■プーチンの一人勝ちに。ウクライナの消滅と欧米の敗北を意味するだけの「早すぎる停戦交渉」 | タマちゃんの暇つぶし

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MAG2 NEWS:プーチンの一人勝ちに。ウクライナの消滅と欧米の敗北を意味するだけの「早すぎる停戦交渉」2024.03.16より転載します。
 
貼り付け開始、

https://www.mag2.com/p/news/595109
 
Moscow,Russia,-,May,12,,2022:,Russian,President,Vladimir,Putin
 

開戦からすでに750日を超え、ロシア有利の戦況が伝えられるウクライナ戦争。そんな状況の中、中国やトルコが「話し合いによる停戦」の必要性を再び訴え始めたニュースが各国メディアにより伝えられましたが、識者はどう見ているのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、現時点での仲介・調停による停戦の話し合いは行うべきではないと主張。拙速な停戦交渉はウクライナ消滅の危機を招くとしてその理由を解説しています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:End Gameが見えない2つの紛争‐危機と不確実性の拡大

話し合いによる停戦交渉を口にしだした中国とトルコは信用できるか

「すべての争いは、戦争によってではなく、話し合いによって解決されないといけない」

これは今週、ロシアとウクライナを訪れた中国政府の李輝ユーラシア特使が、ロシア(プーチン大統領とラブロフ外相)とウクライナ(ゼレンスキー大統領)に、習近平国家主席の意志として伝えた内容です。

「終わりの見えないロシアとウクライナの戦いに対して大きな懸念を抱いている。あまりにも多くの罪なき命が奪われ、日常が奪われた。アジアにも欧州にも、ユーラシアにも深く関係がある存在として、トルコが仲介に乗り出さなくてはならないとの覚悟を新たにした。私は今期で退任するが、最後の国際的な仕事として、ロシアとウクライナの戦争の解決に尽力したい」

これはトルコのエルドアン大統領の発言を要約したものです。

どちらも“話し合い”、つまり交渉による解決を謳っています。紛争調停官の立場としては喜ぶべきなのでしょうが、“現状”を見る限り、調停や仲介による解決のタイミングではなく、以前、交渉・コミュニケーション術のコーナーで用いた表現を使うと、「交渉・調停に最適なゾーンにまだ入っていない」と考えています。

ただ中国政府やトルコ政府というのは、ロシアとウクライナに対して対話のチャンネルを維持できているという面白い立ち位置・立場を有するため、調停役として不向きでは決してありません。

習近平国家主席もエルドアン大統領も、プーチン大統領がまじめに話を聞く相手ですし、ゼレンスキー大統領も両者の話を真剣に聞くことは、以前の(そして今回の)やり取りを見ても分かります。

「しかし中国はロシア寄りではないか」「エルドアン大統領は八方美人だから信用できない」という批判の声も聞こえてきますが、どちらもウクライナに対して「ロシアの提示する条件で停戦を」とは一言も言っておらず、代わりに「まずは話し合いのテーブルに就く姿勢を示すことが大事だ。その上で条件についての交渉をすることが必要である」という提案をウクライナにしています。

ロシアに対しては「一方的に条件を押し付けるのはいただけない。いろいろな背景や理由があることは理解しているが、やはりタブーを破ってウクライナに攻め入ったのは事実なのだから、無理難題を押し付けるような真似は止めた方がいい」と中立な立場からの働きかけを行っています。

現時点では決して行うべきではない仲介・調停による停戦の話し合い

では最近、ウクライナ戦争について発言したローマ教皇(白旗発言)はどうでしょうか?

カトリックのトップで、世界3大宗教のカリスマであることには疑いがなく、紛争解決によく“宗教指導者”が登場することもありますが、今回のロシア・ウクライナ戦争における仲介役として適しているかどうかは不明です。

それは同じキリスト教でも、ロシアはロシア正教でカトリックとは距離を置いていますし(今回、プーチン大統領に与しているチェチェンなどはそもそもイスラム教徒が多数)、ウクライナもオフィシャルにはウクライナ正教会が主流ですので、カトリックの最高指導者とは言え、ローマ教皇が調停役として適任かどうかは分かりません。

