近況460.冬型暴風雪のマッターホルンに挑む! | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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昨週末は八ヶ岳12日(アイス~赤岳主稜)の予定でしたが、高層天気図と睨めっこ。稜線上の風や前日の降雪(雪崩リスク)等を考慮して、予定を延期しました。で、近場で冬型の荒れ模様でも遊べそうなところはないかと、自分の計画案箪笥の引出を漁っていたら、丁度良いのが出てきた。厳冬期のマッターホルン山行である。


といっても、あのスイス・イタリアのマッターホルンではありません。会津のマッターホルンとの異名をもつ西会津は只見町にある里山、蒲生岳のことです。標高828mと低山ながら、急斜面と岩場からなす山容は、冬に登る人はまずいないという山です。


ただ、うちの山岳会のエベレストを登った先輩方は、この山で訓練をしたそうです。わたしも何れはエベレストと考えているので、いつかは厳冬期に入らねばと念頭にあった山です。今回はその厳冬期蒲生岳に挑んできました。その山行報告をお送りします。


山行報告【蒲生岳(厳冬期アルパインクライミング)】

1.山行記録



冬季に蒲生岳に登ったという記録を事前に見つけられず、特別先輩方から説明やアドバイスを頂いたわけでもないので、まずは駐車場より山頂までのルートファインディングが肝要です。夏と違って冬は自由にルートを取ることができますが、下からも何十ものクレバスの存在がはっきり分かる蒲生岳です。ルートを間違えれば死ぬ可能性もあります。



地元に置いてあった冊子の蒲生岳の姿が上画像です。これと比較すると、今回が如何にすごい積雪量であるか分かります。



登山口の鳥居も埋まっていたので、適当に入山して、山頂方面を見上げます。やはりうへえというくらいのクレバス群。訓練といえど、厳冬期の山に初登で挑むようなものなので、まぎれもない本ちゃんです。こんなに興奮することはありませんな!


まずオブザベ通りに取り付きたい尾根へスノーシューラッセルで目指します。クレバスを回避しながらラッセルし、尾根直下では岩肌に出るので、急斜面のクレバスだらけ&クライミングを余技なくされそうですが、そこは上手くブッシュ登りを駆使して乗り切りました。



尾根に出ると、そこに夫婦松という特徴的なポイントに到達。登ってきたそれが夏道上であることを確認できました。



尾根上は雪庇が怖いですが、クレバスの心配はあまりありませ・・・いえありました!尾根も急なところではバッカ、バッカと裂けていました!下がスラブや強いブッシュらしく、厚さ2~3mくらいの積雪が浮いているようです。そこに東北の低山ならではの湿った雪質。重さに耐えかねてずり落ち、裂けてしまうみたいですね。見る限り雪崩の後はないけれど、全層雪崩れはあっても驚きません。


そして尾根を直上すると、夏道なら北岩壁コースと鼻毛通しコースの分岐地点場所にででます。北岩壁コースは急過ぎてそのまま登りようもなく、両コースの間の急斜面ルンゼをつめることにしました。



北岩壁コース手前からルンゼに入る際は危険だったので、ザイルを出しての慎重なトラバースを余技なくされ、支点構築後にフィックスを張りました。画像は先にラッセルして上がっている私が上から撮影した支点にいる仲間2名。



トラバース後の急斜面ルンゼは、わたしが過去経験した最高の斜度でした。白馬主稜の核心部など比較にならないほどの斜度です。滑落したら100mは落ちてしまいそうでした。が、雪質は重いそれなので、滑落停止できるだろうと判断。フリーのわたしがトップでラッセルし、仲間2名はコンテにして登ってもらいました。コンテ初心者でも今回の雪質なら止まるとの判断でした。画像左の大岩が鼻毛通しという穴になりますが、穴は雪で埋まっていました。



急斜面ルンゼをつめていった先には、岩ともアイスとも言えない斜面が見えていました。そこで斜度もゆるんでいるため(65度くらい)、そこを登れるかなと考えていたのですが、取り付いてみたら甘かった。


