の手順には違反したことになるようです。

(4)は、「規定と異なる台車重量」というもので、衝突試験の際に、日本基準の1100キロより重たい1800キロの評価用台車を使用したようです。つまり、より大きな衝撃で評価したわけで、当然、1800キロのもののほうが、より安全性を確認できたはずです。ですが、日本ルールには違反したことになります。

(5)は「規定と異なるブロックで試験」で「古い積み荷ブロックの要件にて認証申請をしたもの」だそうです。

(6)は、「出力点の制御調整」で、これだけは、トヨタとしては問題があったとしています。具体的には、エンジン出力試験で狙った出力が得られるようにコンピュータ制御を調整し、再度試験をしたデータを使用していたらしいです。

トヨタとしては、RXは狙った出力が得られず、そのために調整したデータを使用してしまいまったそうです。その後の調査では、試験用の排気管の潰れが原因と判断しているとしています。

(4)「規定と異なる台車重量」に潜む「深刻な問題」とは?

トヨタの会見内容では、(1)から(5)は「日本ルールには合致していない」ので、違反は違反であるということは理解しているようです。ですが、多くの場合「より厳しい条件で試験していることから、安全性は確認」できるので、「クルマを回収したり、再整備する必要はない」という立場を取っています。

その一方で、(6)については、明らかに日本の試験車両には問題があり、それを直して再試験すべきなのを怠ったので、反省しているとしています。この説明については、まあそうなのだと思いますが、この(6)については、とにかく北米の大ヒット車「RX」ですので、開発も北米、最終仕様の固めも北米ということで日本市場は「オマケ」と考えていても仕方がないと思います。

ですが、その日本市場については出力を抑える自主規制の対象になる中で、恐らく試験車両の整備が型式認定のスケジュールに合わなかったのでしょう。ということは、他社の事例と似たりよったりで、確かに他の(1)から(5)と比較すると、悪質は悪質と理解して良さそうです。

では、(1)から(5)についてですが、私としては中でも(4)には、非常に深刻な問題であると感じています。トヨタは、衝突試験の際に、日本基準の1100キロより重たい1800キロの評価用台車を使用したということです。そう言われると、第一印象としては豪華なSUVやピックアップトラックなど、重たいクルマの走っている欧米のデータを流用したのは、やはり安易という印象を持ちがちです。

ですが、私は違うと思います。世界で1800キロという数字が採用されている意味は何か、それはEVです。現在、欧米でも中国でも、急速にEV車の比率が高まっています。そして、EVは重いのです。巨大な電池を搭載しているので重いのです。具体的には、

  • テスラ「モデル3」・・・1600~1700キロ
  • テスラ「モデルS」・・・1900~2200キロ
  • テスラ「モデルX」・・・2350~2450キロ
  • 中国BYD「ダイナスティ」・・・2360~2560キロ

ということで軒並み2トンを超えています。トヨタがスバルブランドと双子車として鳴り物入りで発売しているbz4xにしても、カラの車両重量で1900キロですから、やはり重いです。

つまり、世界中で2トン前後のクルマが猛烈な勢いで増えているわけです。ということは、どう考えてもガソリン車を含む自動車の型式認定の際には、1100キロの台車を衝突させた実験ではなく、1800の方が現実的と言えます。要するに、日本の基準は甘いというより、実情に合っていないのです。

トヨタ・自工会・国交省。三位一体の「事なかれ主義」を猛省せよ

どうしてこんな事になったのでしょうか?これが本稿の2点目の議論です。例えば、この(4)「規定と異なる台車重量」について考えてみると、色々な可能性が推測できます。

「業界はEV時代、つまり重いクルマの時代に合わせた基準を希望しているが、その意見が国交省に伝わらなかった。自工会(一般社団法人日本自動車工業会: JAMA)として意見をまとめるのに失敗し続けた」

「役所の前例主義が悪い方向に作用した。しっかり現実へのアップデートを主張すべき自工会にも役所の天下り役人がいて、事なかれ主義が残っていた」

「一部の企業としては、柔らかくて軽い軽四を認めるという前提では、このカテゴリについて一気に厳しくすることはできないという立場もあった」

あくまで憶測ですが、このようなメカニズムが働いて、脱法状態が「まかり通っていた」ということはあり得ると思います。個人的には、EVはどんどん増え続けているのですから、1800キロでも足りないわけで、2300キロぐらいで試験をして当然と思います。トヨタご自慢のbz4xの場合、車両総重量、つまり定員の乗員と最大積載量の荷物を乗せると、2300近くになるからです。

