【事件報告】荒船山相沢奧壁の大氷柱における事件について | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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人の親になっても頂きを目指し、家族と共に攀じり続けるパパクライマーの記録

日時報告:2015125日(日)午後3時頃

天候:晴れのち曇り

状況:相沢奧壁の大氷柱右ルートのトップロープのシステム構築に用いていた環付カラビナが知らぬ間に残置カラビナ3枚に変えられていた。


 以下詳細。さて、数日前にアイスクライミングしてきたと投稿した相沢奧壁の大氷柱ですが、その日、じつは事件が起きていました。カラビナ掛け替え事件です。場合よっては人が死んでいる可能性もあった、クライミングしている身としては、絶対に起きてはならないことが起きてしまったとの思いから、報告させて頂きます。

 わたしたち4名(以下、栃隊と称する)が荒船山相沢奧壁の大氷柱(以下、本エリアと称する)に到着した時、本エリアには、2名(男11)と3名(男21)の先行パーティが取り付いていました(以下、先2隊と先3隊と称する)。栃隊は、両先行パーティと同じ右ルートを登りたいと考え、両先行パーティが登り終えるまで順番待ちをすることになりました。

 2隊が登り終え、先3隊のリードがトップロープ(以下、TRと称する)を設置して下りてきました。しかし、先3隊は、ふられ止めを逆のロープにかけてきてしまったとの理由から、先3隊は右ルートを登ることができない状況であることが判明します。そこで、栃隊のベテランが話しかけ、栃隊が右ルートに取り付き、登る過程で先3隊のふられ止めを修正しましょうということになりました。

 栃隊が右ルートに取り付き登り始めました。しかし、先3隊のリードは、やはり人にシステムを触らせるのはどうかと考えたのか、先2隊のはったTRを利用して、右ルートは登れないものの、より難しい中央ルートを登りだしました。結果、栃隊ベテランは先3隊のふられ止めには触れず、支点に自分たちのTRを設置して下りてきました。





 その際支点には、残置カラビナが4枚(1枚は開かないビナ)があったものの、“残置を用いてTRを構築してはいけない”という理由から、自身の環付カラビナを用いてTRを構築しました(上画像)。先3隊はゲートの開く残置ビナ3枚を用いてTRを構築していました(この時点でマナー違反だし、そもそも危険なのだが)。栃隊はTRのシステムを維持したまま、先3隊の残り2名がTRで登り終えるのを待つことにしました。

 その間、先2隊は中央にルートを変え遊んでいましたが、帰ることになり、残置ビナ3枚を先3隊がすべて使っているとの理由から、どのような懸垂システムを用いて下山するか支点にて悩んでいるようでした。先3隊に断りをいれてビナを1枚借りて下りた可能性も否定できませんが、たぶんゲートの開かないビナ1枚を用いて懸垂したものと思われます。

 この先2隊の懸垂下降してきた女性は、どうしたものかと悩んだけれど、栃隊の使っている環付は残置ではないと分かったから触らなかったと、断りを入れて帰っていきました。その後、隣の氷瀑エイプリルフールで登っていた某山岳会の皆さんが本エリアにやってきて、我々に断りをいれて、誰も取り付いていない左ルートを登り始めました。

 さて、そろそろ事件発生です。先3隊の残り2名が登りました。言動等からアイス経験薄であろう男性が登りました。支点まで登り、支点で時間をかけてなにかやっていました。その後、最後の女性の方が登られて、やはり支点で時間をかけてなにかやっていました。栃隊は、先3隊の最後の女性が支点に到着したのを確認して、最初の1人目(私)を登らせ始めました。支点にいる女性が懸垂するのに、わたしたちが登っていても邪魔にはならないルートだからです。

 そして、先3隊の女性が懸垂下降で下りてきて撤収しました。栃隊も2人目を登らせ、3人目にふられ止めと支点に用いている環付の回収をお願いして登らせました。そして、その3人目が登り終え、懸垂下降で下りてきて言ったのです。栃隊のTRに環付は用いられておらず、残置ビナ3枚でシステムが構築されていたと。栃隊の環付はどうなっていたのか尋ねると、なににも用いられておらず、ただ浮いていたそうです。





 つまり上記画像のようなことになっていたわけです。クライミングやっている人でなければ、ことの重大さが分からないかもしれませんが、これはあってはならないことが起きていたということを示しています。栃隊のシステムを誰かが弄ったということです。クライミングの大原則として、人のシステムやギアに触れてはいけません。誰かがかってに触れたり、過失で当たったりして、ビナのゲートが開かないように、環付(ロックされゲートが開かない)を用いているのに、わざわざそのロックを解除してまで環付を外すなんて、栃隊のベテランですら前代未聞とのことです(ぶち切れてました)。

