山行報告【奥穂高岳・涸沢岳西尾根(冬期アルパイン)】3日目 | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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人の親になっても頂きを目指し、家族と共に攀じり続けるパパクライマーの記録

(2日目のつづき)


4.山行記録(3日目)

最終日は帰るだけですが、あんまり寝ていても疲れるので、まだ暗い6時に幕営地出発としました。下山の準備をしていたら、この日アタックする隊も準備していて、色々と情報提供。その隊は本日快晴ながら、強風を理由に偵察だけで山頂は目指さないとのこと。翌日(元旦)アタックに本日は停滞と早くも決めていました。



今回の冬合宿は登りも楽なら下山も楽。いつもより高い幕営地(2400m)からの下山だというのに、白出沢出合に1時間30分程度で着いてしまいました。道中からは奥穂高岳山頂の見事なジェットストリームを視認することができ、あれだけ吹いていると、やはり快晴でも停滞止む無しかとわたしも判断いたします。まあわたしは行けるところまで行ってみて、そこで判断しますけどね。兎にも角にも、1日ずれているだけでこれですから、冬山は本当に難しい。


出合からの最後の林道歩きも楽なもので、前日の陽気で土がかなり露出しており、さくさくと歩けて、駐車場にはまさかの9時着。2400mから3時間足らずの下山になってしまったのでした。


5.山行時間

293:50新穂高温泉駐車場―6:50白出沢出合―11:50幕営地(2400m付近)

306:00幕営地―7:25F沢のコル―9:05涸沢岳山頂―10:50奥穂高岳山頂―12:00穂高岳山荘―13:40F沢のコル―14:30幕営地

316:00幕営地―7:30白出沢出合―9:00新穂高温泉駐車場

29日行程8時間●30日行程8時間30分●31日行程3時間


6.まとめ

4回目の挑戦でとうとう涸沢岳西尾根~奥穂高岳ルートを完登することに成功しました。3回の挑戦で、条件がそろわないと2泊3日(予備日なし・小屋泊禁止)では、とても完登できるルートではないと結論付けましたが、その条件が今年は見事にそろったと言えます。


思うことは、皆天気と相談してルートを決めているのだなということ。過去3回、ほとんどいなかった同ルート上の登山者たちも、今年はウジャウジャと溢れていました。つまりはわたしたちが挑んだ過去3回は、現地に入る前から登山者たちに楽な道程ではないと見限られていたわけです。逆に今年みたいな好条件だと、それ今だとわんさと皆やってきて、テントが芋洗うことになるわけです。


そういう訳なので、天候条件がいい冬山の人気ルートは、必要以上に人が踏み固めるため、条件がいいさらにその上の“最高の”好条件となってしまう。出合までのアプローチも、幕営地までの尾根歩きも、稜線上も何処かしこもトレースありきで、エスカレーターで山頂に登ったのと感覚的には同じでした。


こういう好条件で登ると、やはりこのルートは冬期アルパインの入門レベルのルートだなあと感じます。注意してほしいのは、穂高岳山荘から奥穂山頂へ向かう際の岩稜地帯の登下りでしょうが、ここも、アイゼン歩行の訓練をしっかりやってさえすれば、問題ないレベルと感じました。厭らしいのは下り時の一足だけでした。


またガスが出ると穂高岳山荘―奥穂高岳山頂間は尾根間違いをする可能性があるので、読図力は最低限以上必要です(強風がトレースを消すなんてことはよくある話しなので、トレースありきで、冬山の高みに入ってはいけません)。


今回わたしが4回目の挑戦で山頂を取り、下山時に感じていたことは、わたしは本当に恵まれているということでした。というのは、わたしは後輩をこのルート挑戦一発目で山頂まで連れて行ってしまいましたが、これってじつは損させているのではないかと感じたのです。


わたしもあるタイミングまで、山岳会に入った誰でもがそうであるのと同じように、先輩に面白そうなルートに連れて行ってくださいとお願いして山に行くスタンスでした。しかし、わたしを面白いルートに引っ張り出してくれた先輩方は、皆が皆、山頂を取らずに帰ってきてくれたのです。


甲斐駒ケ岳黒戸尾根しかり、この涸沢岳西尾根~奥穂高岳しかり。山頂を取らないで帰ってきたおかげで、次こそは自分でそのルートを完登してやろう、そう思えました。上記2ルートは翌年から自分で挑戦し、結果完登に至るわけです。


今回の涸沢岳西尾根~奥穂のルートなんかは、4度の挑戦で、毎回違う冬のシチュエーションをわたしに見せてくれました。暴風雪の中、雪崩リスクの高い新雪、大雪のラッセル、そしてトレースばっちりのエスカレーター、すべてが同時期の同ルートとはとても信じられないようなシチュエーションです。


アイススクリューが有効な条件もあれば、スノーバーが有効な条件もあるし、登攀を余儀なくされカムを打った回もありました。つまりは、夏と違い、冬は入山前に的確にシチュエーションを見定め、それに適した装備を用意する。これが無駄に重い歩荷からの解放につながり、またシチュエーションを見定めるため、入山エリアの雪の層の成立過程を何週間も前から高層天気図とにらめっこして、想像を膨らませる大切さを知った。


山頂を踏んだ今思うことは、山頂を踏んだ今回よりも、山頂を踏めなかった3回のほうこそ宝物なのだと気付けたということです。入門ルートを未熟者の段階で楽勝々と抜けてしまっていては、取れ高が少ないのは必定で、そういう意味では、わたしをペーペーの頃に山頂まで連れて行かなかった先輩方は、流石というほかありません。


今回のルートも一般登山者にとっては簡単なルートではありません。穂高山荘から奥穂へ向かう岩稜帯は、よく滑落事故が起こっているエリアです。冬に必要なのは好条件のピークをハントし続けることではなく、冬山の幅広いシチュエーション、そこから派生するリスクとハザードの無限の広がり、それを知ることにつきるのだと思います。


それを知るには、悪条件でも冬山にふれていくしかない。好条件しか経験のない雪山登山者は、天気読み、雪の状態の読みを誤っただけで死んでしまいます。誰でもミスはするのですから、多岐にわたる雪山のシチュエーションを事前に把握し、対処できるようにしておく必要があると思います。


とりあえずは、わたしがやったように、日程を決めて、決めた日程でどんな条件だろうと山に入り、トレースが皆無でも自分で撤退判断とするポイントまでは登ってみる。これをやるしかないと思う。ではないと、条件がいいときの雪山は条件がいいどころではおさまらず、簡単も簡単、なにも得ることがないかもしれないというくらい簡単な場合もありえます(雪がある分、夏より簡単ということもよくある話)。


そんな条件の中で、ピークハントをいくら重ねていっても何れは死んでしまうかもしれません。山頂を取れなかった経験、失敗や撤退、敗退の数こそが、自分の成長の因果であると認識しておくことが肝要でしょう。


兎にも角にも、昨年、一昨年、このルートを下山している時に、すれ違う隊の皆さんに「トレースありがとうございます」とお礼を散々言ってもらってきましたが、今回はその時の分が利子付きで返ってきたような好条件でした。色々書いてみましたが、積雪期の奥穂高岳、入山する価値は大いにあります。冬期アルパイン入門ルートとしておススメ致します。(おわり)