9日目、 SPO2 74と回復。停滞して高所順応した価値が出ている。下痢はゆるい程度と言えるレベルで止まってくれている。
問題の隊長は、強い薬を飲んでいるので、もう回復してるんだか、なんだかよく分からないと言い出した。既に判断できない状況になっている。SPO2はまた60台を打ったそうで、これはもう標高を下げさせるしかない。
隊長には納得してもらい、1つ手前の街パンボチェに下りてもらうことになった。標高は今より370m下がる。これで1日ステイして回復するようなら儲けもの。ダメなら次の日ナムチェまで下りてもらう必要がある。一度別行動にしてしまったら、もう細かいアドバイスはできなくなる。
兎に角、全回復してBCに戻って来てください、と私。隊長が戻ってくる頃には、私たちの方がフラフラで、隊長には全面的に働いてもらわないといけないんですからね!
問題はまだある。佐久間隊員が隊長の風邪をもらい、体温38.1度を計測してしまったのだ。非常に体調を悪そうにしており、熱や下痢などないが、喉の痛み、咳がある。つまり、そのまま隊長の風邪と同じってわけ。佐久間隊員は、隊長が風邪をひいた際に同室だったため、そのまま生け贄のような格好で同室を続けてもらっていた。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
佐久間隊員は次の目的地の標高より高くに昨日登っているので、ステイ等考えず進むという。佐久間隊員のベテランならではの回復の知恵を信じるほかない。
出発。分岐でBCで会いましょうとパングチェに向かう隊長とガイドさんと別れた。隊長のクライミングギアの入ったビッグバッグは、ロブジェBCに先に入れることになっている。隊長が戻って来たときにギアがないなんて、チュルーの時の私のようなことにはならない。
私ら3名は昨日登った丘を登り、そこからロブジェ方面に入って行く。標高差は630mあるものの、距離が長いので苦にはならないルート。ともあれ、標高は5000mに近づいているし、エベレスト街道でもっともロッジが少ないルート。だいたい目的地までに3,4あるロッジが、この日のルートには1つしかない。
いつもはペースの速い佐久間さんも流石にペースダウンを余儀なくされていました。一休み。
この日の天気は快晴。でもありとあらゆる山には雲がかかり見えず。
ロブジェのある方角には雲しかなく、
振り返ってもアマダブラムやタムセルクは雲に隠れていた。昨日山々を見られたのは幸運だったのだ。ロブジェを観察する機会を得られて本当に良かった。山の神様ありがとうございます。
このルート唯一のロッジがあるトゥクラに到着。佐久間隊員は体調が悪そうだし、笹沼隊員も疲れている様子。心配だわ。寝ている2人を休ませるべく、私だけ二杯目のお茶を頼み時間を稼ぐ。
再出発すると、途中でロブジェBCを設営する場所を確認することができた。正面のプラトーがそれだ。そして左側のガレを回り込むように登っていく。今日はロブジェのロの字も拝めずに歩いて来たので、あまり実感がわかない。しかし登山の開始は刻一刻と近づいている。
ロブジェに到着。本当に辺鄙な場所にある街だが、お客は多く大層賑わっている。ロッジのカウンターにいた若者が日本に何度も来ている日本語ペラペラな方で、色々情報交換できたのだけど、まず驚くのは、ロクジカンと笑いのネタにしていた野口健先輩が、明日ロブジェを登りにこのロッジに来るそうな。
山の世界ってば本当に狭いよなー
ウエストとイーストどっち登るのと聞いたらウエストとのこと。ああ、僕らはイーストなんだ。
えっ、イーストですか?クレバスが大きくなってから、最近もう誰も登れてないですよ。
おー、そうそう、僕らはそのクレバスを越えに来たんだよ。
4月に二隊、イーストのクレバスを攻略すべく登りに行きましたが、どちらもクレバスを攻略できずに帰って来ましたよ。その内の一隊は、再度のチャレンジで、昨日、ロブジェ・イーストに出発したばかりです。
今年3隊もチャレンジしていた(いる)とはね!しかも攻略できていないとは!ここ何年かで攻略した隊はいるの?
挑戦している隊はそれなりにいるけど、成功したとは聞いていないですね。
きっ、きっ、きっ、きたー!!!
これ来たっしょ!!!
つまるところ、クレバスが大きくなってから、越えた隊は日本で調査した通り世界にも僅かしかいないってことだ。これが日本人となると、報告書でお世話になった近藤さんの隊しかいないに違いない。(近藤さん以外の日本隊で、俺イーストのクレバス越えてますけど?って隊がいたら教えてください)
狙った獲物はデカかった!
登れれば、クレバスの先を狙っている世界の隊へのいい情報提供ができるってもんだぜ。まあ、今トライしているその隊が登っちゃうかもしれないけど、それはそれで情報もらえてありがたい。その隊は短期間に諦めずに2回目をトライしているのだから、脈はあるんだろう。攻略できないクレバスではないとみた!
現地に入ってみれば、ロブジェ・イーストの本峰どこだ問題なんてなかったのでした。単に、クレバスの先に行くのを諦めた人間が、行き止まりで登頂としているだけで、ちゃんとそのクレバス攻略に情熱を傾けている山屋は世界にいたのです。それは本峰そのものといよりも、そのクレバスを攻略できるか否かという、まさにアルパイン的魅力がそこにはあるってことじゃないんだろうか。じゃなかったら何隊もチャレンジしていないだろう。
あーなんかワクワクしてきた。
佐久間隊員は熱も下がり食欲も回復、後1日寝れば大丈夫とのこと。流石っす、先輩、まじ嬉しいっす! 笹沼隊員は元気だし、わたしも下痢は治った。隊長は隊長ができることに全力投球していることだろう。
明日「起きたら高山病でした」なんてことになっていなければ、高所順応はクリアしてBCに入れる可能性が高くなってきた。とはいえ、私がチュルーの際にやられた標高5000mに本格的に突入するのは明日から。ここからが勝負どころだと気を引き締めて、死んだふり作戦を継続したい。(おわり)
宿泊地 ロブジェ 4930m 隊員3名 6h20m(休憩込)
宿泊地 パンボチェ 3930m 隊長