近況531.はじめての一ノ倉沢登攀 | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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人の親になっても頂きを目指し、家族と共に攀じり続けるパパクライマーの記録


今日は、山の日制定記念プレイベントでノ倉沢登攀デビューしてきた感想でも書こうかと思います。


一ノ倉沢は、クライミングを始める前、あんなところを登る奴はよっぽど奇特なんだと思っていました。谷川岳を縦走した山歴2年目のわたしにはあの岩壁はただの断崖絶壁に見えたのです。


がしかし、クライミングを始めると、一ノ倉は易しいルートが多いよ、○○さんでも登れるルートがありますよと、早い段階から登れる山域の仲間入りを果たし、



こういう岩壁を見ても、どこそこが南陵であそこが中央稜かなどと、ただの断崖絶壁に見えていた景色にルートが見えだし、そして、あのスカイラインは登ったら気持ちがよさそうだなどと、涎をたらすようになっているのでした。人ってのは変わるものですね。


一ノ倉沢には本当は2年前くらいに取り付いているはずでした。しかし、一ノ倉沢登攀の計画は、雨天で流れること4回。谷川岳の天気に阻まれてきたのです。だからこそ、一ノ倉登攀を実現できたことは、今年のわたしの天気運が並大抵のものではないということをしめして~、いや違った、こんなこと書こうと思っていたんじゃなかった。閑話休題。


今回は、お客さまを一ノ倉沢衝立岩中央稜に登らせるべく準備をしてきたのですが、まあルート変更もあるかもしれないと南陵なんぞも頭に入れておきました。しかし蓋を開けてみると、担当するお客さまがいないということで、登攀時間は自由の身となりました。


師匠とは、まあそのまま準備してきた衝立岩中央稜でも登りましょうかと言っていたのですが、イベント初日に群馬チームから、烏帽子沢奧壁中央カンテがオススメですよなんて聞かされて、師匠はもう中央カンテ登りたい気満々となってしまいました。(師匠は中央稜も南稜も登っている)


師匠にどうする?と尋ねられて、これ普段のわたしなら準備してないルートになんて絶対入らないんですが、そこは久しぶりの師匠とのペア、冒険してなんかあってもリカバリー可能だろうと、トポも見ていない中央カンテに取り付くことになったのでした。


登る前にトポをコピーし持参、一々読みながらの登攀です。一応7ピッチ目が核心とあるので、師匠に奇数ピッチを譲ります。中央カンテの取付きは衝立岩中央稜の取付きを左に回り込んだところにある残置支点です。1ピッチ目は取付きからそのまま上に登るのではなく、右にかなりトラバースして凹状を上に抜けるそれになります。



結果論から書けば、6ピッチ目まで登って、核心の7ピッチ目のスリングを目視したところで敗退しました(ツアー隊との合流時間になったので)。核心を登ってないので、なんとも書きようがないのですが、登攀難度はさして難しくないと感じました。中央カンテはルートもわりと明瞭です。ただ、ルート上に先行パーティがいたのですが、落石を頻発させていたので、先行パーティがいる場合は落石はよっぽど気をつけたほうがいいです。わりともろくて大きいのも落ちてきます。



さて、今回6ピッチ目まで登ってルートも明瞭と書きましたが、じつは4ピッチ目わたしがリードしている際にルートミスをしてしまいました。小垂壁を越えたあと、目の前にもろい垂壁のコブが表れるのですが、これを左にまいてチムニーに向かえばいいものの、コブの前にいたときに、遠くから「栃木、核心がんば~」と聞こえてきたのです。


南陵を登っている茨城チームからのエールでした。え?7ピッチ目が核心じゃないの?4ピッチ目が核心って全然難しくないじゃん。あれか?この目の前のコブを登れと言っているのか?


