穂高岳CC@2日目エスケープ編 | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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人の親になっても頂きを目指し、家族と共に攀じり続けるパパクライマーの記録

3.2日目エスケープ編

まさかのまさか、懸垂のすっぽ抜けという座学でもっとも耳にしているイージーミスで、滑落するはめとなったわたし。


後転2回バコンバコンと叩きつけられたら、ふわっと宙に体が投げ出され、垂直落下、眼前に岩面が迫ってくるということは顔面から落ちる!とっさに体を右にひねる。きれいに右側面から岩面に叩きつけられた。ヘルメットがぐにゃりとゆがむ感触が伝わってくる。お、このヘルメットは割れないなと思う(わたしは過去ヘルメットを3つ割っている)。


そして衝撃が強かったからか、右にひねって落ちた反動は、そのまま身体を逆回転させて再度宙に放り出す、今度の左回転は止まらない。スクリュー状態の錐揉みで再度垂直落下。回転しながら地面に落ち、そのまま斜面をゴロゴロと転がり落ちていく。うわーとまんねー。手足を大きくひろげてワタワタしていたら、3回程度転がったところで止まった。


すかさず、上の後続隊から「大丈夫かー、ヘリコプター呼べー!!」の声。


ヘリ呼ばれたらたまらないと思ったのか、瞬間的に立ち上がる。よし立てた。両腕を回す。よし動く。「大丈夫でーす!動きまーす」と大声で声の主に叫ぶ。


「本当に大丈夫かー?!」とのさらなる大声。


両腕、両足の可動を確認。問題ない。骨も関節も問題ない。動くぞ。「大丈夫でーす!動けまーす!」と大声で返す。


声の主のセカンドさんが岩から顔を覗かせる。声の主はわたしが見える位置にはいないようだ。ただ、わたしが滑落していく様は見ていたんだろう(申し訳ないことです)。滑落を見ていなかったらしい涼しい顔のセカンドさんに大丈夫ですと念押しで伝える。


うちのフォローからも「大丈夫ー?」との声。「大丈夫!取り敢えず、ここまで下りてきて!末端結んでないから注意ね!支点も再度確認して!」と伝える。


フォローが下りてくる間。自分の身体を再チェック。ヘルメットは割れていない。右耳後ろやや下に大きなコブあり、右肘がやたら痛い。肩はやたらやたらやたら痛い。下半身は何処も問題なさそうだ。おお、右人差し指の第2関節が完全に皮膚もってかれて流血中。。手袋は滑落中の遠心力に耐えかねてか、滑落途中に2つとも脱げて上部に目をやると落ちていた。


セカンドがわたしの垂直落下したハングしている岩上まで来た。どうする?というので、ここまで下りてこられるようなら下りてきてと伝える。


巻いて下りてくるセカンドを待ちつつ、着ているものを脱いで身体のチェックをした。着ていたレインウェアは何カ所も大きく裂けていた、左肩裏、左脇下裏は重度の擦過傷といった感じでケロイド状。右肘も同様の状態。右肩は一番痛いが外傷はなかった。右耳後ろやや下に大きなコブあり。右人差し指第2関節皮膚はがれて一番血が出ているのここか。腰周りも何カ所か擦過傷。


上で後続隊の1人が本当に大丈夫なのか?と自身のセカンドにボソボソ聞いている声が届く。大丈夫みたいですよ、立って喋ってますしと、わたしが見える位置にいるセカンドは伝えていた。


うちのフォローは滑落している様を見ていないそうだが、音を聞きながら死んだと思ったらしい。でも安心してください、生きてますよ!と冗談を言う余裕はあった。この時点でわ。




滑落した上部を見ると、15mくらいは落ちたんだろうか。4m転がり、3m垂直落下して、2m垂直落下して、6m転がったって感じか。




こんな感じで。




わたしが止まった箇所の2m先に目を向けると断崖絶壁だったので、止まらなかったら死んでたな。生きてるのは偶然というわけだ。ありがたいことだ。しかし顔面から落ちなくて良かったなあ。あのまま前面から落ちてたらどうなっていたことか。飯伏ばりの空中横ひねりだったな、へへへ。


さて、もう登るわけには行かないよな。悔しいなあ、末端すっぽ抜けをやるなんて。現状は動けるから登りたいなんて考えが1番に出てくるが、時機に動けなくなるのは分かりきったことだ。なんとなく右肩が上がらなくなってきた感がある。右肘も動かなくなる予感がする。取り敢えず「岩の墓場」から脱出しなければ。稜線に出てから再度検討し、涸沢のテント場まで帰らなければなるまい。


幸い自力エスケープできそうだ。荷物のほぼすべてをセカンドに背負ってもらい、ありったけの防寒具を着て、食料をむさぼり(吐き気がでない。良い兆候だ)、まずは滝谷脱出から試みる。ありゃ、既に右の肩と肘が動かなくなってきた。Ⅱ級の岩場だって厳しい。うーん、だめだ登れない。ザイル出す?とフォロー。いや、ザイルだしても意味ないだろう。そうだなあ、足だな、足で登れるルートを探すしかないな。片手と足で登れそうなルートを見出し、はい上がっていく。ルートをよく見ればなんとかなった。


そんなこんなでドーム中央稜のアプローチを早朝から逆に登っていると、上から下りて来るわ来るわの4パーティ。どうしたんですか?と皆聞いてくるから、ちょっと落ちちゃいまして、撤退することにしました~とのんきな調子で返す。4パーティ中に2パーティはアプローチに悩んでいたので、正解を教えてあげて(エスケープ中に本ルートを確認済み)、




そして、よしよし、よっしゃー稜線きたー!!前穂~奧穂の素晴らしい景色広がっていた。嗚呼やっぱ登れないの悔しい!


稜線に出たころには、右手はびた一文上がらなくなっていた。肘が曲がらないし、肩も上がらない。ダランとついているだけの状態。擦過傷の酷いのはすべて上半身左側だけど、上半身左側の機能はすべて生きている。下半身に違和感が出てくる気配まったくなし。よし、下半身もすべて生きている。これなら問題ない。右耳後ろ下のコブも頭蓋の最下部、ヘルメットが守りきれなかった場所=脳がある場所じゃない、星もちらなかったし、大丈夫だと判断(スノーボードのキッカーで頭何度も打っている経験から)。




取り敢えず、現状大丈夫そうだな。北穂山頂の小屋に逃げ込む必要はなさそうだ。自力で涸沢まで帰れる。問題なし。しかし天気最高だなあ。悔しいなあ。




立ち寄った北穂山頂から、滝谷ドームを眺めて反省し、北穂南稜も片手で下りるのはちとつらかったが、まあ空身だったのでなんとかなり、そして涸沢へ到着したのだった。(つづく)