とにかく、自動車は一歩間違えば人の命に関わる乗り物です。乗員を守らなくてはならないだけではなくて、凶器にもなります。ですから、どんなに形式主義であっても法令遵守が大事という考え方が成り立ちます。その一方で、安全を至上とするのであれば、世界より甘い基準を手直しせず、より厳しい基準でのデータは違法とするという役所の姿勢には疑問が残るという立場もあると思います。

さらに言えば、EVという重いクルマと一緒に走る中で、はるかに甘い基準で審査していたのであれば、そのこと自体が安全性への配慮不足だとも言えます。この1点だけ取っても、行動に移さなかった自工会と、旧態依然とした基準を金科玉条としていた国交省は猛省が必要と思います。

今回お叱りをいただいた読者の方は、こうした脱法行為を放任すると、トヨタは過ちを繰り返すだろうと、厳しい指摘をされています。全くその通りと思いますが、もっと悪いシナリオも考えられます。

仮に、自工会がこのまま意見をまとめることができず、まともな要望ができない、その結果として、日本の検査ルールが旧態依然としていて、余計なコストがかかるという場合を想定してみましょう。その場合は、もしかするとトヨタなどは「1車種、また1車種と静かに日本市場から去っていく」かもしれません。

開発と生産は十分に空洞化してしまい、日本のGDPへの貢献は限定的となっている自動車産業ですが、最後には市場としても無視するかもしれないのです。そうした危機感を持つことは必要と思います。

本当に「大規模な不正」「幅広いテストの不正」だったのか

3番目は、日本発の外電という問題です。

この事件ですがごく初期の段階から、「世界でも日本車の信頼を損ねている」とか、「各国でも報道」という話になっています。確かに日本での法令違反はありました。ですが、海外では何の問題もないのです。純粋に日本国内マターです。

にもかかわらず、例えばAP通信は、

TOKYO (AP) ― Toyota Chairman Akio Toyoda apologized Monday for massive cheating on certification tests for seven vehicle models as the automaker suspended production of three of them.

The wide-ranging fraudulent testing at Japan’s top automaker involved the use of inadequate or outdated data in collision tests, and incorrect testing of airbag inflation and rear-seat damage in crashes. Engine power tests were also found to have been falsified.(以下略)

出典:Toyota apologizes for cheating on vehicle testing and halts production of three models | AP News

などと報道しています。massive cheating(大規模な不正)だとか、wide-ranging fraudulent testing(幅広いテストの不正)というのは、かなり激しい言葉です。

少なくとも、内容を精査して「50度でいいのにより厳しい65度で衝突させた」とか「ずっと重い台車で試験した」「確実にエアバッグを発火させて保護性能を検査した」など、具体的な内容を理解し、安全面への影響はないことを確認していたら、こんな強い言葉は書けないはずです。

とにかく、massive cheating(大規模な不正)だとか、wide-ranging fraudulent testing(幅広いテストの不正)というのはいけません。こういうことを英語で発信すると、場合によっては大きな誤解を生みます。最悪の場合は、ブランド価値の毀損が起きてしまいます。

この記事では、後の方で The issue does not affect Toyota’s overseas production.(この問題はトヨタの海外での生産分に関しては何の影響もありません)と断ってはいますが、多くの読者は読み間違える危険があると思います。

記事は署名原稿ですが、書いた方は産業や技術とは全く専門が違うようですので、あまり責める気にはなれません。問題はこうした内容で記事を書かせ、豊田章男会長の写真とともに、センセーショナルに仕立てて配信したデスクにあると思います。

トヨタだけでなく日本全体のアップデートが必要

3番目の「日本発外電」の対応はかなりひどいですが、本来の問題に話を戻しますと、今回の事態はとにかく問題であるのは間違いありません。

トヨタにも確かに責任はあります。ですが、国交省も自工会もそれぞれに、無作為というミスジャッジを続けていたのは事実と思います。

とにかく、EV時代に突入する中で、衝突試験の台車が1100キロで良いというのは、これは人命に関わる大問題です。この点についてだけでも、各メーカー、自工会、国交省の3者は全員で国民に対して謝罪するのが正しいのではないかと思うのです。

当面の焦点は、調査を受けての「行政処分」ですが、そこが大事なのではありません。

そうではなくて、国交省を含めた業界が検査基準を現状に合わせるためのアップデートができるかできないかが、厳しく問われています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2024年6月11日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。政治とカネの問題を斬る「自民党は真実から逃げるな」もすぐ読めます


この記事の著者・冷泉彰彦さんのメルマガ

 

初月無料で読む

image by: 「議長・豊田章男が最後の株主総会で語ったこと」トヨタイムズニュース – YouTube
 

冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。


有料メルマガ好評配信中