 なんでこんなことをしたかは推測になってしまいますが、理由は2点くらいしか思いつきません。

 ①先3隊の懸垂をした女性が、残置3枚のビナで懸垂するより、環付で懸垂したほうが安全と考えて、無断でビナの掛け替えを実行した。

 ②先3隊の2番目に登った男性が、残置ビナ3枚より栃隊が用いている環付のほうが安全と考えて、無断でビナの掛け替えを実行した。

 どちらも考えられます。②はあり得ないと思われるかもしれませんが、②の2番目に登っていた男性は、支点に居続ける必要がないにもかかわらず、支点に長時間残りなにかをやっていました。そして下りてきた際に、4枚の内1枚がなかなか開かなくてと発言していた。

 わたしはその発言を受けて、ゲートの開かない残置ビナを指しているものとばかり思っていましたが、もしかしたら我々の環付がなかなか開かなかったと言っていた可能性があります。冬期グローブをして環付を弄るのは慣れなければ難しいです。時間がかかってもおかしくありません。推測に過ぎませんが、彼が支点でギアに触れてなんらかしらをやっていたのは事実でしょう。

 まあ、普通上記②のようなことは起きえないので、①と推理するのが正しいと思いますが、なんとも言い難いところです。仮に①であるとすると、①の女性が懸垂下降のシステムを作っている最中にわたしは登っていたので、登っている最中にビナの掛け替えが実行されたことになります。ビナの掛け替えはミスの起きる可能性は排除できない作業です。人が登っている最中に絶対行っていい作業ではありません。

 兎も角、①であろうと②であろうと、彼彼女らは、栃隊が使っていた綺麗な環付を残置であると判断した。残置だから共用品である。共用品なら掛け替えしてもいいだろうと思考したのかもしれません。その判断もミスであるし、仮に残置だったとしても他人が使っているギアに触れてはいけないのです。触るだけでもダメです!

 3隊のリード(一番知識があるように見えた男性)にも問題があります。こういった基礎というか大前提がなってない人間を支点に行かせてはいけないんです。行かせている時点でミスだし、または仲間の力量の把握が的確でなかったということです。たぶんリーダーであったであろう彼のミスです。

 しかし、こんなこと起きえますかね?わたしは最近、冬合宿準備山行(那須アルパイン)での若者たちの危ない登攀、冬合宿(涸沢西尾根)の際の穂高岳山荘遭難事件等から、自身の山行に及ぼす外的要因について考えてきました。自分が如何に準備しようとも他人のせいでリスクを負うことがある、そこについて事前に検討理解し、対処できるようにしておかなければ、どんなに自隊の準備をぬかりなく行ったとしても、リスクマネジメントには穴があるということ。単独山行から後輩や仲間と行くリーダー山行を重ねることで、リスクマネジメントには臆病なほど考えてきたけれど、自分の手の届かないところからリスクは降りかかってくるかもしれない。そんなことを考えていた矢先の事件でした。

 ビックリです。こんなことがクライミングエリアで起きていると分かると、おちおちクライミングできません。この前の所属山岳会の例会で、わたしも登攀指導員研修を受け修了証をもらった指導者側の人間なのだから、怒るところは怒ったり、相手の気持ちを考えない、時には命を守る指導も必要だと言われたばかりでした。

 事が起こってからでは遅い。やはり未熟なクライマーがいれば、問題が起きていなくても指導したり、周囲のシステムや行いをこっそりチェックしたり、いろいろやらなければならかったと反省しているわけです。先3隊とは会話したものの、残念ながら所属山岳会を聞かなかったので、注意をそくすこともできません。そういう情報にも関心をもつことが、自分のリスクマネジメントに最終的に繋がるんだと再認識したのです。

 わたしはこれから、自分が未熟であるのを棚上げしてですね、わたしでも分かる基礎的なことをやってないクライマーがいたら他人でも怒ることにします。優しく教えるなんて技術はまだ身につけてないから怒るしかない。でも、そういうこともやってかないと、結果的に自分に火の粉がおよぶわけだから致し方ないと腹をくくった。これからはやりたかないけど、できる範囲で口出すようにしよう。

 兎にも角にも、残置のギアでTRを作ってはいけません!残置のギアは懸垂下降用です。TRで遊ぶためのものではありません!

 また、人のギアには絶対触れてはいけません!そのギアが残置(共有物)であろうと、自分の隊の仲間のギアであろうともです!パートナーのギアであってもかってに触ってはいけません。他人が閉めた環付のロックを開けるんなんてもっての他です。これは基礎中の基礎ではなく、クライミングをやるための前提条件です。どうしても触らないといけない事情があるなら、本人に許可をとってから触ってください。クライミングやる人や山岳会指導者のほぼ全員が分かっていることだと思いますが、仲間や後輩にこういったことを徹底指導してください。宜しくお願い致します。

 因みに、犯人捜しをしたいわけではないので、悪しからず。

以上