てなわけで、準備も疎かにルートに取り付くと、人の言動に惑わされ、わたしはその垂壁のコブを抜けてリッジ上に出てしまったのでした。かなりもろくて絶対3級4級のレベルじゃない、これはルートじゃないなあと感じながら登りました。上に抜けると死にかけた終了点があったので、そこでピッチを切りました。その終了点は、ナチュプロを使える箇所もなく、あっそうそう、一ノ倉ってナチュプロ決められるところがあまりないね。南陵や中央稜は支点だらけと聞きましたが、中央カンテは支点があまりなく、40m伸ばして1~2支点なんてこともありました。注意です。(まあ簡単だからかもしれませんが)話し戻して、4ピッチ目でルートミスして、どうするか師匠と協議。目の前にさらにフェイスの垂壁がどーんとあるのですが、それさえ登れれば正規のルートに戻れます。




わたしにはそのフェイスを登るルートを見出すことができなかったのですが、師匠は登るラインを見出したようで、登るというのです。えー、師匠がどう登ろうとしているのか、さっぱり分からないよ。


師匠はフェイスに取り付き、ある程度登るとハーケンを打ち出しました。垂壁登っている最中にハーケン打つもんかねっ?!師匠も真剣クライミングしている最中にハーケン打ったのは初めてだと言っていました。そして、わたしには見出せなかった、見えないどこかにカムを決め、上手くフェイスを登りきったのでした。


なんだ案外簡単そうに登っていたな、こりゃ5.10aくらいかなと、わたしもフェイスに取り付き、絶対わたしが残置してくると思っているに決まっている師匠の打ったハーケンをわたしも真剣クライミング中にせっせと回収してやり(これが腕を使ってしまったのかもしれない)、カムを回収し、抜け口まで登るのは容易だったんですよねえ。でもね、抜け口に手がないの!足もない!パーミングとピンチの間の子みたいな岩が1つしかない。それを左手で掴んで上半身を抜け口より上に上げても右手がないんだ、ついでに足もないんだよー。で、時間切れパンプで、どーんと落ちる。


師匠は簡単に登っていたのだから、ホールドをわたしが見落としているに違いない。もう一度チャレンジしてみよう。でもやっぱりどーんと落ちる。


あら~これ抜けられないよ。ないもの手も足も。ちくしょう、極めて手の長い師匠しか抜けられないんだ、そうだ、そうに違いない。ここは諦めて、ザイルを使って登り返そう。外岩でマジ登り返しをするはめになり(因みにダブルロープの登り返しはロープが交差していると骨が折れます。やっぱリードはザイルが交差しないように登らねばなりませんね)、えいやこらと疲れ果てたのでした。


で、わたしが何を書きたかったかというと、準備不足で山に入れば、縦走にしろクライミングにしろミスする確率は高まるわけです。でもね、わたしは自分の山行であまり失敗しませんが、準備万端過ぎても面白くないんだよねと感じたわけです。自分より上の人間と久しぶりに組み、まったく準備してないルートに入って、結果ルートミスすることができ、結果リードは登れるのに自分は登れないフェイスを本ちゃんでトライすることができ、落ちることができ、経験値は当然ストップ高。


やっぱねえ、自ら計画しリーダーとして実行する山行は素晴らしいんだよ。成長するんだよ。なんでも自分で判断しなくちゃならないからね。でもさ、やっぱ自分より上の人間と登ることで得られるものも多いよなと再認識したわけです。


だから、これからは上の人間とも山に入ろうと思い改めたわけですよ。ただ、上の人間と入る際にも準備だけはしっかりして、自分の力量より相当上のルートに入る。そんな過程の中で、今回のように色々失敗できれば、それはまた新たな自分の成長に繋がるかもしれない。



話し戻して、そんなこんな初めての一ノ倉沢登攀は、烏帽子沢奧壁中央カンテの6ピッチ目で敗退という結果になりました。それでも尚わたしは書くよ。一ノ倉沢はなんというのか、挑戦しに行く場所に感じませんでした。あまりのロケーションの素晴らしさに、バカンスするような場所に感じられたのです。


例えば、わたしの後輩達ですら簡単と称して憚らない南稜ですら、わたしはあのスカイラインを登れるなら、難易度なんてどうでもいいじゃないかとさえ思えたのでした。


一ノ倉沢はこれからも永く付き合っていくことになると思います。どうぞ宜しく。取り敢えず、時間を空けずに中央カンテを最後までつめたいなあ。(おわり)