ただし、ウクライナを見る際、注意しなくてはならないことがあります。ウクライナにおいては、宗教的にも3つに分かれており、現在、ロシアが一方的に編入し、ロシア系住民が多いと言われるウクライナ東南部(ドンバス地方)については、ロシア系住民エリアについてはロシア正教会徒が多数を占め、首都キーウを含む中部はウクライナ正教会が主流ですが、それがポーランドと国境を接するリビウなどの南部地域については、ポーランドと同じカトリックが主流です(ちなみにゼレンスキー大統領自身はユダヤ教徒です)。

「ローマ教皇の影響力は宗派を超えるのだ」という指摘をされる方も少なからずおられますし、Holy See(教皇座)という名前で国連にも投票権のないオブザーバーとして参加し、実際に180か国以上と国交を持ち、他宗派とは違い、外交的な活動も頻繁に行われることから“特別の存在”とされるものの、その言葉や提言をどう受け取るかは、受け取る側次第というのが事実かと考えます。

長く一緒に調停グループを通じて仕事をしているロシアとウクライナ双方の専門家たちに尋ねたことがありますが、どちらからも「ローマ教皇はDevineな(神聖な)存在であり、心からの敬意は表するが、かといって私たちが彼の指示に従う義務はない」という反応だったため、仲介役としての役回りが適するかどうかは分かりません。

誰が仲介役として、ロシア・ウクライナ双方から受け入れられるかは分かりませんが、少なくとも調停・仲介を通じた話し合いによる解決を謳う“主要国”が第3極的に存在することは心強く思います。

しかし、現時点で戦況はロシア有利と言われており、大統領選挙でプーチン大統領の再選が確実視される状態で、ロシアの国内情勢もある程度安定しており、ロシア経済もさほど参っていない状況がある半面、ウクライナでは武器・兵員の深刻な不足が顕在化し、一応、取り繕われていますが、ゼレンスキー大統領周辺の国内政情もあまり安泰とは言えない状況がうかがえる明らかにアンバランスな状況下で仲介・調停による停戦の話し合いは決してお勧めしません。

停戦協議・交渉はどこかの段階でマストですし、その機会が一刻も早く訪れることを切に願いますが、そのためにはまずロシアとウクライナの戦場・戦況におけるバランス・均衡を実現する必要があります。

そのためにはウクライナを後押ししている欧米諸国とその仲間たちによる軍事支援の拡大と継続が必須となりますが、このメルマガでも何度もお話ししている通り、支援疲れや支援国の国内政情などに影響され、ロシアと戦い続けるに十分な量と質の支援は滞っています。

バルト三国、東欧のNATO諸国、北欧方面にも伸びていくロシアの牙

ロシアはウクライナによる反転攻勢中に体勢を立て直し、今では武器弾薬の生産体制も確立し、補給線も強固になりつつあると言われており、近々、本格的な攻勢に乗り出すのではないかと噂されるほどの充実度を誇り始めています。

すでにロシアとウクライナの戦力差は歴然であり、そこにウクライナ側の最前線で広がる厭戦ムードと極限の疲弊が加わり、とてもequal standingで交渉できるような状況にはありません。

このまま、支援が滞り、支援国からの停戦への圧力が強まって、交渉のテーブルにウクライナが引きずり出されるような事態になった場合、かなりの確率で予測できる帰結はウクライナの消滅を伴うウクライナおよび欧米諸国とその仲間たちの敗北です。

表向きは停戦がしばらく続きますが、ユーラシア・コーカサスからは欧米諸国の影響力は削がれ、ロシアがウクライナ戦争の傷跡から立ち直り始め、軍の体制が整った暁には、ウクライナを席巻するだけにとどまらず、ロシアの牙はバルト三国、そして東欧のNATO諸国、そして北欧方面にも伸びていくことになります。

まずはモルドバやバルト三国がターゲットになり、そのうち、今はロシアと距離を置くスタン系の国々もまたロシアへの接近を図り、そこに大きなロシア勢力圏が復活するというプーチン大統領の夢に近づくシナリオが予想できます。

できるだけ早い時期に停戦は必要だと真に信じますが、そのためにはウクライナを支援し、ロシアと面と向かって話ができる環境を作ってあげないといけません。

これ以上の慎重さと支援の遅れは、ヨーロッパ各地に不穏な空気を運びこみ、大きな安全保障上の脅威をNATOに及ぼすことになります。

では同じくongoingな悲劇であるイスラエルとハマスの戦いはどうでしょうか?――

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年3月15日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。


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