「西会津のマッターホルンで交流」 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

人の親になっても頂きを目指し、家族と共に攀じり続けるパパクライマーの記録

 わたしの所属している栃木県山岳連盟海外委員会のイベントといえば、トップクライマーをお招きして「海外登山の集い」を開催することと、海外登山で有用な技術を先達から引き継ぐ役目「海外登山技術交流会」を開催することの2つがあります。29年度は「海外登山技術交流会」を夏冬2回にしたいとの要望が通り、「海外登山技術交流会(夏季)」と「海外登山技術交流会(冬季)」があるので、計3つになりました。

 

 今回は、その中から3月中に開催された「海外登山技術交流会(冬季)」のお話を。

 

 現在の栃木県山岳連盟は、本年70周年を迎えるにあたり、70周年記念海外遠征登山を計画しています。わたしも登攀隊長として参加するのですが、今回の海外登山技術交流会(冬季)は、夏季に引き続き、その海外遠征に参加するメンバーと訓練することを主眼において取り組んできました。

 

 

 参加は、主催の海外遠征登山隊からわたしを含む3名(宇都宮渓嶺会1名、宇都宮白峰会1名、小山山岳会1名)の他に、今春にK2遠征を控える片柳さんと小山山岳会のYさんの合計5名。Yさんは2016年の夏から3回連続の本イベント参加です。やる気があふれております。ありがとうございます。

 仕切り役は今回も不肖のわたくしめ。場所は西会津のマッターホルンと呼ばれている蒲生岳。わたしはもう冬に2回違うルートで登っています。勝手知ったるこのエリアで、山頂までFIXを張りまくってみようと計画しました。本来核心部以外はノーザイルでいけます。(※注 人によります)

 

 

 この日の問題は天候でした。春を通り越して夏の陽気なのだ。暑い。つまるところ雪崩が心配だ。既に数日間暑い日が続いており、雪崩は流れきっていると考えているのだけど、まだまだ油断はならない。警戒を密にして挑まなければならない。

 

 

 やはり概ね雪崩れてはいるものの状態は悪かった。岳連行事で事故を起こすわけにはいかない。全層雪崩、ブロック雪崩、雪庇の崩壊、シュルンドへの転落等、注意しなければならないことは山のよう。如何に上部から落ちてくる危険物のフォールラインを交わすか相談する。そして皆にも質問する。どう考えますか?

 

 

 登れるルートはあるということになったので、山行は継続することになりました。そしてある程度傾斜が増してきたところから、本交流会の本旨フィックス張りの訓練に入る。リードはほとんどわたしがしますが、皆に役割分担をして仕事にいそしんでもらいます。200m分しかザイルがないので、回収しては上に運んでもらわないといけないのです。

 

 

 さあ登りますよ。

 

 

 

 3ピッチ伸ばした先が尾根へあがるのが一番簡単な取り付き点なのだけど、今年は岩が露出していて雪もグズグズ。そのままでは取り付けない。左に大きく巻くことにした。

 

 

 左の安全な場所に逃げてから登ってくるメンバーを待つ。

 

 

 岩の尾根に出ると、雪が薄く、少しの衝撃でも岩の上を雪が滑り落ちる。核心部を含むエリアはやらしい状態となっていた。慎重に2ピッチ伸ばしました。

 

 既に計6ピッチ張っている。時計と睨めっこしつつ逆算する。引き返すリミットは15時ジャスト。今回参加しているメンバーの中で蒲生岳を登頂したことがあるのはわたしのみだから、今回わたしだけが登頂したところで意味はない。しかし全員がフィックスで上がってくるのを待っていてはリミットに間に合わない。よし決めた、次誰が登ってくるか分からないけど、次登ってきたメンバーだけを山頂に連れていくということをわたしのミッションにしよう。遠征本番でもこういうことはあるはずだ。

 

 

 次に登ってきたのは遠征メンバー内の一人にして県岳連会長の喜内さんでした。ならば喜内さんを山頂に連れていく。下方にいるメンバーにわたしの考えを大声で伝え、かってに下山しないよう待機する場所、待っている間にやっておいて欲しい仕事を伝える。よし、では間に合わせるぞ。

 

 ここからはノーザイルですが、頑張りましょう。

 

 

 山頂まで30分もかからないと見込んでいたら、なんと山頂直下が身長の2倍分くらい崩れ落ちていた。山頂前がハング気味になっているじゃないか?!ガーン…

 

「たまさん、これは無理だろう」と喜内さん

「いえ、喜内さんが行くというなら、ルート工作します。登れます」とわたし

「よっしゃ分かった。なら登ろう」と喜内さん

 

 おお、さすがのメンタル。栃木県山岳連盟会長は伊達ではない。

 

 

 そしてリミットジャストに蒲生岳に到着。ぎりぎり会長をサミットさせることができました。なんか遠征を想定しながらあれこれと指示しつつ登れたので感慨一入。今回はいい登山ができた。下りてからわたしたちを待ちつつ仕事をしてくれていたメンバーにサミットした旨告げると、皆喜んでくれた。隊の協力あってのこと。ありがとうございます。山頂はまたいつでも行けます。

 

 

 暑さで腐った雪に足をとられながらも、日が暮れる前に下山し交流会は終了。本番でやる予定のフィックス張りをそのままこの日は現場に落とし込めたので、本当に良い訓練となった。やることを覚えている程度のレベルではダメ。まだまだ時間短縮できる。

 また、移動中に栃木のレジェンド片柳さんから海外登山での様々なイロハを教えて頂けたのも大きい。例えば、自分たちの隊が張ったフィックスを別の海外チームが無断で使用していた場合はどうするか、自分たちの張ったフィックスを買い取りたいと交渉を持ちかけられたら幾らぐらいが妥当か等々、当たり前だけど聞いておくとためになる、本には書いていない基本中の基本の情報を教えていただけました。ありがとうございます!

 

 てなわけで、海外委員会初の試みるとなった海外登山技術交流会(冬季)は成功といっていいでしょう。今回は参加条件を厳しくしたので、参加されたくても参加できなかった人も多いと思いますが、来年はもうちょっとゆるくしようと考えていますので、興味のある方は1年後の募集をお待ちください。あっその前に夏季があるのでそちらにご参加ください。栃木県山岳連盟海外委員会は、あなたのハートの火を大きくすることをお約束致します。(おわり)