足もなく、手もなく、ガチのドライツーリングを余技なくされる壁だったのです。挑戦してもいい斜度なのですが、如何せん支点が取れるところがない。カムを上げているのですが、決まりそうなところはなく、立ち木もない。仮にその65度斜面を落ちると、前述の過去最高斜面を100m落ちることになります。登攀チャレンジして落ちたら止まらない可能性濃厚。何度か取り付いてみたのですが、登攀不可能であると判断し諦めました。


右の鼻毛通し(大岩)の上を巻いて鼻毛通しコースに入るという判断も可能でしたが、クレバスの量や雪質がサラサラでトラバースが危険なので、そのルートはないと結論付けられました。


となると、北岩壁コースの取り付きまで戻り、北岩壁コースの反対側斜面を登るという案もありそうです。しかし、残念ながら、もはや時間的余裕は許されていませんでした。まさかの「山頂到達ならず」も頭に既にありました。間に合わないかな。どうだろう。


協議し、一度ないと判断していた岩壁をトラバースして、北岩壁コースの上部に躍り出る案が浮上してきます。



その場所にもっとも近くにいた仲間にザイルを出して偵察に行ってもらいました。すると雪の垂壁に近いが登ろうと思えば登れないことはないとの報告を受けました(自分は登りたくないけどと申し添えられて)。


てなわけで、自分がそこを抜けることになります。確かに垂直に近い雪面で、確保してもらい梯子を作るようなラッセルを慎重にしながら、なんとか抜けられたというそれでした。手前の岩壁には上げたカムは入りませんでしたが、ナッツなら入りそうなところがいくつかありました。


抜けることに成功し、フィックス張って後輩2名も上げて、少し登ると山頂が見えてきました。



途中で仲間に15時撤退を宣言していましたが、辛うじてその10分前に登頂に成功!僅か828mの低山でしたが、6時間の悪戦苦闘でした。しかし滅茶楽しかった。わたしはこういうのが楽しくてしょうがない♪



下山は2時間程度でしたが、急斜面の下山の処理、2度のトラバースした箇所も再度ザイルを出しました。自分たちのトレースが強風で綺麗に消されていたので、夫婦松前後のクレバス群もなかなか苦労しました。


2. 行動経過

8:50登山開始~14:50山頂~1640分下山


3. 装備

ハーフロープ50m×1、カム適度、スノーバー×1、土嚢袋適度、アックス×1本、アイゼン、スノーシュー、ビーコン、ゾンデ、スコップ、その他必要なギア類多数。


4. まとめ

強風、前夜からの降雪、雪崩リスク等々、上手く処理し、事故なく下山できてなによりでした。仲間も3箇所ばかり自分だったら撤退だと思える箇所が出てきたと言っていたので、上手く登らせることができて良かったと思います。ザイルも上手く使えたし、なによりサブリーダー的立場の仲間が見事に動いてくれたので、とても助かりました。


今回、冬型暴風雪時にこのような本ちゃんに挑んだのも、個人的にはこういった荒天時のほうが、雪崩リスクが低減すると思えたのと(低山だから快晴だと気温上昇を呼び雪崩れリスクが高まる)、ガスってもルートファインディングの心配が個人的にはないと思えたからです。当然、同じような山でも晴れに入るほうがいい時もあるでしょう。


ようは計画というのは計画立案即突撃ではなく、計画を作成してから寝かせてもんだり、想像を膨らませることが肝心なんだと思います。自分の中で厳冬期蒲生岳は快晴だと心配だななんて考えていたのが、トータルとして結果に繋がったのだと思います。ま、なにはともあれ最高に楽しい山行でした。めでたしめでたし。


追記)書き損ねてしまいましたが、過去最高斜度を登り詰めたところは、新雪サラサラの場所で、そこだけはラッセルの衝撃1つで、あたりにひびが入るような、今にも表層雪崩が起きる寸前というような場所でした。そういう箇所もあるので注意です。(おわり)